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脳外科麻酔の現場

脳外科麻酔についての備忘録 An actual spot of the neurosurgical anesthesia.

110.03. 術前評価


目次
110.03. 術前評価
○ 最近、リスク評価をウェブ上で行う新たな方式がACS NSQIP(アメリカ外科学会の手術の質改善プログラム)から提唱された。最新のACC/AHAおよびESC/ESAのガイドラインではこのNSQIP Surgical Risk Calculator (http://riskcalculator,facs,org/)の使用を推奨している。
◇辛島裕士、外須美夫 神経麻酔に求められる術前評価の知識 4 心血管系合併症を有する患者の術前評価  内野博之、川口昌彦 編 神経麻酔、東京、2016, p107-111

○術式の選択:CPT codeで番号を入力。ex 腹腔鏡下胆嚢摘出術ならば、laparoscopyと入力すると113個の術式が列記される。この中から47562 laparoscopy, surgical, cholecystectomyを選択する。 脳動脈瘤のclippingならば61700 surgery of simple intracranial aneurysm, intracranial approach, carotid circulationを選ぶ。
・代替法があるかどうか選択する
○年齢層:<65歳、65-74歳、75-84歳、≧85歳
○性別:female、male
○functional status:術前30日以内のPtから表示された自己管理の最良の機能的状態/レベル。
・indipendent自立:日常生活のいかなる活動も他人の援助を必要としないPt。
・partially dependent部分的要介護:日常生活活動のために他人の援助を必要とするPt。
・totally dependent全面的要介護:日常生活の全ての活動に全面的に援助を要するPt。
○緊急症例:主要な手術操作が、診断のために病院受診している間に実行されなければならず、かつ、外科医and/or麻酔科医が緊急の症例であると報告しなければならない。
○ASA class:ASA1;通常の健康なPt
ASA2;軽度の全身疾患のあるPt
ASA3;重度の全身疾患のあるPt
ASA4:常に生命を脅かす重篤な全身疾患があるPt
ASA5;手術なしでは生存する可能性がない死にかかったPt
○steroid use for chronic condition:慢性の状態に対してステロイドを使用しているPt
・手術前の30日間に、あるいはPtが手術の候補と考えられている場合、慢性の内科的疾患に対して、副腎皮質ステロイドあるいは免疫抑制剤が経口的あるいは経静脈的に投与されている。1回だけのパルス、限定的短期使用、10日以内の漸減使用は当てはまらない。
○手術に先立つ30日以内の腹水
・手術前の30日以内に理学的診察、腹部超音波検査、腹部CT/MRI検査で腹腔内に液体貯留が存在する。文書には活動性、あるいは肝疾患の既往歴のいずれか、または悪性疾患の二次的なものか記述されねばならない。
○手術前48時間以内の全身的敗血症systemic sepsis
・手術前48時間以内に次のようなことが起こった場合
 ・全身性炎症反応症候群systemic inflammatory response syndrome;SIRS
 ・敗血症sepsis
 ・敗血症性ショックseptic shock
○人工呼吸器依存性
・手術に先行する48時間以内のいつでも人工呼吸器補助呼吸が必要となったPt;CPAPによる睡眠時無呼吸sleep apneaの治療は含まない。
○播種性の癌
・Ptは主要臓器に転移した原発の癌を持っており、かつ、少なくとも以下の1つに当てはまる場合
 ・手術日時の1年以内に癌の積極的治療、外科的操作が転移性癌の治療ならば回答は”yes”
 ・Ptが転移性の病気の治療を受けないことに選ばれている
 ・Ptの転移性の癌は治療できないと考えられている
・以下の癌は播種性の癌として報告する:
急性リンパ性白血病acute lymphocytic leukemia (ALL)、急性骨髄性白血病acute myelogenous leukemia (AGL)、第4期lymphomaリンパ腫。
・以下のものは播種性の癌として報告しない:
慢性リンパ性白血病chronic lymphocytic leukemia (CLL)、慢性骨髄性白血病chronic myelogenous leukemia (CML)、第1~3期リンパ腫lymphoma、多発性骨髄腫multiple myeloma
○糖尿病
・外因性の非経腸的インスリンを毎日投与しているか、高血糖を避けるために経口血糖降下薬を毎日必要としている個人。糖尿病が食事療法だけでコントロールされているPtは含まれない。
○治療薬を必要とする高血圧症
・内科診療録で高血圧症の診断がついているPtおよび手術前30日以内に降圧治療を要するPt
○術前30日以内のうっ血性心不全
・30日以内に新しくうっ血性心不全(CHF)と診断されたPtあるいは手術に先立つ30日以内にCHFの症候または症状を持った慢性うっ血性心不全の診断のあるPtがこの定義を満たす。
○呼吸困難dyspnea
・急性の疾患の発症に先立って、手術の候補と考えられているPtの術前30日以内の通常の健康状態にある時のPtの呼吸困難
○1年以内の現在の喫煙歴
・手術のための入院に先立つ1年以内に喫煙したPt. 葉巻あるいはパイプまたは噛みタバコを喫煙するものは含まれない
○重症のCOPDの既往
・慢性閉塞性肺疾患(肺気腫and/or慢性気管支炎のような)で以下の1つ以上に当てはまるもの:
 ・COPDによる機能的身体障害(例えば 呼吸困難、日常生活ADLsが遂行できない)
 ・経口あるいは吸入による慢性気管支拡張薬を受けている
 ・FEV1 <75%が予測される
 ・肺疾患が喘息だけの者は含まない
 ・びまん性間質性線維症あるいはサルコイドージスのPtは含まれない
○透析
・腹膜透析peritoneal dialysis、血液透析hemodialysis、血液濾過hemofiltration、血液膜濾過hemodiafiltrationあるいはultrafiltrationを、手術に先立つ2週間以内に治療を要する急性あるいは慢性腎不全
○急性腎不全
・急速な腎機能の低下を伴った状態。以下の1つを満たすPt
・2度の測定でBUNの上昇かつ2度のCr>3mg/dl
・外科医あるいは内科医が急性腎不全と記載している、かつ以下の1つを伴う
 ・2度の測定でBUNの上昇
 ・2度のCrの結果が>3mg/dl
○BMI
・身長、体重がBMIの計算に使われる:in/cm、lb/kg

○以上の項目をチェックして以下のアウトカム、そのリスク%、平均のリスク、アウトカムの見込み
・重篤な合併症
・その他の合併症
・肺炎
・心臓の合併症
・SSI手術創感染
・尿路感染
・静脈血栓塞栓症
・腎不全
・再入院
・再手術return to OR
・死亡
・介護あるいはリハビリ施設への退院
・予測入院日数
                           <10/13/2017>

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201.11. くも膜下出血

201.11. くも膜下出血
○Vignette; サッカーの練習中に17歳の男子が突然の頭痛と短時間の意識消失。救急部到着時には傾眠傾向で、今までで最悪の頭痛を訴えていた。BP186/97mmHg、神経学的診察では正常、単純頭部CTでびまん性のくも膜下出血あり。側脳室の側頭角temporal hornの拡大が見られた。このPtのさらなる評価と治療はどうすべきか
◌[The clinival problem]
・先行する外傷のないくも膜下出血SAHは、80%の症例は頭蓋内の動脈瘤ANの破裂によって生じる。その他の原因としては血管奇形vascular malformation、及び血管炎vasculitisがある。SAHはUSAでは全脳卒中の5―10%を数える。罹患したPtは他の脳卒中Ptよりも若い傾向があり、生産的生命の大きな喪失となる。生き延びた動脈瘤性くも膜下出血AN-SAHの中で半数は長期間の神経生理学的損失を被り生活の質が低下する。ANを早期に確認し治療することはANの破裂を予防し、初期の破裂による続発症に対処することができる。ANによって生じたSAHではない場合(例えば動静脈奇形AVMに伴う症例の場合)にはインターベンションが適当であるかもしれない。しかし、非動脈瘤性SAHの場合10%までの症例では血管異常を含まないので、外科的あるいは血管内治療は必要とは考えられない。
◌[頭蓋内動脈瘤]
・頭蓋内ANは人口の1―2%に起きる。ANは典型的には頭蓋内動脈の分岐点に形成される。(Fig1.と相互する図)2つの流出分岐の間の壁に血行動態的負荷がかかり、その領域を弱める。頭蓋内ANのリスクは家族歴のある人で増加する。(ANを持つ人の1等身)、そのようなイベントを持つ1等身の親族が2人以上ある人は大きなリスクがあるとされている。ある種の結合組織病(例えばEhless-Danlos症候群)がある人、多嚢胞腎polycystic kidney diseaseのある人ではリスクが増える。AN破裂のリスクの増加と関連した因子には、黒人、ヒスパニック系、高血圧症、現在の喫煙者、アルコール中毒、交感神興奮薬の使用、7mmより大きなANがある。
・頭蓋内の未破裂ANの発見率はCTやMRIがより一般的になり増加した。頭蓋内未破裂ANの治療は議論の起きるところであるがここでは取り扱わない。
・報告されたAN-SAHの頻度は世界中で大きく異なっている。中国での人口10万人当たり2.0例から、フィンランドの人口10万人当たり22.5例まで、変動は各国の検出率の違いを反映していると思われる。USAでは2013年、全国入院Ptサンプル調査で、成人年間10万人当たり14.5人のAN-SAHの入院があった。AN-SAHは男性より女性で多く、頻度は年齢と共に上昇し、50歳台でピークとなる。
・ANが破裂すると頭蓋内の突然の悲劇が起きる。血液は動脈圧と頭蓋内圧が破裂部位と同じになり、出血部位で血栓を作り出血を止めるまでくも膜下腔に流入する。報告された最初の出血または再出血の結果による死亡率は25―50%である。この見積もりは医療を受けずに死亡してしまった人を全て数えているわけではない。
◌[sign and symputome]
・動脈瘤性SAHの極めつけの症状は「人生最悪の頭痛」である。頭痛の症状は突然で、頭痛は激しく、直ちに最大の強さになる(雷に打たれたような頭痛thaunderclip headacheとして知られている)。10―40%のPtでは頭痛は警告の漏れか、「見張りsentinel」が先行している。それで、ANを防ぎ、すぐさまの破裂のリスクを取り除くことができる。
・2つの無作為試験が頭蓋内ANの破裂に対する、血管内治療と開頭手術治療を比較した;International Subarachnoid Aneurysm Trial(ISAT)とBarrowRuptured Aneurysm Trial(BRAT)である。血管内治療よりも開頭手術が明らかに跡形もなく直し、大きな永続性があるにも拘らず、両試験共に、開頭手術より血管内治療の方が1年目の機能的アウトカムが良好であると示した。
・ISATでは多施設で、ANが開頭手術でも血管内治療でも適応があると考えられるPtにおいて、1年経過後の要介護あるいは死亡の率が血管内治療群では23.5%で、開頭手術群では30.9%であった。(絶対リスク差は7.4%、95%信頼区間は3.6―11.2)。さらに加えて血管内コイル治療群は開頭手術を行った群よりも7年経過後の死亡率が低く、痙攣のリスクも低かった;再出血はめったにないが、開頭手術群より血管内治療群でより多かった。
・BRATは単一施設内試験であるが開頭手術に比べて血管内治療群で1年目の機能的アウトカムの観点で同等の利点があった。両群の差は3年でも6年でも有意差はなかった。ISATと違ってBRATはエントリー基準としてどちらの治療にも適しているという解剖学的必要性は含まれていないが、無作為に血管内治療に割り当てられたPtの1/3以上は、大半は動脈瘤の解剖学的な点により、あるいは血管内治療より開頭手術を好む外科医のために反対に開頭手術群に代わっている。
・ISATの結果はPtはより低侵襲の治療を好むという事実と同時に、破裂ANの血管内治療への劇的なシフトを結果として起こしていた。しかしながら開頭手術は頭蓋内圧の亢進したPtあるいは脳内血腫により、神経学的欠損を起こしているPtでは好ましい。ANが血管造影では見えづらいPt、及びバイパスによる再血行が必要と考えられるPtでは開頭手術が好ましい。前方循環の40歳以下のPtで神経学的状態が良好な場合も、血管内治療より開頭手術の方が耐久性も大きく、ANの再出血のリスクも低い。従って、Ptは外科医が経験を積んで、技術もあり、開頭手術の血管内治療もできる手術例の多い脳血管センター(high volume center)で治療されるべきである。
◌[SAHとAN治療から起きてくる合併症の治療]
○血管攣縮と脳虚血
・AN-SAH後に血管造影で見られる脳血管の狭窄(血管攣縮vasospasm)はPtの70%で起きる;その過程は一般的にAN破裂の3―4日ごに始まる。ピークは7―10日で14―20日後に解決する。遅発性の脳虚血はPtの1/3で発症する巣症状(局所的)神経学的欠損の臨床症候群で典型的にはAN破裂の4―14日後で、SAHが起きた後の主たる死亡や障害の主原因である。
・一般的に血管攣縮が遅発性脳虚血を起こすと信じられているにも拘らず、最近のエビデンスは、SAH後に起きてくる血管及び神経の変化の多様性がその病因に寄与していると示唆している。遅発性脳虚血は血管造影上の血管攣縮を伴ったPtの1/2以下で進展し、虚血は攣縮が起きている血管から供給されている領域に一貫して起きるのではない。カルシウムチャンネルブロッカーであるニモジピンnimodipineは遅発性脳虚血のリスクを減らし、SAH後の神経学的アウトカムを改善する唯一の薬物であると知られているが(下でさらに論議する)血管攣縮の頻度や重症度を減らさない。意味ありげに血管造影上の血管攣縮のリスクを減らす薬物の臨床試験では、遅発性脳虚血の進展や臨床的アウトカムについて測定できるほどの効果は見られなかった。その結果、血管攣縮以外のSAHの続発症の可能性が、SAH後の貧しいアウトカムのメディエータ―及び治療の可能性のある目標として探索された。
・最近nomodipineが経口的に全てのPtに発症から21日まで投与されることが推奨されている。無作為化試験のCochraneレビューではではnimodipineはSAHのPtの1/3で貧困なアウトカムのリスクを減らした。
・通常の循環血液量と正常のヘモグロビン値の維持は遅発性脳虚血のリスクを減らしたが、血管攣縮の治療の為の予防的な循環血液量の増加とバルンによる血管形成術は(遅発性脳虚血の治療的、放射線科的エビデンスはなく)がっかりする結果になっている。
・鈍麻した、あるいは昏睡のPtにおける遅発性脳虚血を臨床的検査では検索できないかもしれない。TCD(transcranial doppler ultrasonography)経頭蓋骨超音波ドプラー法はSAH後の血管攣縮を検索する非侵襲的検査として広く行われているが、その有用性については議論がある。Perfusion CTは新しく神経学的欠損が認められたPtで脳虚血の可能性のある領域を同定するのに使われうる。血管攣縮があろうとなかろうと臨床的に意味のある遅発性脳虚血が疑われるならば、高循環血液量hypervolemiaと高血圧hypertension(輸液とαアドレナジック薬の静脈内投与によるdouble “H” therapy)は脳灌流を改善するために推奨される。もしも遅発性脳虚血が攣縮している主要脳動脈の領域に起こるならば、脳血管形成cerebral angioplasty、選択的血管内血管拡張療法あるいは両方の方法が高血圧を起こしても臨床的改善が見られない症例では考慮されうる。
○水頭症hydrocephalus
・脳の底部で大きな血管を取り巻いているくも膜脳槽を通じている脳脊髄液の正常の循環を血管外に流出した血液がブロックするために、SAHのすぐ後に水頭症が起きるかもしれない。水頭症の発症の見積もりは15―85%である;ほとんどの症例は臨床的に重要ではない。水頭症が脳症encephalopathyを引き起こすような症例では、水頭症の管理は典型的には脳室外瘻の造設である。それによって一般的には神経学的に改善される。代替案として腰椎ドレナージlumbar drainagが急性水頭症の治療として行われ、血管攣縮のリスクを減弱する;しかし閉塞性水頭症と、脳室内圧の上昇を生じる実質内血腫の場合は腰椎ドレナージは禁忌である。慢性の症候性水頭症はPtの1/3まで発症し、脳脊髄液の永久的分流のためにV-P shunt脳室腹腔シャントで治療される。水頭症はSAH後、数日から数週間で発症するかもしれない。当初、回復が良かったPtの状態が平行線か低下する場合は疑わなければならない。
○内科的合併症medical complication
・AN破裂したPtは、多くの危機的な病気では一般的な内科的合併症のリスクがあり、それらはできれば脳神経的集中治療に特化したICUで治療されるべきである。一般的な内科的管理の詳細な議論はこの文献の範囲を越えているが、ゴールは正常循環血液量euvolemia、正常体温、低血糖や著しい高血糖を避け、電解質バランスを保ち、頭蓋内圧の上昇の再燃を避けるために十分な換気(昏睡Ptのために)が必要である。
・深部静脈血栓はSAH後には比較的よくあることで、特に動かないようにされたPtでは、通常の予防が推奨される。通常の間歇的空気圧迫や、破裂ANが治療されたのち、24時間からPtが動けるようになるまで未分画ヘパリンが推奨される。しかしながらPtが多くの侵襲的治療を受けなくてはならない場合は深部静脈血栓の予防の為の抗凝固にはリスクが伴う。
◌[未確定な領域]
・インターベンション後の血圧と循環血液量の状態volume statusと遅発性脳虚血の適切な管理のゴールは未確定である。SAHのリスクを減らすための戦略を導く無作為比較試験のデータが少しある。無症候性の深部静脈血栓の症例を同定するためにデザインされたスクリーニングプロトコルがあるが価値は不明である。SAHは甲状腺と副腎機能に影響があるが明らかなインターベンションの利点を示すにはデータが不足している。
・血管内治療の付属物としてバルン先端マイクロカテーテル、ステント、流路変更ステントなどが、広基ネックの紡錘形AN処理のために開発されたが、それらの付属物はしばしば抗血小板治療を要し、出血のリスクが付随している。これらの付属物は急速に発展しているのでリスクと利点に関するデータがもっと必要である。
◌[ガイドライン]
・アメリカ心臓病協会AHAとアメリカ脳卒中学会ASAの執筆陣はAN-SAHの管理のために2012年にガイドラインの更新、出版した。この論説における推奨は全般的にこれらガイドラインと内容が一致している。
◌[結論と推奨]
・the vignette文章の初めに記載したPtの臨床的、放射線科的(画像)所見はSAHと一致する。この出血源を同定するために、カテーテル血管造影が行われた。ANは最も一般的な原因であり、もしも同定されたなら、それに続く30日以内に再出血のリスクが非常に高い;それで我々は直ちに治療することを推奨する。無作為試験のデータは開頭治療よりも血管内治療が全般的な機能性アウトカムは良いことを示している。しかしながら開頭治療(外科的クリッピング)が、ANのある種の顔つき、特徴を根拠に好まれるかもしれない。(例えば、ANの形態的特徴、及び大きな血腫を伴っている場合)あるいは若いPt、無作為試験で開頭試験の耐久性が優れているなど。このPtの年齢、その他の健康状態、ANの部位が前方循環にあることなどの点から、我々は特化した経験ある外科医による開頭治療を推奨した。もしも開頭治療の専門的知識を持った外科医が、そのセンターに居なければ、すぐさまの再破裂のリスクを取り除くために血管内治療が提供されるであろう。
◇Michael T. Lawton, M.D., G. Edward Vates, M.D., Ph.D. Clinical Practice Subarachnoid Hemorrhage N ENGL MED 377; 3 NEJM. ORG July 20, 2017, p257-265
                               <9/27/2012>

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50.07.02 麻酔中の人工呼吸、肺保護換気

50.07.02 麻酔中の人工呼吸、肺保護換気
○ [要旨]
◌背景:低い1回換気量low tidal volumetoと呼気終末陽圧positive end-expiratory pressure(PEEP)を使用した肺保護換気lung-protective ventirationは多くの状態の悪いPtのケアで最良の治療best practiceであると考えられている。しかし、大手術を受けている麻酔下のPtにおけるその役割は未知である。
◌方法:多施設、二重盲検、並行群間比較試験において無作為に400名の成人で、腹部の大手術後に中等度から高度の肺合併症リスクのあるPtを非肺保護換気群と肺保護換気群に割り当てた。一次アウトカムは術後7日以内に起こる大きな肺合併症と肺外の合併症とした。
◌結果:2つの介入グループは基礎的に同様の特性を持っていた。治療企図解析intention-to-treat analysis(ITT)で一次アウトカムは肺保護換気群に割り当てられた200名中21名(10.5%)で起こった。それに比べて、非肺保護換気群では200名中55名(27.5%)であった(相対リスク0.40、95%信頼区間[CI]0.24 to 0.68、P=0.001)。術後7日以上では肺保護換気群中10名(5.0%)が急性呼吸不全のために非侵襲的人工呼吸あるいは気管挿管を必要とした。それに対して非肺保護換気群では34名(17.0%)だった(相対リスク0.21, 95%CI[-0.14 to -0.72], P=0.006)
◌結論:非肺保護換気の治療と比べて肺保護換気戦略は腹部大手術を受ける中等度から高リスクPtで臨床的アウトカムを改善し、ヘルスケアの利用を減らした。
○世界中で毎年2億3000万人以上のPtが全身麻酔と人工呼吸を要する大手術を受けている。術後の肺合併症は有害な臨床的アウトカムとヘルスケア利用の影響を受けている。それ故、これらの合併症の予防は病院内治療の質の物指になっている。以前の大きなコホート研究で全身麻酔を受けたPtの20―30%は、術後肺合併症の中等度から高リスクであった。
・高い1回換気量high tidal volume(10―15mL/kg予測体重)での麻酔が低酸素血症hypoxemiaと無気肺aterectasisを予防するために伝統的に推奨されてきた。しかしながら経験的にあるいは観察研究から機械的換気―特に肺胞の過伸展を起こす高い1回換気量―は人工呼吸器関連肺障害(VILI)を起こし易く炎症性メディエータの全身的放出を通して肺外の臓器障害を起こし易い。
・肺保護換気lung-protective ventirationは低い1回換気量と呼気終末陽圧positive end expiratory ventiration(PEEP)、及びリクルートメント(間歇的肺過膨張)を含めて、急性呼吸促迫症候群ARDSのあるPtの死亡率を減じ、多くの重篤なPtの治療に最も有効な方法であると考えられている。この方法はより広範な人々にとって有益かもしれないと思われているが、一部の医師は外科的状況で肺保護換気の利点に疑問を持っている。特に、高い1回換気量でPEEPなしの麻酔はありふれた方法であり、通常の麻酔で肺保護換気を受けているのは20%以下である。
・Intraoperative Protective Ventiration(IMPROVE) trialを、低1回換気量、PEEP及びリクルートメント操作を組み合わせた予防的肺保護換気の多面的な戦略が、非肺保護換気の標準的治療と比較して腹部外科手術後のアウトカムを改善できるかどうか決定するために行った。
○[方法]試験のデザインと監督
・The IMPROVE試験は研究者主導investigator-initiated、多施設、二重盲検、階層化、対象群別parallel-group、臨床試験である。
・1/31/2011―8/10/2012 7大学教育病院
・40歳以上、2時間以上の待期的腹部大手術で腹腔鏡下あるいは非腹腔鏡下手術を受けた、術前の肺合併症のリスクインデックスが2以上、リスクインデックスは1~5に分かれ高リスククラスは術後肺合併症の高リスクに当たる。手術前2週間以内に人工呼吸を受けたPt、BMIが35以上、術前2週間以内に呼吸不全や敗血症の既往がある、胸腔内あるいは緊急手術を要したPt進行性の神経筋疾患のあるPtは不適格とした。
○[介入]
・volume controlled mechanical ventirationを行い、2つの階層に分けた。
・非肺保護換気群:1回換気量10―12mL/kg予測体重、PEEPなし、リクルートメント操作なし。
・肺保護換気群:1回換気量6―8mL/kg予測体重、PEEP 6―8cm、リクルートメント操作;30cmの持続陽圧気道。
・麻酔中各群とも気道内圧は30cm水柱以下とした。他の換気条件は2群とも同一。
・予測体重predicted body weight;PBWを使用。(♂⇒50+0.91(身長cm-152.4)、♀⇒45.5+0.91(身長cm-152.4)
・動脈血酸素飽和度低下arterial desaturation(末梢血酸素飽和度≦92%)のエピソードがあったら吸入酸素分画FiO2を一時的に100%まで増加するのは許可した。非肺保護換気群のPtで必要ならばPEEPの使用、リクルートメント操作あるいは両方とも許可した。
・術中及び術後期におけるPtケアの全ての観点に関する決定は、全身麻酔、輸液、予防的抗生物質投与、術後疼痛管理はそれぞれのセンターのスタッフの専門的知識と、日常臨床実践に基づいて主治医によって行われる。
○[結果outcome]
・一次アウトカムprimary outcomeは手術後7日以内に起きた大きなmajor肺合併症及び肺外合併症である。大きな肺合併症は、肺炎(標準的基準によって定義された)あるいは急性呼吸不全に対して侵襲的または非侵襲的換気が必要なPtである。重大な肺外合併症は敗血症、重症敗血症、敗血症性ショック及び死亡である。
・二次アウトカムは、30日以内の観察気管内の、いかなる原因にもよる肺合併症でスケール0(肺合併症なし)から4(最も重症な合併症)に階層化されたもの;手術中の換気に関連した有害事象;術後のガス交換、予測されないICU入院;肺外合併症;ICU及び病院入院期間;術後30日以内に起こったいかなる原因にもよる死亡。
・肺合併症は分けて分析された;特に急性呼吸不全のための侵襲的、非侵襲的換気、術後無気肺の進展、肺炎、急性肺損傷acute lung injury、ARDS,これは標準的基準で定義された。
・肺外合併症は全身炎症反応systemic inflammatory response syndrome(SIRS);敗血症;重症敗血症及び敗血症ショック、及び外科的合併症;腹腔内膿瘍、縫合不全、予期せざる再手術。
○[結果results]
◌[研究対象]2011年1月~2012年8月、腹部手術を待期している計1803名から試験適格性を評価した400名のPtが治療企図解析(ITT解析)に含まれ、術後30日間追跡した。非肺保護換気群の1名が肺保護換気を受けたがそのまま非肺保護群に含めた。基本的両群の特性に差はなかった。開腹手術は主に癌切除で、非肺保護換気群で156名(78.0%)、肺保護換気群で159名(79.5%)だった。P=0.86.  
術中操作非肺保護群 200肺保護群 200P<0.001
1回換気量mean±SD11.1±1.1mL/kg6.4±0.8mL/kg
PEEP06cm(6―8)
Recruitment操作09 (6―12)
外科手術の型、時間差なし
Epidural analgesia差なし
出血量差なし
輸液量差なし
昇圧薬投与差なし
術中PaO2↓rescue5*0 *PEEP1,RM2,PEEP+RM2


◌[アウトカム]
Primary outcome
非肺保護群 肺保護群
重大肺合併症POD≦7 55 (27.5%) 21 (10.5%) adj RR0.40[0.24-0.18],P<0.01
Secondary outcome
肺合併症POD≦7 72 (36.0%) 35 (17.5%) adj RR0.49[0.32-0.74],P<0.001
major肺(grade≧3)       >
major肺,肺外POD≦30       >
抜管後低酸素POD1 差なし
術後換気補助を要す急性呼吸不全で補助換気
侵襲的,非侵襲的≦POD7 34 (17.0%) 10 (5%) RR0.29[0.14-0.61],P=0.001
侵襲的,非侵襲的≦POD13 (18.5%) (6.5%) RR0.36[0.19-0.70]P=0.003
侵襲的,非侵襲的≦POD30       > P<0.001
ICU入院≦POD30 (12.5%)   ≒ (11.0%) RR0.88[0.99-1.59],P=0.67
死亡率 POD30 (3.5%)   ≒ (3.0%) RR1.13[0.36-3.61],P=0.83
median hospital stay  >

○術後合併症の率が予想より多かったが、これは合併症のリスクが低いPtを除外し、合併症の率が増加する腹部大手術のPtを対象にしたからである。
・400名のうち19名が術後肺炎、47名が侵襲的挿管あるいは非侵襲的呼吸管理を要する呼吸不全になった。これは先行研究と差がない。我々の肺保護換気戦略は術後7日以内の換気補助を要したPt数の69%減らした。
○ この研究では、術中の肺保護換気の多面的戦略は、非肺保護換気に比べて術後合併症が少なく、ヘルスケアの使用を減らした。
◇ Emmanuel Futier, et al A Trial of Intraoperative Low-Tidal-Volume Ventiration in Abdominal Surgery N.Engl J Med 2013; 369: 428-37    <9/2/2017>

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130.01.02. 高血圧症、ARBによる血圧低下

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130.01.02. 高血圧症、ARBによる血圧低下
○[経験] 70歳代女性。158cm、57kg。GbS+CBDSで胆嚢胆管炎+急性膵炎併発して入院。ERCPでCBD截石、胆道stent留置。炎症軽快後、LapC予定で入院。術前合併症:高血圧症でARBオルメテック20mg。DM+でDPP4グラクティブ50mg+SGLT2ジャディアンヌ10mg+。BS365-246-215→Insulin regularでスライディングスケール治療。Ope当日朝ARM内服継続+。手術室入室時BP130/72,pulse108bpm.
・fentanyl100μg+RFアルチ0.15mg/kg/h+バプロポフォール10mg/kg/hで緩徐に導入。Rb50mgで気管挿管。導入後、BP82/58―60/40と低下し、phenylephrineネオシネジン0.1mgずつiv×8回⇒ネオシネジン0.5―0.8mg/hでciv。BP85-100/48-62で維持。ARBオルメテック10mgをope当日朝まで内服していたための低血圧と思われる。覚醒、術後経過は良好。入院時、導入前から頻脈だったので昇圧薬としてphenylephrineを使用した。
○ 降圧薬の術前中止
・β遮断薬は(2014年ACC/AHAガイドライン)、高血圧などの適応疾患に対して投与されている場合には周術期も推奨されるべき(classⅠ)
⇒以前はβblockerは術中に思わぬ除脈を起こす危険性があるので中止するとされていた。
・アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は術中に著しい低血圧をきたし、昇圧薬にも反応しないなど弊害が多いため、周術期は中断することが推奨されていた。添付文書にも「手術前24時間は投与しないことが望ましい」
・2014ACC/AHAガイドラインでは周術期に継続することが妥当。ClassⅡa
◇ 濱田宏 症例検討 入室時の血圧が200/115mmHg このまま麻酔をするか? LiSA vol27, no2, 2015, p170-173
○ 血圧は交感神経とレニン-アンギオテンシン系とバソプレシンによって制御されている。ACEIによりレニン-アンギオテンシン系が抑制されているPtは麻酔導入による交感神経系抑制により低血圧を起こす頻度が高い。ARBを投与されているPtでは麻酔導入により低血圧となる頻度が高く、薬物治療に反応しにくい。手術当日はARB投与は中止する。
◇稲田英一 麻酔への知的アプローチ 第9版 2015 日本医事新報社 東京,p55-56
                       <7/3/2017>

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10.03.04.02. 手術室外でのカプノメータ(2)

目次
10.03.04.02. 手術室外でのカプノメータ(2)
○ カプノグラフィ、特に手術室外での使用についての総説
◇Brabani Shankar Kodari, MD : Clinical Concepts And Commentary: Capnography Outside the Operating Room Brigham and Womens’ Hospital, Harvard Medical School, Boston Mass USA
○[手術室外でのカプノグラフィの現在の状態]
・過去2年間にASA(New standards of Basic Anesthesia Monitaring, July 2011発行), AAGBI(Updated statement from AAGBI, May 2011), American Heart Association(2010)が手術室以外のカプノグラフィの使用について推薦を改訂、最新化した。最近の研究ではICUにおけるカプノグラフィの未使用に関係する罹病率と死亡率が強調された。加えてFOX newsとNational Public Radioが心肺蘇生(CPR)におけるカプノグラフィの役割を宣伝し公共の関心がもたらされた。
○[鎮静処置Procedual Sedationのためのカプノグラフィ]
・interventional radiology透視下血管内手術、電気生理学、心臓カテーテルの進歩と共に手術室外でなされる鎮静を要する処置の数が相当に増えている。これらの処置の多くで鎮静は外科的、放射線科的、内視鏡的処置を行っている医師の管理のもとに、看護師によって行われている。これらの鎮静処置症例で低酸素症が起きていることはよく知られている。77例の救急室での処置にミダゾラムとケタミンが使われて、6%が陽圧呼吸を要するapnea無呼吸になり、75%がこの処置のいくつかの時点で低酸素症(酸素飽和度<90%)になっている。地域救急部門での鎮静処置の分析(ProSCED)のデータでは、地域病院の救急室で行われた処置(14病院の1000名)の結果は全合併症率4.1%で、Ptの1.1%は補助呼吸を要した。内視鏡的逆行性膵胆管造影ERCPの研究では96%のPt(3058/3179)が消化器病医の監督下に鎮静を受けて、全死亡率は0.06%であった。ミダゾラムmidazolam、プロメサジンpromethazine(ヒベルナ)、メペリジンmeperidine(オピスタン、デメロール)がこれらの症例では使われていた。124例のPtでは呼吸抑制と傾眠に対し拮抗薬が必要であった。このサブグループでは罹病率6%、死亡率1.6%であった。上記研究で使われたいくつかの薬物をプロポフォールに替えても低酸素症のリスクを排除できなかった。非麻酔科医、(麻酔科医以上に換気(呼吸)を安全に維持することが上手ではない)誰かによって鎮静が行われた時に、より厳重なモニタリングの基準が強調されなかったということは皮肉である。
・さらに、多くの処置を行う部署は、しばしば主に救急援助を供給する手術室職員から遠いところにある。それ故、手術室外で行われた処置の症例のためにモニタリング基準が再評価されるべきである。ASAとAAGBIは鎮静処置の場所に拘りなく、鎮静が行われるPtの安全性を高めるために、カプノグラフィによるモニタ換気のために2011年改定基準を出版した。中等度から高度(深い)鎮静の間のカプノグラフィによる換気の持続的モニタリングの基準は、個々のPtが投与された鎮静薬にどのように反応するか予測することは困難であるという事実に基づいている。
・救急室でプロポフォール鎮静を受けるPtにおけるRCTで、一方のグループは医師が治療してカプノグラフィを利用し、他のグループはそれを受けなかった。低酸素症は酸素飽和度が15秒以上にわたって93%以下になる時と定義され、呼吸抑制はPETCO2が50mmHg以上でPETCO2値が基準線より10%以上、絶対的に増加あるいは低下した時、またはCO2波形が15秒以上見られなかった時と定義された。低酸素症hypoxiaはカプノグラフィを付けた対象の25%で観察され、カプノグラフィを目隠しした対象の42%で見られた(P=0.035)。この研究の意義で別の興味深い観察はカプノグラフィの変化は全ての低酸素症の症例で呼吸抑制の前触れになったということである(感度100%,特異性64%)。低酸素症になる呼吸抑制のカプノグラフィ上のエビデンスの中央値は約60秒だった(区間5―240秒)。最近のメタアナリシスは、これらの症例でカプノグラフィがあろうがなかろうが鎮静処置の間の有害な呼吸イベントを含んだ研究を論評した。カプノグラフィを使わなかった症例の中で鎮静を受けているPtのモニタリングの基準はパルスオキシメトリpulse oxymetryと目視による胸部拳上であった。その結果、呼吸抑制は、鎮静処置の間にパルスオキシメトリと目視の胸部拳上に加えてカプノグラフィが使われた場合と使われなかった場合でおよそ17倍であった。さらに最近発表された研究ではhypoxiaは最も一般的な消化器内視鏡処置の間でさえ起きている。
・プロポフォール鎮静下(カプノグラフィあり)で行われた大腸内視鏡検査はカプノグラフィが目隠しされたグループと比較してカプノグラフィが早期の介入の引き金になり、酸素飽和度低下oxygen desaturationの頻度を減少させる。さらにカプノグラフィの積極的効果は高度の低酸素血症(酸素飽和度<85%)の発生率を比べた時によりはっきりと言明することができる。カプノグラフィを使用したグループは標準的モニタリングのグループと比べてこれらのイベントの頻度が半分以下になった。これらの研究は鎮静処置中のカプノグラフィの重要性と有用性を示している。しかし、これらでは酸素あるいは空気で呼気ガスが希釈され、呼気終末CO2の数値が正常のものより低くなっていることを強調しなくてはならない。この様な状態で大事なことは基準PETCO2値、波形の変化、呼吸数の変化の検出である。それぞれの変化は鎮静供給者がより厳密にPtの気道閉塞、呼吸抑制について警戒すべきである(Fig.3)。もしも努力呼吸が目視されたら下顎の挙上のような簡単な操作で過度の鎮静とPETCO2値の増加の結果としての部分的気道閉塞に打ち勝つことができるであろう。

Fig.3. 鎮静後のカプノグラム。(A)に比べて(B)では高さが減少している。(D)では呼吸数が(C)に比べて減っている。鎮静前のカプノグラムと比べて鎮静中のカプノグラムの変化を認識するのが重要である。鎮静前のカプノグラムの波形は呼出されたPCO2が酸素または空気による希釈次第である。

○ASAとAAGBIの推薦は、主にASA及びAAGBIメンバーだけに適応され一般的に広く受け入れられてはいない(American Society of Gastroenterologists Document 2012)。この相違はしばしば国際的協会の会議の、手術室外での鎮静処置のためのカプノグラフィの導入を考慮する際の議論のカギになる。協会のグループメンバーに、カプノグラフィはPtの安全性を保証する重要な道具であると確信させるのは麻酔科医の責任である。American Society of Gastroenterologistsはカプノグラフィは全ての中等度鎮静の症例に使われるべきであるというASAやAAGBIの基準に同意していない。今年出版された声明で消化器内視鏡の鎮静が関与した死亡率は8/10万でこれは非常に安全であると彼らは考えている。現在、麻酔関連の死亡率は術後病院退院数100万人当たり8.2である。これは全身麻酔の結果よりも消化管処置中の死亡がに10倍であることを示している。パルスオキシメトリと併用したカプノグラフィはASAによって導入されたが、80年代中ごろのこれらの新しいデバイスが死亡率を減らしたというRCTの成績に基づいたものではなく、パルスオキシメトリと併用のカプノグラフィが麻酔による罹病率と死亡率に関与する麻酔中の不幸な事故の93%を予防したという論理的な結論に基づいたものである。死亡率に関するパルスオキシメトリとカプノグラフィの直接的利点を示す前向き無作為比較研究がないにも拘らず、麻酔の死亡率を1/1万から1/10万麻酔へと減らした、これらの決定の潜在的利点が分かった。
・消化管処置は思い描かれているほど良性(穏やか)ではない。ASAのClosed Claims Database Analysisによればクレームの24%は内視鏡関連である。カプノグラフィはこれらのいくつかは予防できた。American Society of Gastroenterologists文書は鎮静を要するERCPと内視鏡的超音波検査でのカプノグラフィの有用性に同意したが、通常の内視鏡検査に対するカプノグラフィの使用には激しく反対した。しかし最近の研究でカプノグラフィは通常の大腸内視鏡の時に低酸素症を50%以上減らしたことを示し強調している。この種の研究は消化管医や他の臨床医の理解を変え近い将来カプノグラフィの価値の認識を変えるだろう。
・その間に我々は手術室外での鎮静のためのカプノグラフィの導入についての議論にどのように対処すべきであろうか。7つの枝分かれした議論があるだろう。
(1)closed claimsのデータベースの中で最も一般的な損害のあるイベントは呼吸系のイベントである。
(2)低酸素症のエピソードはカプノグラフィがある時よりもない時の方が起こりやすく、カプノグラフィは、介入なしでは低酸素症へ導かれ易いイベントの検出を促進する。
(3)低酸素症の発生はERCPや超音波内視鏡検査の時に限らず大腸内視鏡検査のような通常の処置でも起きる。
(4)検査(処置)を行っている医師は彼または彼女のPtが検査中に低酸素の領域に入らないように十分慎重であるべきである。
(5)日常的にカプノグラフィを使い、その使用と理解の経験を経て、鎮静の供給者はより困難な症例でカプノグラフィを正確に解釈することができるようになるだろう。
(6)歯科の症例や内視鏡検査の間の鎮静処置の結果による悲惨な死亡の逸話的な症例報告がなされている。
(7)最後に、MedicareとMedical Survicesの最新のガイドラインは麻酔部門が施設内の鎮静処置を監督することを要求しており、ASA基準に従いカプノグラフィで呼吸をモニタすることは賢明である。
・ASAの最近の推薦,Center of Medicare and Medicaidにより出版されたガイドラインを心に止めて、施設横断的鎮静の実施の一貫性を持って、我々の施設では場所に拘らず中等度の鎮静を要する全てのPtでカプノグラフィで呼吸をモニタすることを2012年10月に決定した。必要な職員の教育と訓練は現在進行中である。
○[Cardiopulmonary Resussitation (CPR)心肺蘇生中のカプノグラフィ]
・ACLS二次救命処置の2010年改訂版ガイドラインは定量的カプノグラフィ波形の使用を、気管チューブの場所の確認だけでなく、胸部圧迫の有効性のモニタとして推薦した。急性の状況で換気を与えるためにPETCO2は胸部圧迫によって発生された心拍出量の間接的モニタを提供する。自発的循環の回復(ROSC)は他の方法では評価するのがしばしば困難であるが、突然PETCO2が増加することによってカプノグラフィに明らかに表示される。持続的波形カプノグラフィは気管チューブの誤挿管をパルスオキシメトリより速く直ちに検出する。有効なCPRを導くカプノグラフィの役割は永年知られていたが、この概念をACLSガイドラインに承認し実行するには20年かかった。いくつかの組織、団体からの入力、データ集積及び分類、備品の利用性はこの遅延を起こした要因ではないだろう。にも拘らずカプノグラフィはACLSのガイドラインに今や採用され、日常的使用の実行では訓練の強制と備品の利用性を与えられるのにあまり年数はかからないであろう。英国UKのNational Audit Projectの所見に基づき、AAGBIもadvanced life support(ALS;二次救命処置)を受ける全てのPtでカプノグラフィの使用を支持した。カプノグラフィはいまだ蘇生カートの標準になっていないがALS二次救命処置では直ちに使用されるべく努力すべきであるとAAGBIは正式に決定した。
・CPR中カプノグラフィの波形は平坦ではなくプラスの波形であるべきである(Fig.2N)。CPR中のカプノグラフィの線が平坦だったら救命処置のリーダーは気管チューブの位置が誤っていると注意すべきである。最近の後ろ向き観察研究では心拍再開(return of spontaneous circulation :ROSC)したPtは心拍再開しなかったPtと比べて、より有意に高いPETCO2値を示したが、CPR中のPETCO2値の予後的価値を確かめるのは困難である。CPR中のPETCO2値はCPRの有効性に依存するだけでなく、心停止の心臓・呼吸・あるいは肺塞栓のような当初の原因によるからである。この様な不確実性にも拘らずCPR中のPETCO2は生存の予測として使われうる。
・Levinらは病院外での心停止の犠牲者連続150人の前向き観察研究を行った。Ptらは気管挿管されPETCO2値を蘇生中に測定された。そしてPETCO2値が10mmHg以下、あるいはACLS開始後20分以下では心停止Ptの死亡を予測できた。最近数学的モデルがCPR開始後の「時間対PETCO2値」の予後的価値の決定を作り出した。心拍再開のあったPtとなかったPtのPeak PETCO2値は挿管後4―5分では異ならなかったが8―10分では有意に異なっていた。心拍再開のなかったPtではROSCのあったPtよりもPETCO2カーブのarea under curveが(4―10分で)有意に小さかった。
・積算最大呼気終末二酸化炭素が5分から10分の間の全ての時間で予測された(感度88%、特異度77%、<0.001)。この研究の著者らはこのモデルを使えば蘇生が成功する結果はCPR開始後の症例の70%で、10分以内に予測できると主張している。この考えは体外式蘇生の開始の決定にCPR中のPETCO2を使うことに現在かなりの興味がある。
・フランスのガイドラインで治り難い心停止のPtの体外式蘇生の開始に準備の1つとしてCPR中のPETCO2が10mmHgかそれ以上であることを含んでいる。
・ACLSのためのカプノグラフィの使用に関する最近の推薦で相当に強いデータが、将来の神経学的結果を予測するためにCPR中に達成されたPETCO2値が決定されるであろう。その様なアウトカム研究が出版されるまでカプノグラフィはCPRの有効性を評価するために使用されるべきである。CPR中にPETCO2値が衰えていくことは救助者が疲れているか、胸部圧迫が効果がないことを示しているかもしれない。チームリーダーはCPR中に発生した心拍出量の減少の他の因子、出血・タンポナーデ・気胸などを探すよう警告しなければならない。
・2011年に出版された症例報告で、食料品店で心停止を起こして倒れた54歳男性のCPR中のカプノグラフィの仮説的価値が説明されていた。有効なCPRが行われ続け蘇生チームは蘇生努力を96分間続けて、自発の心拍と循環が最終的に回復したことをカプノグラフィは保証した。蘇生の間を通して呼気終末二酸化炭素は終始変わらず、心室細動VF/CPRの間中28―36mmHgの範囲であった。CO2のこのレベルは蘇生の継続を正当化する有効な肺血流量を発生させる有効な胸部圧迫と矛盾しない。12回目のショックが心室細動VFをきちんと整ったリズムに戻したとき、脈拍は触れなかったが37mmHgのPETCO2は自発的循環が再開したことを示し、CPRは終了した。Ptは冠動脈ステント術を受け、10日目に神経学的あるいは認知的欠損症状なく退院となった。FOX NewsとNational Public Radioは公衆に対しカプノグラフィとそのCPR中の価値を含めて説明しこの物語を報告した。
・現在のACLSとAAGBIのガイドラインに基づいてカプノグラフィ・ユニットを移動性のcode stand(蘇生スタンド)に乗せている。ユニットはcodeの最初の通知で電気がつくのでcode team(蘇生チーム)がcodeの場所に着くまでにはキャリブレーションが済んでいる。さらに加えて予期せぬ挿管困難のためにビデオ喉頭鏡が付いている。
○[ICU内のカプノグラフィ]
・多くの集中治療医がカプノグラフィの価値を認識しているにも拘らず、ICUで日常的に換気をモニタするためにカプノグラフィを実行するための強化された組織的努力はなされていない。ICUで日常的にカプノグラフィを使用しているのは22―64%とさまざまである。いくつかのヨーロッパの国ではよりしばしば日常的に使用されているが、それはヘルシンキ宣言のためである。ヘルシンキ文書は(2019.6月)the European Board of AnaesthesiologyとEuropean Society of Anaesthesiologyが周術期ケア、集中治療、救急医療、疼痛治療の領域で仕事している麻酔科医により治療されているPtの安全性を改善するために連携して準備された。研究の結果”Fourth Nationa Audit Project”はRoyal College of AnaesthetistsとDifficult Airway Society of United Kingdomと連携して臨床医がよりしばしばICU内でカプノグラフィを使うように促すべきであるとした。
・これは無作為研究ではないが前向き研究で、麻酔中、ICU内で、救急部で重篤な気道閉塞のデータが集積、分析された。気道管理の大きな合併症(死亡、脳死、外科的気道の緊急性、予期しないICU入室、長期化したICU滞在)は1年間の全National Health Service Hospitalから得られた。2008―2009年の研究からのデータで、持続的カプノグラフィでモニタされ全身麻酔を受けた300万Pt中16名に気道による死亡がみられた。1/18万の死亡率だった。同様に人工換気を受けているICUのPt48000人のうち18人の死亡があり、死亡率は1/2700であった。これらのデータは持続的カプノグラフィが標準的ケアになっている手術室と比較して、カプノグラフィが使用されていないICUにおける気道の悲惨な事故は66倍である。この研究グループの驚くべき結論は、もしも持続的カプノグラフィが使われていたらICUでの気道による死亡、あるいは持続的神経学的損傷の74%が防げたであろうとしている。ICU及び救急部門のデータからの観察では無自覚の食道挿管がある。食道挿管が認識されなければ6例中5例の死亡原因となっている。カプノグラフィは6例中5例で使われていなかった。6番目は平坦なカプノグラフィは心停止のためであると誤認識されていた。”Fourth National Audit Project”はICUでのカプノグラフィに関する3つの推奨を強く勧めている。
第1はカプノグラフィは全ての重症Ptの挿管では場所に拘らず使用されるべきである。
第2は挿管されたり、人工呼吸器に頼っている気管チューブのある(tracheostomy気管切開を含めて)全てのICU Ptでは持続的カプノグラフィが使用されるべきである。費用と技術的困難さは日常的カプノグラフィの迅速な導入の障害であるかもしれない;しかしこれはその実行を妨げるものではない。カプノグラフィが使われていないところではそれを使わない臨床的理由を記載し正式に批評すべきである。
最後に(第3に)ICUで働く全ての臨床スタッフのトレーニングはカプノグラフィの解釈を含むべきである。教育は気道閉塞や挿管部位の誤りの確認に焦点を合わせる。
・熟練した麻酔科医は上記の研究でも全ての食道挿管を予防できたとある人は議論するが、我々全ては少なくとも手術室ではカプノグラフィに助けられている。その上なぜ、ICU Ptでカプノグラフィがルーチンのモニタと考えられるべきいくつかの理由がある。
(1) 異なるICUの間でしばしばさまざまな専門的知識がある。
(2) ICU Ptは手術室での日常的麻酔症例の多くに比べて重要な、心臓や肺の合併症が多い。それ故、元気なASA1や2のPtに比べて過失の限界と結果としての低酸素症がICU Ptではより有害になりうる。
(3) ICUからのデータでは相当な数の死亡と脳障害の原因となるICU Ptにおける診断されていない不注意な気管チューブの誤挿管が示唆されている。
(4) 2010年の国際CPRコンセンサスが、International Consensus guideline on CPR, American Heart Association推薦は気管チューブの気管内挿管を確かめるだけでなく、CPRの有効性を評価するためにカプノグラフィ使うように主張している。(U.S. National Registry of Cardiopulmonary Resuscitationによれば心停止の46%[40,050/86,748]はICUで起こっている。そして心停止は最悪の結果になっている[15.5%生存/退院Ptのうち]。論理的結論としてカプノグラフィを使用することは気道、心拍出、換気の全てのモニタとして重要である。
(5) カプノグラフィの波形を使用することは気管支攣縮bronchospasm、気道閉塞、気管チューブの屈曲の診断の助けになる。
(6) 動脈血―呼気終末PCO2差を使うことは肺胞死腔の代用になる
(7) NGtubeの気管気管支内への不注意な挿入の診断になる
(8) 経皮気管切開percutaneous tracheostomyの助けになる
(9) 脳幹死を確かめるためのapnea test無呼吸テスト中のカプノグラフィの使用
(10)代謝率metabolic rateのガイドとしてのカプノグラフィ
(11)呼吸器離脱weaning過程の自発呼吸の見積もり
(12)繰り返し血液ガス測定に関する費用の減少
(13)BoerあるいはEnghoff approachを使用したICU管理の過程における死腔の進行性の変化の評価のために容積カプノグラフィの使用は重要な興味が示されている
・the monitoring advisory bulletin(May 2011)の中で、AAGBIは会員にFourth National Audit Projectについて警告した。The International Care Society of United KingdomもまたStandards for Capnography in Critical Care (Standards and Guideline)集中治療におけるカプノグラフィの基準と題する小冊子を出版した。ICUの中、及び病院間あるいは病院内移送中に人工呼吸を要する全ての重症Ptで気管切開や気管内挿管の処置を行っている場合はカプノグラフィを使用することを強く推奨している。ICU内で人工呼吸をしている場合のカプノグラフィの持続的使用に関して、持続的なカプノグラフィが通常の人工呼吸の間の気道の災難による破滅的害の機会を減らすという直接的エビデンスがないことを理由にして強く推奨することができなかった。そしてさらなるこの領域の研究を示唆した。
・ICUにおける通常の換気の間のカプノグラフィの価値の直接的エビデンスがかけているにも拘らず、それが持続的に使われなければ気管チューブの誤挿管は救命方法を呼び起こすタイムリーな方法を持ち出せないことが強調させねばならない。
・ICUで気管挿管困難Difficut AirwayのPtで顔を横向けた時に気管切開チューブがはずれて母親が死亡するといったことが発生した。どのようなモニタリング技術でも同様であるがカプノグラフィ全体としての利益は個々の見方よりも考慮に入れられるべきである。カプノグラフィをよりしばしば使用すれば臨床医がこの装置を危機的環境において有効に使うであろう。カプノグラフィの使用が上記の推薦のように増えれば近い将来、ICUの状況の中でその有効性についてのデータが得られると確信している。
○[施設内外での人工呼吸器をつけたPtの移送]
・人工呼吸を必要とする全てのPtはカプノグラフィでモニタされるべきだとするならばICUへまたはICUから、あるいは施設間で移送される時、これらのPtはどうしてもモニタされなければならない。移送中にCO2の波形をモニタリングすることは気道および呼吸の完全さを保証する。ある研究で、病院間あるいは病院内の移送でパルスオキシメトリとカプノグラフィによって9例中6例の不幸が検出された。もしも換気が一定に保たれているならば急激なPETCO2の急激な減少は、直ちに調査されなければならない;それは心拍出量cardiac outputが減少したためかもしれない。病院受診前の状況でいくつかの州は緊急医療サービスに対してカプノグラフィの解釈に必要な訓練を与えることと、最初の応答者responderとしてカプノグラフィを使用することを職員に尋ねることを政府の注意文書として出版した。
○[麻薬による鎮痛が必要な術後Ptのモニタリング]
・APSF(麻薬安全委員会)は術後Ptで持続的あるいは患者管理による注射patient controlled infusionsによって罹患率と死亡率につながる、麻薬が引き起こす呼吸抑制について関心を示している。定義によって呼吸抑制の頻度は1―40%と変わる。鎮静処置中のカプノグラフィモニタリングとよく似て、これらのPtでカプノグラフィは呼吸抑制の早期の警告をもたらすエビデンスがある。Pt管理による注入法を行いパルスオキシメトリとカプノグラフィでモニタリングされた178名の研究で、酸素飽和度<90%以下の低下と3分以上続く除脈は12―41%に及んでいた。あるPtは救命のため陽圧呼吸を必要とした。APSF(麻酔安全委員会)は麻薬を受けているPtのカプノグラフィによる呼吸モニタリングを含むいくつかの推薦を打ち出した。なぜならそれが最も信頼できる低換気の検出法だからである。しかしながらこの装置を術後Ptへの実施には、偽陽性を減らし、術後Ptにより快適なシステムを作るための技術的改善が必要である。より良い方法は、偽陽性の出来事を減らしてより大きな利益を生み出すパルスオキシメトリとカプノグラフィをブレンドしたアルゴリズムを生み出すことである。それにも拘らず、危機に面したPtはこの技術で利益を得るべきである。
○[カプノグラフィの将来]
・いつになったら手術室の外でよりしばしばカプノグラフィが使われるようになるかは単に時間の問題である。他の専門分野からの医師はPtの安全性を高めるカプノグラフィの価値により気付き始めている。死亡時や心不全のあるPtの大きな心イベントの予測の検査の間にPETCO2値の予後的役割を決定するなどのカプノグラフィモニタリングの補助的使用と利点を積極的に探索している。カプノグラフィ波形の解釈で医師や呼吸療法士、看護職員の訓練にはかなりの努力が必要である。カプノグラフィ装置の製造者は確かな、費用対効果の良い、ポータブルのCO2波形の表示とキャリブレーションができるカプノグラフィ・ユニットの作成に注力すべきである。カプノグラフィ・ユニットは、将来は集中治療の人工呼吸器には初期設定となるべきである。ICUにおけるその使用は最近は好ましいと考えられているから、ICUでのトレーニングはCO2検出センサーが分泌物で汚染されるのを防ぐ方法とカプノグラフィ波形の解釈を含むべきである。麻酔科医はカプノグラフィの知識を良く修め、それぞれの施設で手術室以外にカプノグラフィを配置することを助ける論理的先駆者になるべきである。


◇Brabani Shankar Kodari, MD : Clinical Concepts And Commentary: Capnography Outside the Operating Room Anesthesiology, vol118, No1, 2013, p192-201. Brigham and Womens’ Hospital, Harvard Medical School, Boston Mass USA

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10.03.04.02. 手術室外でのカプノメータ(1)

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10.03.04.02. 手術室外でのカプノメータ(1)
○ カプノグラフィ、特に手術室外での使用についての総説
◇Brabani Shankar Kodari, MD : Clinical Concepts And Commentary: Capnography Outside the Operating Room Brigham and Womens’ Hospital, Harvard Medical School, Boston Mass USA
○ 歴史的に麻酔科医は医療従事者のうちで安全のための道具と基準を実行することの先駆者であるように思われる。USAでは1985年以来、麻酔科医の不適切医療(医療事故)の保険料が、劇的に減少している。この間に他の内科系、外科系の専門医ではこのような減少は見られていない。
・アメリカ麻酔学会ASA、麻酔患者安全基金APSE、英国及びアイルランド麻酔医連盟AAGBI、オランダ麻酔科医学会の先見の明に感謝し、カプノグラフィがPtの安全を高めるために麻酔中のモニタリングの基準として取り入れられ信頼されている。最近は多くの発展途上国の麻酔科医もこれらの推薦に従っている。(インドではカプノグラフィは腹腔鏡手術の弁済のために強制的なものになっている)過去25年以上前からカプノグラフィは麻酔ケアの欠くことのできない一部分になっているが、その価値は、そのような状態に限られ、この制限を越えて正しく評価されてはいない。我々の臨床の中では気管挿管され、人工呼吸されているPtを観察するためには特殊なものではない。はじめは手術室でカプノグラフィはモニタされているがICUへカプノグラフィなしで移送されている。気管挿管を確認するためにも、連続的に換気をモニタするためにも、多くのICUはカプノグラフィを持っていない。麻酔科医として我々はカプノグラフィを手術室で鎮静モニタとして使用している。なぜなら我々は意識のある状態と無意識の状態の線は非常に薄いものであると評価しているからであり、Ptは一つの状態から他の状態に移ることができる。しかし多くの施設ではカプノグラフィは手術室の外で、特に非麻酔科医によって実行される処置の鎮静の間に換気のモニタとして使われてはいない。明らかな理由の一つはASAとAAGBIが手術室の中で行っているように、手術室以外での処置の安全性をカバーする単一の協会がないことである。にも拘らず過去2年間に手術室の外におけるカプノグラフィの価値の理解と認識が湧き上がってきた。この「臨床的概念と論評」はカプノグラフィの生理学と臨床的解釈をまとめて、手術室外でのカプノグラフィの最近の状態を更新し、公衆とメディアの気付きを含めて可能な未来の方向性を示唆することである。
○[測定と生理学]
・赤外線技術は二酸化炭素(CO2)測定とモニタリングの方法としては最も一般的で費用的にも素晴らしいものである。1回換気量が少なく、呼吸回数が速い未熟児においてさえ上質のカプノグラフィの波形を生み出すように反応時間を減らし、赤外線技術の正確さを増す努力がなされてきた。
・CO2の数値は通常分圧(PCO2)として表示される。CO2測定装置の部位によって2つのセンサーの型がある。メインストリーム方式とサイドストリーム方式である。メインストリーム法ではセンサーを収納するアダプタは気管チューブと呼吸回路の間に挿入され、CO2の測定は気道を交差して行われる。サイドストリーム法では呼吸ガスはアダプタを介して6本足のサンプリングチューブで赤外線センサーを収納するモニタへと吸引される。赤外線測定装置へのガスの移送によりサイドストリーム法ではカプノグラムの測定と表示は1―4秒遅れる結果となる。
・型通りの成人ではカプノグラムは多かれ少なかれ、全て健康な個人では全く同一の形となる。これからのいかなる変位も、生理的あるいは病理的原因の分析が必要になる。CO2の波形は時間に対して描かれる時間カプノグラム(Fig.1A)かまたは呼気量に対して描かれる容量カプノグラム(Fig.1B)がある。時間カプノグラムは臨床実践的に一般的に使われている。時間カプノグラムは二つの重要な分画を持つ;吸気(phase0)及び呼気である。呼気相はさらに3つの相(phase Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ)及び時にpaseⅣ(Fig.1C)に分けられ、肺及び気道からのCO2の展開の生理学に基づいている。phaseⅠはいかなる呼出されたCO2も含まない(死腔ガス、ゼロPCO2)。PhaseⅡではPCO2は急速にCO2を含んだ肺胞ガスとして上昇し、死腔のゼロCO2と入れ替わる。PhaseⅢは肺胞からのCO2の進展を表わす肺胞性のプラトーである。もしも全ての肺胞が同じPCO2ならば肺胞プラトーは完全に平坦になる。実際には肺内にかなり空間的、時間的なミスマッチがあり、結果としてV/Q ratio換気血流比、及びこのような変わりやすいPCO2となる。通常、低いV/Q ratioと長い時間定数(比較的多くのCO2を含んでいる)を伴った肺胞はphaseⅢの後半部分に寄与する。このことは結果として肺胞の部分圧“プラトー”の軽度の上向きスロープとなる。それ故スロープは間接的に肺のV/Q状態を表わす。だから肺胞のプラトーの高さとスロープは換気、灌流、更に重要なV/Q関係の情報を供給する。気道の内径変化の結果としてV/Q ratioに相当な変動がある時にphaseⅢのスロープは誇張されまた遷延したphaseⅡ(Fig.2A)が伴ってくる。この様な環境ではphaseⅡとphaseⅢの角度(α angle)、これは一般に100°であるが、が増加する。気管支拡張薬の治療効果はphaseⅡ,phaseⅢ,α角の変化で判定される。肺胞プラトーの高さは肺胞換気に対する心拍出比と関連している。一定の換気のもとで肺胞プラトーの高さは心拍出量の急な変化で増えたり減ったりする。呼気終末の最大PCO2は数値として表わされ、end-tidal PCO2(PETCO2)呼気終末二酸化炭素分圧と呼ばれる。その値は35―40mmHgの間で変化する。PhaseⅢの終末で呼気の間にCO2のないガスが吸入され、PCO2は急激に減少しゼロになる。PhaseⅢと吸気の下向きの動きの間の角度は一般に90°(β角)(Fig.1A)。しかしながらこの角度は再呼吸があると増える(Fig.2B,C)。時にphaseⅢの終末に先端のblipがあるかもしれない(Fig.1C)。これは一般に小児や妊婦や肥満Ptのカプノグラムで見られる(phaseⅣ)。かなり一定のCO2濃度を含む肺胞ガス区分を急速に初期に空にすることはCO2のトレースのうちのphaseⅢの初期のほぼ水平な部分についての責任がある。しかしながら呼気の流れは呼気の終末に向かって減少するので呼気のCO2濃度は大きく増え、このように先端の急な上昇あるいは上向きな上昇となる。これがCO2の肺胞内への持続的放出のために呼気の後半に肺胞が空になるのが遅れて高いCO2濃度になる訳である。正常では高いCO2を伴った肺胞ガスは気道に残り、口の近くのCO2センサーでは分析されない。しかしながら大きな1回換気量と低頻度の換気をするとガスがCO2センサーまで届き高いCO2濃度を示す。妊娠した対象者は通常機能的残気量が減少し、低い胸郭コンプライアンスでCO2産生が増加しているが、全身麻酔中や大きな1回換気量で間歇的陽圧呼吸IPPVを行った時にphaseⅣを示し易い。
・PCO2は容量カプノグラムvolume capnogramでは呼出された容量に対してプロットされるので波形は1回換気量のいろいろなコンポーネントに関連されうる(Fig.1B)。しかしながらこのカーブの中には吸気のコンポーネントがない。時間カプノグラムと容量カプノグラムの両方でPETCO2に対するPaCO2の差は生理的死腔の代用として使われる(Fig.1B)。正常のPaCO2―PETCO2勾配の差は約5mmHgである。これはCO2を含む肺胞ガスとCO2を含まない死腔ガスの混合のためである。上記の生理学的理解はカプノグラフィの解釈にとって非常に重要である。


Fig.1A:Time capnogramはsegment(区分),phase(位相),angke(角度)を示している。Inspiratory segment(吸気区分)はphase0、expiratory segment(呼気区分)は3つの相Ⅰ,Ⅱ,Ⅲに分けられる。呼気の終末のCO2の最大値はPETCO2と任命される。肺胞死腔のためにPaCO2より約5mmHg低い。PhaseⅡとphaseⅢの角度はαangleで、phaseⅢとinspiratory downstroke吸気下降流の間の角度はβangle。
Fig.1B:volume capnogram(PaCO2対呼気容量):容量カプノグラムはtidal volume1回換気量の細分を示す。CO2のarea under curveは有効肺胞換気量。Area above CO2 curve及び動脈血PaCO2線以下は生理的死腔。2つの三角形のpとqが含まれるphaseⅡに垂直に線が引かれる。これは生理的死腔を解剖学的及び肺胞死腔に分ける。
Fig.1C:全身麻酔下の帝王切開中に記録されたtime capnogramでphaseⅣ(phaseⅣの詳細は参考文献4を参照)    PETCO2=end-tidal PCO2.

○[カプノグラフィの臨床的解釈]
・臨床的情報はカプノグラフィの3つの情報源から得られる:PETCO2の数値、カプノグラムの波形、PETCO2とPaCO2の差である。
・数値は鑑別診断の道具として使われる(table.1)。一方、カプノグラムの波形はより特殊な診断の手掛かりを提供する(Fig.2A-O)。カプノグラフィをそれ自身で診断的道具として使うのは困難である。しかしながら、もしもPETCO2の数値の変化やCO2の波形の変化は心拍数や血圧、呼吸流量、肺吸入圧、分時換気量などの付随するデータと共に使われたならカプノグラフィの診断的正確さが高まるであろう。Tauzらは55歳の男性の麻酔中にPETCO2値が徐々に増加した症例の報告を行った。これは後から心拍数の増加と体温の上昇を伴っていた。Ptの循環動態、呼吸変化、麻酔器の全体的かつ系統的チェックでは麻酔システムの欠陥や気道閉塞は明らかにされなかった。18L/分の分時換気量にも拘らずPETCO2値は65mmHgまで上昇し続けた。悪性高熱症malignant hyperthermiaの診断がなされた。MHの治療が開始され、高二酸化炭素血症、高熱は急速に改善された。
・PaCO2―PETCO2勾配は生理的死腔の代用品であるが、V/Q関係の評価に有用である。変化する勾配は不安定な肺内のコンプライアンスまたは抵抗のダイナミックな変化の結果として循環血行動態あるいは変化する肺胞換気量を示している。もしも勾配が臨床的管理の結果、安定化するならば、肺胞換気と灌流の安定性が達成されたと推量することができる。このカプノグラフィの価値のある効用はICUの環境では活用されていない。

Fig.2
A. 引き延ばされたphaseⅡ、拡大したαangle。急峻なphaseⅢは気管支攣縮bronchospasmか気道閉塞を示唆する。
B. 呼気バルブ不調の結果、基線base lineの上昇、alveolar plateauと吸気のdownstrokeの角度が90°から増加。これは吸気中の呼気枝expilatory limbから呼出されたガスの再呼吸のため。
C. 吸気バルブ不調の結果、吸気中に吸気枝から呼出されたガスの再呼吸の結果。(文献5に詳細)
D. PhaseⅡは正常だがphaseⅢのスロープが増加したカプノグラム。このカプノグラムは全身麻酔下の妊婦で観察された。(通常の生理学的変形、文献9)
E. Curare cleft筋弛緩薬の裂け目:Ptは部分的筋麻痺の間に呼吸を試みている。胸部及び腹部の外科的動きもまたcurare cleftと同じようになる。
F. CO2再呼吸の結果基線baselineが上昇する。
G. 食道挿管の結果、残余のCO2が胃から洗い流され、続いてCO2はゼロになるだろう。
H. 自発呼吸のCO2波形、phaseⅢはよく描出されていない。
I. 片側肺移植Ptの二重カプノグラム。PhaseⅢの第1のピークは移植された正常肺からのもの。一方、第2のピークは元の病気の肺からのもの。二重カプノグラムの変形(Staple sign尖塔兆候―破線)はモニタのサイドストリーム・センサーポートにリークがある時に見られる。これは呼出されたPCO2が空気で希釈されるため。
J. 悪性高熱症。ここではCO2は徐々にゼロ基線から増加してくる。CO2産生増加とソーダライムによるCO2吸収を示唆している。
K. 古典的さざ波効果で呼気の休止中の心原性の振り子運動を示している。これらは人工呼吸の呼吸頻度が低い時に、呼吸停止の間に心拍の動きによってセンサー部位で、呼気ガスが行ったり来たり運動の結果起こる。さざ波効果様の波形は呼気停止中に源からのフレッシュガスの前方へのガスが呼気ガスと混ざる時にも起きる。
L. 基線とend-tidal PCO2(PETCO2)の突然の上昇は分泌物か蒸気によるセンサーの汚染による。基線とPETCO2の徐々の上昇はソーダライムが消耗した時に起きる。
M. 自発呼吸Ptの真ん中に間歇的人工換気intermittent mechanical ventiration(IMV)呼吸。人工呼吸と比べた自発呼吸の高さの比較はweaning process離脱中の自発呼吸の評価に有用である。
N. Cardiopulmonary resuscitation, CPR心肺蘇生;各圧迫中の上向きのカプノグラムは心臓圧迫が有効で肺血流量を発生していることを示唆している。
O. 吸気中の再呼吸を示しているカプノグラム。これはMapleson D or Bain circuitの様な再呼吸サーキットでは正常である。

Table 1.
異常PETCO2の原因 PETCO2の増加PETCO2の減少
Metabolic麻酔からの回復(シバリング)
悪性高熱症
Neuroleptic malignant syndrome
Typhoid storm
重症敗血症
Hypothermia低体温
代謝性アシドーシス


Circulatoryターニケット解除

CO2通気による腹腔鏡
アシドーシスの治療

麻酔導入
肺塞栓
高度のhypovolemia
心原性ショック
出血性ショック
Intracardiac shunt
Respiratory低換気Hypoventiration
COPD慢性閉塞性肺疾患
喘息
肺水腫
肺内シャント
過換気
TrachealCO2吸収absorberの消耗
モニタの汚染
Disconnection接続不良
チューブの閉塞

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90.09. 関節リウマチPtの麻酔

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90.09. 関節リウマチPtの麻酔 30.06.
・10年間1177名のRA Ptに全身麻酔、ほとんどが関節全置換術 28~95歳(平均63歳)、女性が90%、体重29~77kg(46kg)、高齢で痩せた虚弱な女性
○RA Pt麻酔の問題点
・RAの障害が心、肺、腎、血管など主要臓器におよびこれら臓器・組織の機能低下する。*・心:30%に心膜炎有症状は10%以下、心嚢水貯留。狭心症や脳梗塞の既往
・肺:50%のPtで種々関節病変により拘束性障害、ADL制限で自覚症状なし。脊椎病変による亀背も拘束性障害。肺線維症、胸水貯留。間質性肺炎
・腎:稀。薬剤性腎症、腎アミロイド―ジス(金製剤)、合併するSjogren症候群による間質性腎症。
・眼病変:RA Ptの20%に合併するSjogren症候群による角結膜炎。眼軟膏、アイパッチ。
・虚血性心疾患、癌、炎症性疾患の発症率が増加する:RAの病理に直接起因する場合もあり、長期に用いられる数多くの抗RA薬およびステロイド治療の影響もある
・筋委縮、脆い血管、貧血などはRA Ptにほとんど必発。強い痛みと運動障害を伴うために全体的に虚弱化する
*・消化管病変:NSAIDs潰瘍の有無
・ステロイドによる糖尿病の有無
・経鼻挿管になる場合の鼻腔の状態、易出血性の有無
○気道確保困難 difficult airway
Compromized cardiac function:myocarditis, vascular disease, pericarditis,
                   :coronary disease
     pulmonary :rheumatoid lung, diffuse infiltrate, drug effect
     renal    : amyloidosis
Ischemic heart disease   :coronary disease
Vulnerable peripheral vessels傷つきやすい末梢血管
Retrognathia下顎後退    :difficult airway
○術前チェックリストのうちRAに特殊な項目
 頸、下顎の可動性検査
 喉頭鏡による喉頭、声帯の検査=輪状披裂cricoarytenoid関節の拘縮→RA Ptの約1/5にみられ時に呼吸困難をきたす
・手術の必要なPtはほとんど長期にステロイドを服用している→周術期ステロイドカバー
 待機手術Ptは通常5~10mgのプレドニゾロンを服用している
 →手術当日はプレドニゾロン中止、ハイドロコーチゾン100mg 麻酔開始1時間前
  Ptの全身状態が悪く循環状態不安定→ハイドロコーチゾン100mg追加iv 4~5時間前
 手術翌日には元のステロイド療法に戻す
*通常、副腎はコルチゾール20mg/day程度を生理的に分泌。ストレス時には200~300mgのコルチゾールを分泌する。長期ステロイド服用Ptは副腎機能低下しておりストレス時の補充を自らできない。PSL15mg/dayはコルチゾール60mg/dayに相当。急性副腎不全のリスクカバーのためにステロイドカバー。
◌小手術:通常内服量のみ。カバーなし。
◌中手術:通常内服。術前にハイドロコルチゾン50mg、8h毎に50mg。翌日から通常通り
◌大手術:通常内服。術前にハイドロコルチゾン100mg、8h毎に50mg。POD1;8h毎に25mg、POD2;12h毎に25mg、pod3;25mg1回、POD4~通常通り。
○使用麻酔薬:ハロタン、セボフルラン、イソフルラン±fentanyl
 RA Ptではすべての鎮静薬、麻酔薬に感受性が高い点に注意が必要。
 術後に遷延する抑制作用にも注意が必要
○手術死亡率:術後1か月以内は0. 2ヶ月以内は2(術前からハローベスト装着Pt)
 術後ハローベスト装着Ptは術後2年以内に25名/75名死亡
○RA Ptの気道確保困難
1)頸椎関節のリウマチ性の破壊に伴う拘縮・不安定性:頸椎の癒合による可動域制限
2)環椎関節の亜脱臼:不安定性。初期は運動制限、後頭部痛。次第に四肢のしびれ。延髄圧迫すると突然死。伸展位で安定、屈曲位で悪化。
3)ハローベスト装着による頸部可動性の消失
4)輪状披裂関節の拘縮:RA Ptの30%程度。声帯固定でチューブ入りにくい。喉頭部痛、嚥下痛、嗄声。発赤や声門部の狭窄あれば抜管後の気道閉塞にも注意
5)下顎後退retrognathia:部分的に側頭下顎関節の破壊による下顎コンディル突起の短縮による
○RAのdifficult airwayの対応 2)3)が多い
1)直の薄いブレード(ミラーブレイド)を使用
2)ラリンゲルマスクエアウェイLMA:全麻、筋弛緩薬使用下に喉頭鏡を使って挿入
3)気管支ファイバースコープを使用:ファイバー挿管口マスク法
 ジアゼパムで導入
 小児用マスクで口のみマスク換気可能を確認
 筋弛緩薬使用
 経鼻挿管。一方の鼻孔を綿球で詰めて
 ファイバースコープは気管内、カリーナ直前まで挿入する
*全身麻酔導入後に頸椎を中間位に保ったままエアウェイスコープAWSで挿管
*自発呼吸温存下経鼻挿管
・fentanyl25~50μg分割投与
 Midazolam0.5mg~1.0mgずつ分割投与
 輪状甲状間膜から4%リドカインで喉頭に麻酔して激しい咳を防止
 鼻腔消毒、リドカイン+アドレナリン(フェニレフリン)使用し#6.0mm tube 10cm挿入
 気管支ファイバーを進めて気管分岐部を同定してチューブ挿入留置
 Propofol等で眠らせる
*術中の体位:長期ステロイドで易骨折性、皮膚脆弱性に注意。体位変換による頸椎症の増悪に注意。
*術後疼痛管理:fentanylによるIV-PCA25-50μg/hr
*周術期危機管理
◌術後、病棟での循環不全
・循環血液量不足(術中の輸液不足や、術後の創からの出血)
・急性副腎不全:長期ステロイド使用による
・心筋梗塞や狭心症、輸液過多による心不全
・術後使用薬剤によるアナフィラキシーショック
・術前に見つかっていない下肢静脈血栓の遊離による肺塞栓
◇ 新井達潤ら 慢性リウマチ患者の麻酔 第4回日米麻酔会議招待講演 日臨麻会誌vol17, no10, 1997, p621-629
*14年目麻酔科医の専門医試験対策ノート 2012年4月20日
*自省と研鑽を促すための麻酔科医ノート2011年8月9日     <4/7/2017>

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90.07.01. 喘息の麻酔管理

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90.07.01. 喘息の麻酔管理
○ [要旨] :喘息Ptの麻酔管理は気管支狭窄を避け気管支拡張を起こすことに焦点が集まっていた。しかしながら喘息の定義が過去10年の間に変化した。喘息は気道の中心部から末梢気道、肺の実質に及ぶ炎症の過程によって特徴づけられる臨床的症候群と定義されるようになった。この概念を心に入れて、喘息は頻度も重症度も世界的に増加している普通の疾患であり、麻酔薬と手技の合理的な選択は必須のものである。この様に我々は喘息のあるPtに対して薬理学的及び麻酔的アプローチの最新情報を追い求めている。実行可能ならば区域麻酔が好ましいが、それは気道刺激と術後合併症を減らすからである。全身麻酔が避けられないならばラリンゲルマスクが気管内挿管より安全である。リドカイン吸入は単独あるいはalbuterol(サルブタモール)と併用でヒスタミンで誘導される気管支収縮を最小化する。プロポフォールとケタミンは気管支収縮を抑制し、麻酔導入中の気管支収縮bronchospasmのリスクを減らす。プロポフォールは気道中枢側の拡張を起こし、エトミデートやチオペンタールよりも信頼できる。ハロタン、エンフルラン、イソフルランは気管支拡張の効能があり、喘息重積状態でも助けになりうる。セボフルランは喘息Ptでは議論のある結果を示した。ベクロニウム、ロクロニウム、シスアトラクリウム、パンクロニウムは気管支収縮を誘導しない。アトラクリウムとミバクリウムは投与量依存性にヒスタミンを遊離し、これらのPtには注意して投与されるべきである。麻酔薬の肺内での活動部位についてのさらなる知識は我々の喘息の病態生理学に対する理解と同調して、喘息を持つ人々に対する最良の麻酔的アプローチを確立するであろう。

○ 喘息は公衆衛生上の大きな問題であり、有病率も高く増加しつつあり、罹患率・死亡率の増加も伴っている。種々の研究によれば生涯の喘息の有病率は成人で11%で、小児ではそれより幾分高い。これらのデータは喘息のために起きる有害な出来事を生じるより広範な状況を麻酔学的実践において挑戦的なものにするのに貢献する。
・それ故、周術期の合併症のリスクの増加を避けるために喘息の病態生理学をよく理解し十分な術前評価をなし、Ptの状況を最適なものにし、最良の薬理学と技術的アプローチと協同することは緊急の問題である。
・喘息の病態生理学的証明は平滑筋の収縮による気道の口径の減少、血管のうっ滞、気管支壁の浮腫、頑固な分泌である。慢性の炎症過程は組織障害とそれに続く再編成である。「気道のリモデリング」という言葉はこれらの構造的変化の進展を言及するのに広く使われている。それは上皮の脱落、上皮下の線維化、上皮内の粘液細胞の数と容積の増加、気道平滑筋の過形成・肥大、気道壁の血管造成などである。細胞外基質、平滑筋、粘液線のこれらの変化は1秒量forced expiratory volume in 1s(FEV1)の減少と気管支の過反応性によって明示される喘息Ptの気道の機能に影響する力を有している。
・気管支痙攣bronchospasmと粘液栓は吸気、呼気の気流をともに閉塞する。呼気気流の抵抗は呼気終末に陽圧の肺胞圧になり、それはair-trappingを生じ、肺と胸郭の過膨張、呼吸仕事量の増加、呼吸筋の機能の変更を生じる。気流の閉塞は一様ではなく灌流するための換気のミスマッチが起こり、動脈血液ガスの変化が起きる。
・喘息の定義は過去10年のうちに変化した。喘息は中枢気道を越えて、末梢気道と肺実質へ広がる炎症過程によって特徴づけられる臨床症候群と定義されている。細気道small airwayが最近、気流閉塞と過敏反応性の部位として認識されている。
・これらの新しい病態生理学的所見を考慮して我々はこのレビューを喘息Ptの麻酔管理のために利用できるデータと基準を概略述べることを試みた。

[方法 methord] 1995―2005, PUBMED, airway obstruction, asthma, bronchial hyper-activity, anesthesia, anesthetics 222文献

[麻酔管理戦略 anaesthetic management strategy]
○[術前評価]
・麻酔科医の責任は術前にPtの肺機能の評価から始まる。Warnerらは喘息Ptの周術期の気管支痙攣bronchospasmと喉頭痙攣laryngospasmの頻度は驚くほど低いということを観察した。彼らは周術期bronchospasmと関連した3因子を確認した。:抗気管支痙攣薬の使用;最近の症状の再燃;最近喘息治療のために内科病院で受診したことである。それで彼らは次のような結論に到達した。
1)喘息はあるが症状のない人は麻酔による重大な有病のリスクは低い、
2)しかしながら喘息のある人は低いけれども重大な有病のリスクは増える、
3)喘息の前歴のない人にも気管支痙攣bronchospasmによる有害な結果は起きる。
・この観点から喘息のPtへのアプローチは反応性の気道疾患の経験の詳細な病歴を含めて次のことを調べるべきである
1)最近の上気道感染症、2)アレルギー、3)喘息に陥る可能性のある因子、4)薬物の使用、発作を引き起こすことができる薬物を含めて、同様に発作を予防するために使われる薬物、5)夜間あるいは早朝の呼吸困難。
さらにPtの気管支の反応性をよりよく理解するために、彼または彼女が寒冷気、ほこり、煙に耐えられるかどうか、以前に彼または彼女が全身麻酔下の気管挿管に耐えられたかどうか知ることは重要である。気管挿管を要するような喘息重積発作のエピソードの記録は、周術期の経過が困難になる前兆である。
・薬物は一般的に喘息の急性のエピソードの導入と関連している。薬物に誘導された気管支の縮小を認識するのは重要で、選択的β1-adrenergic antagonistsは喘息のある人の気道を一般的に閉塞するので避けられるべきである。
・気管支喘息、鼻ポリポージス、アスピリンあるいはアスピリン様の化合物に不耐性の3兆候はアスピリン誘導喘息(AIA)あるいはSamter’s syndromeと名付けられている。これらのPtでは非ステロイド性抗炎症薬NSAIDsと著しい交差感受性があり、重大なbronchospasmと有害な反応を引き起こすかもしれない。それ故、このようなPtはアレルギークリニックに行かせて鎮痛薬の交差反応性の可能性、麻酔薬に対する不耐性を評価してもらうことが重要である。
・肺の理学的検査では正常または喘鳴and/orその他の外膜音が明らかになるかもしれない。術前の喘鳴は周術期経過が困難になると予想される。実際もしも重大な喘鳴の既往と、喘鳴を診察時に聴取したら呼吸器内科に相談することが奨められる。
・喘息の重症な症例では動脈血液ガスや肺機能のような臨床検査を行って呼吸障害の程度を分析することが奨められる。術前のスパイロメトリー検査は気管支拡張治療に対する反応の回復程度と同様に気道閉塞の存在と重症度の評価に意味がある。FEV1の15%の増加は臨床的に重要である。
・喘息Ptでは胸部Xpは急性喘息発作時でも正常である。

○[喘息の術前管理 preoperative management of asthma]
・可逆性の気道閉塞及び気管支反応性を有するPtではβ2-adrenergic agonist及びコルチコステロイドを使った術前の治療が考慮されるべきである。β2-adrenergic agonistは気管内挿管に続いて起こる気管支収縮を減じることが示されている。この介入によってさえも著しい気管支収縮と喘鳴は挿管に続いて起こる。
・コルチコステロイドとβ2-sdrenergic agonistの複合治療は術前の肺機能を改善し、気管内挿管に続いて起こる喘鳴の頻度を減らす。周術期のコルチコステロイドによる創治癒と感染症に関する否定的な効果についての心配は、周術期のコルチコステロイドによる予防的治療を喘息Ptの研究では立証されていないが、コルチコステロイドで治療された喘息Ptは外科的処置を受けても合併症の頻度は少ないというエビデンスがある。この様にコルチコステロイド[methylprednisolone(40mg/day orally)]とサルブタモールによる術前の複合治療は可逆性の気道閉塞あるいは重症の気管支の過反応性の既往のあるPtで挿管で引き起こされる気管支収縮を最小にすることができる。
・Enrightによれば喘息の術前管理には次のような方法を含むべきである
1. bronchospasmは吸入β2-agonistで治療されるべきである
2. Ptが合併症のリスクに当面しているならば、術前にprednisone 40-60mg/dayあるいはhydrocortisone 100mg/8h毎 iv が奨められる。術前のFEV1<80%が予測される人はだれでもステロイドを受けるべきである
3. 感染症は抗生物質を使って根絶せらるべきである
4. 体液と電解質の不均衡imbalanceは補正されるべきである。高用量のβ2-agonistは低K血症、高血糖、低Mg血症を起こす。その様な不均衡に加えてβ2-agonistへの反応が減少し、不整脈を起こす傾向がある
5. mast cellの脱顆粒及びmediaterの放出を防止する予防的cromolyn治療は続けられるべきである
6. 胸部理学療法は痰のクリアランスと気管支のドレナージを改善する
7. 肺性心cor pulmonaleのようなその他の病態は治療せらるべきである
8. Ptはカルボキスヘモグロビンのレベルを減らすために喫煙をやめるべきである

○[麻酔法の選択 choise of anaesthetic technique]
・喘息に伴った気管支の過敏反応は周術期のbronchospasmの重要なリスク因子である。この潜在的に生命を脅かす麻酔実施中の状態は0.17%から4.2%までさまざまに変わる。全身麻酔の間に気管挿管の有無にかかわらず肺容量の減少と気道壁の液体層の増加に伴って、口蓋あるいは喉頭筋の張力の減少がある。この因子は不安定な気道の状況、気流閉塞及びかなり大きな気道抵抗を起こし易くする。
・気道に医療器具を使用することは副交感神経系を介して反射性の気管支収縮を起こす。加えて気道の機械的刺激は末梢のC-線維の求心路の端末を活性化することがエビデンスで示されている。これらの神経線維はsubstance Pとneurokinin Aを放出して、それらは血管透過性や気管支平滑筋収縮及び局所的血管拡張の増加を生ずる。麻酔科医の目標はbronchospasmを引き起こすリスクを最小にし、刺激のきっかけを避けることであるべきである。
・Groebenらは気管内挿管の効果を、局所麻酔下に気管内挿管を受けた症状のない軽症の喘息を持つ10名のボランティアでの無作為二重盲検試験で明らかにした。彼らは挿管の前後で肺機能検査を行い、操作後にFEV1の50%以上の減少を観察した。しかしながらβ2-adrenergic agonistと局所リドカインの予防的投与後にFEV1の減少は低かった(20%)。
・要約すれば喘息Ptでは気道に器具を挿入することは避けることが望ましく、同時に術後の合併症を減らすだけでなく、区域麻酔がいつでもこの目的のためには考慮されるべきである。
・妊娠は喘息の経過に悪影響を及ぼし、周術期のリスクを増やす。このような訳で区域麻酔は妊娠した喘息Pt及び出産のために選択すべき技術である。特にもしもプロスタグランディンとその誘導体が中絶や手術的分娩のために投与されているならば。
・区域麻酔が実行可能ではなく全身麻酔が求められる時、予防的な抗閉塞治療、揮発性麻酔薬、プロポフォール、オピオイド、適切な筋弛緩薬の選択は麻酔のリスクを最小化する。これに加えて、フェイスマスクとラリンゲルマスクエアウェイの使用は気道の被刺激性が少ないと報告されている。KimとBishopは52人の非喘息Ptで全身麻酔下に気管内チューブかラリンゲルマスクエアウェイを受けたPtの気道抵抗(respiratory system resistence:(Rsr))は気管内挿管を受けたPtよりLMAのPtの方が低いことを観察した。この結果はLMAの使用は気管内挿管よりもより確かな代替案であるという考えを支持している。

[前投薬premedication]
・Ptの十分な鎮静は周術期合併症を避けるためになされるべきである。この目的のためにbenzodiazepineベンゾジアゼピンは安全で気管支の状態を変えない。これに関連してKilらは経口のミダゾラム(0.5mg/kg)の投与は歯科治療を受ける軽症から中等症の喘息の小児で酸素飽和度、呼吸数、脈拍を変えないということに気付いた。それ故、ミダゾラム0.5mg/kgの投与は軽症から中等症の喘息のPtの鎮静のために安全で効果的な手段である。

[吸入麻酔薬 inhalational anaesthetics]
・吸入麻酔薬は気管支拡張作用を有し、気道反応性を減じ、ヒスタミン誘導性のbronchospasmを減らす。そのメカニズムはβ adrenergic receptor刺激が細胞内のcyclic AMPの増加へと導くことによると考えられている。これは直接的な気管支筋の弛緩効果を持っている。増加したcAMPは気管支myoplasm筋細胞原形質内で遊離のカルシウムを結合し、ネガティブフィードバックによって弛緩を生じる。それは抗原抗体を介して酵素生成、さらに白血球からのヒスタミン遊離をも妨害するかもしれない。
・このような理由でハロタン、イソフルランのような揮発性麻酔薬は閉塞性気道疾患のPtにおける全身麻酔の方法として永年推奨されてきたし、喘息重積状態の治療としても有用である。デスフルランは例外で分泌を増加し、咳、喉頭痙攣、気管支痙攣を生じうる。
・今までのところセボフルランを使った研究は論争を引き起こしそうな結果を示している。Rookらは喘息のないPtで気管挿管後にセボフルラン、イソフルラン、ハロタンの気管支拡張効果を比較した。彼らの研究ではハロタンは気道抵抗性Rrsの減弱でイソフルランより有意に有効とは言えなかった。それでもなおセボフルランはハロタンやイソフルランよりもRrsを減らした。
・Habreらは喘息のある小児とない小児でセボフルランで麻酔して肺機能を研究した。軽症から中等症の喘息のある小児でセボフルラン麻酔下の気管内挿管はRrsの増加を伴っており、喘息のない小児では見られなかったと結論付けた。にも拘らず明らかな臨床的に有害なイベントは観察されなかった。そしてScalfaroらの研究によればセボフルラン麻酔の前に吸入サルブタモール投与による治療はRrsの増加を予防できた。
・Correaらはセボフルランで麻酔された正常ラットで呼吸メカニズムと肺の組織学的分析を行った。セボフルラン麻酔は気道レベルには作用せず、肺の末梢で肺組織を固くし、器械的不均一性を増加させることを認めた。さらに加えてTakalaらはブタでセボフルラン麻酔後に気管支肺胞洗浄液の中に肺の炎症性メディエータが増加しているのを評価し、セボフルランは肺のロイコトルエンC4、NO3-、NO2-産生の増加及び炎症反応を示唆していることを報告した。

[静脈麻酔薬intravenous anaesthetics]
○Ketamineケタミンは静注全身麻酔薬で交感神経興奮性の気管支拡張作用を持ち麻酔と挿管が必要な喘息Ptで可逆性の喘鳴を予防する効果ゆえに魅力的な選択であると考えられている。ケタミンは気管支の筋組織を弛緩させ、ヒスタミンで誘導された気管支収縮を予防し、麻酔導入中のbronchospasmのリスクを減らす。この効果は気管支筋への直接作用と同時にカテコラミンの相乗作用が起源である。それでもケタミンは気管支の分泌を増やすのでアトロピンやglycopyrrolateのような抗コリン薬が共同して使われる。幻覚がケタミンの最も不快な副作用でベンゾジアゼピンでの鎮静を行って小さくすることができる。しかしその効力は対照試験control trialでは示されなかった。以前の研究でケタミンの中枢気道に対する効果が分析されていたが、Albes-Netoらはラットで前もって存在する気管支収縮なしでケタミンは気道レベルではなく肺末梢に作用し、機械的不均一性を増加させ、それは末梢気道の拡張と肺胞の虚脱から生じるのかもしれないということを観察した。
・BrownとWagnerはケタミンとプロポフォールの直接的及び反射誘導された気道収縮に対する局所的な気道に対する効果を調べた。彼らは非喘息動物モデルでケタミンとプロポフォールを直接気道投与 対 気管支動脈投与して、ケタミンとプロポフォールの気管支保護の主たる機序は神経誘導された気管支収縮の抑制であると結論付けた。

○プロポフォールpropofolは広く使われている短時間作動性静脈麻酔薬で、他の薬物より麻酔導入中の気管支収縮が少ないと考えられている。In vitroのデータではプロポフォールは気道平滑筋弛緩作用を持っている。Pizovらは無作為比較臨床試験で麻酔導入のために静注麻酔薬を受けた無症状の喘息Ptと非喘息Ptで喘鳴の頻度を評価した。彼らの観察では喘息Ptも非喘息Ptも両方とも導入にチオバルビツレートを受けたPtはプロポフォールを受けたPtより喘鳴の頻度が多かった。同時にEamesらは喫煙の頻度が多い非喘息Ptの集団においてチオペンタールとエトミデートとプロポフォールを比較して呼吸系の抵抗Rrsを評価した。それによるとプロポフォール麻酔で気管内挿管したPtはチオペンタールや比較的高用量のエトミデートを使ったPtよりもRrsは低かった。喘息がある小児と持たない小児でプロポフォール麻酔の効果を比較するためにHarbeらはプロポフォール、フェンタニルとアトラクリウムで麻酔導入して、プロポフォールの注入と50%N2OとO2で維持した。最終結果は呼吸メカニズムは小児で喘息があってもなくてもプロポフォール麻酔では麻酔メカニズムに変化はなかった。これに関連してPeratonerらは正常のラットで呼吸メカニズムに対するプロポフォールの効果を分析した。そしてこれらのパラメータと肺組織を関連付けてプロポフォールの作用部位を決定した。彼らの観察ではプロポフォールは気道レベルで作動し、中枢気道の拡張の結果として気道システムと肺のインピーダンスを減少させる。
・前述のことを根拠としてプロポフォールはタイミングの良い挿管を要する喘息のPtにとって安全であると考えられる。それにも拘らず、NishiyamaとHanaokaはプロポフォール導入に続いて気管支収縮を起こした2症例を報告した。両Ptはアレルギー問題を持っていて、プロポフォールは卵黄レシチンyolk lecithinと大豆オイルsoybean oilを含んでおり、それが問題を起こしたことは特に明確なことであると仮定された。それによって、プロポフォールはアレルギーのあるPtや薬剤性喘息のあるPtでは注意して使用されるべきである。

[オピオイド opioids]
・オピオイドはヒスタミン遊離するが、気管支反応性が増加したPtでも安全であると考えられている。フェンタニルとその相似体analogueはしばしば麻酔導入に使われているが胸部強直を引き起こし、bronchospasmと誤解される。ゆっくりivすればこの効果はほとんど見られない。しかしながらオピオイド投与後に得られる咳嗽反射の抑制と麻酔レベルの深化は喘息Ptには助けになる。

[筋弛緩薬 muscle relaxants]
・どのタイプのムスカリン受容体が刺激されるかによって、気管支の張力が増加するか減少するかが予測される。M2受容体に作用する筋弛緩薬(ガラミン、ピペクロニウム、ラパクロニウム)はM3受容体よりも気管支収縮を起こし、高める。一方,M3受容体に結合すると思われる筋弛緩薬はM2受容体以上あるいは少なくとも同様にはbronchospasmを起こさない。それらに含まれるベクロニウム、シスアトラクリウム、パンクロニウムは安全であると考えられる。
・ムスカリン受容体に対するこれらの直接効果に加えてアトラクリウム、ミバクリウムは投与量依存性にヒスタミンを遊離し、気管支収縮の引き金として考えられ、喘息Ptでは注して使用されるべきである。
・さらに手術の終わりに筋弛緩薬の拮抗reversalにネオスティグミン、フィゾスティグミンは除脈を生じ、分泌物を増加し、気管支の過剰反応性を示すので避けられるべきである。この目的のために筋弛緩薬の投与は手術の終わりには切れるように調節されるべきである。

[局所麻酔薬 local anaesthetics]
・アミド型の局所麻酔薬は自律神経線維の遠心系、求心系神経伝達及び咳嗽や気管支収縮反射のような自律神経反射の減弱あるいは遮断さえ行い、リドカインの中毒閾値の5mg/mL以下の血清濃度で抑制される。喘息のあるボランティアで静注リドカイン1~2mg/体重kgはヒスタミン誘導性の気管収縮を減弱し、気管内吸引や挿管などの気道刺激の反応を減弱させるために使用することができる。Groebenらは覚醒した人で、リドカイン静注と吸入albuterolサルブタモールは単独で投与された時にヒスタミン閾値を十分に増加させた。彼らは気管挿管によるbronchospasmの反射を予防するために術前の治療として吸入albuterolサルブタモールとリドカイン静注を推奨した。代わりにMaslowらは60人の喘息Ptで研究たところ、吸入albuterolサルブタモールは喘息Ptの気管挿管で気道反射を抑制したが、一方リドカインは抑制しなかった。
・リドカイン吸入はその全身投与よりも低い血清濃度で気道刺激反射を抑制する。気管支反応性は軽度の気道の炎症が先行していてもβ2-adrenergic agonistによる前治療で避けられるか、または局所麻酔のための4%溶液2mg/kg投与のリドカインで最小化される。これは最小の気道炎症を持った気管支の過反応性を減弱させるレジメである。加えてHuntらは軽症から中等症の喘息のある50人を対象者としてplaceboあるいはリドカイン4%を8週間投与のどちらかで治療した。その結果はリドカインのネブライザーは有効な治療であった。
・さらに局所麻酔薬は硬膜外から血中に吸収されて化学的刺激に対する気道の過敏性を減弱した。Shonoらは気管支喘息のある男性の症例で2%リドカインで持続硬膜外麻酔を行って、硬膜外注入後に喘鳴は徐々に消失し、持続硬膜外リドカイン注入155分後には完全に消失した症例を報告した。リドカイン持続注入中止後55分で喘鳴は再び出現した。これは喘息Ptにおいて区域麻酔単独であるいは全身麻酔の併用は有効であるという仮説を裏付けるものである。

○[術中気管支痙攣の治療 treatment of intraoperative bronchospasm]
・もしも術中に喘鳴が出現したらbronchospasm以外の喘鳴の原因を除外しなければならない。(気管内チューブの機械的閉塞、気管支内挿管、肺内誤嚥、肺塞栓、肺浮腫、緊張性気胸及び陰圧吸気negative pressure inspiration など)第1段階は静注あるいは吸入経路あるいは両方によって麻酔を深くする。低酸素血症を予防するために100%酸素を投与すべきである。
・定量噴霧式吸入器でβ2-agonistを気道から投与されるべきである。機械的換気中のエアロゾル化された薬物の配分は十分ではなく、噴霧された投与量の1%から3%程度の少なさであると見積もられ、実際Ptの肺には陽圧換気で届くという事実を考えることは重要である。肺に届くエアロゾルの量は呼吸時間を増やし、呼吸数を減らしネブライザー一杯の量を増やし、Y-ピースとカテーテルcatheter mountの間に、あるいはジェットネブライザーが使える時には呼吸器回路のY-ピースの吸入側の枝にベブライザーを位置させることによって改善される。
・エピネフリンの皮下注あるいは静注は重症のbronchospasmのPtを助けることができる。コルチコステロイドも利用されるがその活性の発現には投与後、4-8時間を要する。
・ロイコトルエン受容体拮抗薬と肥満細胞mast cell阻害薬は急性の気管支痙攣には役に立たない。アミノフィリンの静注は始めてよいが、頻脈、血圧上昇により、有用性が限られる。結果としてメチルキサンチンはもはや急性の再燃には勧められない。
・スムーズな(緩徐)覚醒は気管支攣縮のリスクを最小にする。導入時に気道確保困難がなければ、深麻酔下の抜管を試みることができる。もしも深麻酔下抜管が禁忌ならばPtは麻酔回復室post anesthesia care unitに挿管されたまま、気管内チューブに容易に耐えられるようにオピオイドを投与される。Ptが覚醒して適切な気道反射があるならば抜管する。抜管時にbronchospasmを予防するためにリドカイン静注が使われるかもしれない。

○[喘息重積状態時の吸入麻酔薬 inhalation anaesthesia in status asthmaticus]
・喘息重積状態は気管支閉塞の程度が発症時から重篤であるか、悪くなってから通常30~60分の治療で軽快しないものをそう呼ぶ。治りにくい(手におえない)喘息重積という用語は積極的薬物介入にも拘らずPtの悪化が24時間以上続く状態をいう。
・従来の気管支拡張薬が失敗した時には集中治療医はケタミンや吸入麻酔薬などの薬をしばしば使用する。この様な状態で深い鎮静は酸素化を改善するだけでなく中枢の代謝的必要条件を減らす。
・ハロタン、エンフルラン、イソフルラン、ジエチルエーテルなどの吸入麻酔薬による治療が治りにくい喘息重積発作の管理に成功裏に使われてきた。Iwakuらは喘息重積状態のPtをイソフルラン吸入で治療し、1回換気量 tidal volume、pH、PaCO2が麻酔後改善しこれらのPtをICUに入室させ人工換気を行ってイソフルランで治療しなかったPtよりもその時間が短かったことを確認した。
・QueとLusayaは帝王切開で出産中に喘息重積状態のPtにセボフルランを使って成功した。Schltzは26歳の女性で、郊外の救急病院の救急部で従来の治療で失敗した喘息重積状態のPtにセボフルランを使ったと報告している。セボフルランをおよそ150分投与し、Ptの状態を安定させ、3次施設へ固定翼の飛行機で輸送した。Mazzeoらは8歳の少年をケタミンとセボフルランで治療し、重篤な長時間の高炭酸血症hypercapneaにもかかわらず血行動態が不安定になることなく治療した。酸素化は続けられ合併症なく成功裏に回復した。

○[結論 conclusions]
・いくつかの麻酔薬が手に負えない喘息重積状態にさえ使用されている。それにも拘らず喘息の病態生理の理解が変化したという事実、我々がしばしば使っている麻酔薬が、喘息Ptでみられる慢性炎症を起こし過敏反応があり、リモデリングした肺の活性の部位や機序についての記載はない。
・これらのメカニズムの知識は麻酔管理における大いなる変革を刺激し、麻酔科医と集中治療医がこれらのPtに麻酔薬と技術を最適化させるであろう。そして過反応性を抑制し、気管支拡張を起こすだけでなく、基礎にある炎症過程とリモデリングを減少あるいは抑圧するのに効力がある新しい薬物の開発を研究者に働きかけるであろう。それ故、麻酔の合併症と不利益な事象は強く最小化され、Ptにも医師にも有益になるであろう。 
◇ S.M. Burbran et al. Anaesthetic management in asthma MINERVA ANESTESIOL 73, 2007, p357-65    <3/25/2017>

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10.08.03.04. 術中のフェンタニルの使用方法


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10.08.03.04. 術中のフェンタニルの使用方法
・通常使用しているfentanylの投与量では血中濃度(または効果部位濃度)は1.0~2.0ng/mL程度
・MACは麻酔薬の脊髄反射の抑制度を見たものでありMACawakeは麻酔薬の大脳への作用と関連したもの
・通常のfentanylの使用ではSevoflurane麻酔からの覚醒にほとんど影響しない
・1.0~3.0ng/mLのfentanylはpropofol麻酔からの覚醒に影響していない
・fentanylは基本的に麻酔からの覚醒にほとんど影響しない----麻薬の使用により覚醒遅延が生じるのではなく覚醒遅延の大部分は麻酔薬の相対的または絶対的過剰投与
・麻酔薬濃度の上昇による血圧低下作用は心血管系への直接作用の結果であり、侵害入力抑制の結果ではない----従って術中に麻酔薬濃度を調節する意味はほとんどない。術中の侵害入力を適切にコントロールするためには硬膜外麻酔などの神経ブロック、もしくは麻薬を使用する必要がある
・無意識や無記憶が得られていれば、それ以上高濃度の麻酔薬は必要ない
・fentanylは代謝物の活性は無視できる
・一般的にはfentanylは効果部位濃度が0.8~1.0ng/mL以上で鎮痛効果を発揮する。また2.0ng/mL以上になると呼吸抑制を生じる危険性がある。しかし同一薬物効果部位濃度に対する感受性の個人差がある
・一般的には麻薬を単独で使用している場合には痛みを感じている濃度では呼吸抑制が生じることはない
・術中に適切な鎮痛効果を得るために必要な効果部位濃度は1.5~3.0ng/mL程度。呼吸抑制が生じる効果部位濃度は2.0ng/mL以上である→最悪でも覚醒時のfentanylの効果部位濃度は維持時の2/3にさえなればよい
・一般に侵害刺激は交感神経系を緊張させ、結果として血圧上昇や心拍数増加をきたす。特に心拍数増加は血圧上昇よりも信頼できる指標である。手術刺激に反応して心拍数増加が認められる場合には、fentanylの効果不足を疑い1.0㎍/kg程度追加投与する。術中の体動や自発呼吸の出現も鎮痛効果不足の兆候。
・1.0㎍/kgのfentanylを追加投与しても効果部位濃度は20~30分程度で追加投与前のレベルに復する。手術終了間際であってもfentanylの効果が不足していると判断された場合は追加投与すべき
・気管チューブ抜管後にPtが創部痛を訴えた場合には、その時点で1.0㎍/kg程度のfentanylを追加投与する
・麻酔薬投与中止後、麻酔薬濃度が高いうちに覚醒してきたら(血圧上昇、心拍数増加、自発呼吸の早期発現および頻呼吸などは鎮痛効果不十分のサイン)fentanylを成人なら1.0㎍/kg、小児(幼児以上)なら2.0㎍/kgを追加投与する
・覚醒時に創部痛を訴えたり、不穏になったり高血圧や頻脈が生じたりする大部分の原因は鎮痛不良。鎮痛が十分であれば抜管前後に降圧薬やβ遮断薬が必要になることはほとんどない
・覚醒させるときに呼吸抑制が生じた場合:麻酔薬を中止後、自発呼吸は出現したが呼吸回数が10回/分未満になった場合、麻薬による呼吸抑制。(8回/分以上でも可)
ナロキソンによる拮抗:ナロキソンン0.2mg/2mL/1Ap+NS8mL⇒0.04mg/mL→ナロキソンNS 3mL=0.12mg   成人の場合0.04mgずつ2回までivして経過を見る。呼吸数10~12回/分程度になればOK.拮抗できたらナロキソン0.12mg im
ナロキソンNS 2mL(0.08mg)投与しても拮抗困難な場合はfentanylがかなり過量投与。
・麻薬使用時の術後悪心嘔吐(PONV)に対する対策:女性の手術ではTIVA麻酔が有効(propofolの制吐作用)  droperidol1.0mg程度iv(0.4mL)。droperidol25mg/10mL/1V=1.25mg/mL=1.0mg/0.4mL=0.625mg/0.25mL
○古い文献でremifentanil以前の論文であるがfentanylの使用上の注意がよくわかる
◇萩平哲 術中のフェンタニルの使用方法について 日臨麻会誌Vol26, No7, 2006, p638-645     <2/20/2017>

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120.03.02. 周術期Ptのリスク階層化モデル

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120.03.02. 周術期Ptのリスク階層化モデル
○ 術前評価
1)ASA-PS
Ⅰ.  正常健常Pt
Ⅱ.  軽度の全身疾患を有するPt:喫煙者、機会飲酒、妊娠、肥満(30Ⅲ.  軽度の全身疾患を有するPt:1つあるいは複数の中等症~重症の疾患を持つ、コントロール不良のDM・高血圧、COPD、病的肥満(BMI≧40)、活動性肝炎、アルコール常飲・依存症、永久ペースメーカー、中等度の左室駆出障害、定期的に透析を受けている末期腎不全、未熟児、受胎後<60週、心筋梗塞(≧3ヶ月)、脳血管障害、一時的脳虚血発作、冠動脈疾患、冠動脈ステント挿入
Ⅳ.  生命を脅かす重度の全身疾患のあるPt:最近の心筋梗塞(過去<3ヶ月)、脳血管障害、一時的脳血管障害、冠動脈疾患がありステント挿入後、進行する心筋虚血、重症弁疾患、左室駆出率の高度の低下、敗血症、播種性血管内凝固、急性腎不全、定期的には透析を受けていない末期腎不全
Ⅴ.  手術の如何にかかわらず救命の可能性が低い瀕死のPt:腹部/胸部大動脈破裂、重症外傷、mass効果がある頭蓋内出血、心疾患があるPtの腸管虚血、多臓器不全
Ⅵ.  脳死Pt:臓器移植ドナーとなる脳死Pt

・リスクの低いPtにおける死亡率の予測には優れている。合併症が起きなかったPtの96%を正しく予測できた一方で、合併症を起こしたPtの16%しか予測できなかった

2) Revised Cardiac Risk Index
1 高リスク手術(開腹術、開胸術、腸骨動脈より中枢の血管手術
2 虚血性心疾患の既往
3 うっ血性心不全の既往
4 脳血管疾患の既往
5 インスリン投与の糖尿病
6 術前血清クレアチニン値>2.0mg/dl

6つの因子のうち2つ以上が存在すると周術期イベント(心筋梗塞、肺水腫、心停止など)の発生率が増加する
・非心臓手術の術後に心血管系合併症を発症する群としない群を区別する指標として優れて
いる。CRPやNT-pro-BNPを組み合わせると予測能力がupする。血中クレアチニン値、
eGFR cut point、年齢、末梢血管疾患既往歴の有無、機能的能力、手術手技の違いを因子
として加えると予測能力が改善する。
3) Surgical Apgar Score(SAS)
 01234
推定出血量(mL)>1000601~1000101~600≦100 
最低平均血圧(mmHg)<4040~5455~69≧70 
最低心拍数(bpm)>8576~8566~7556~65≦55

推定出血量、術中最低平均血圧、術中最低心拍数を点数化し、その合計点は術後の重大合併症の発生率と相関する。  合計点数が大きい程、正常。
・開腹手術と血管手術では術後30日以内の重大合併症発症と強く相関する。
◇ 小川真生ら:誌上抄読会 臨床麻酔vol40, No12, 2016, p2707-2712

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80.04.02. 術中の低酸素血症

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80.04.02. 術中の低酸素血症
○[症例検討] 呼吸器合併症があるPtの腹腔鏡下子宮筋腫核出術
[症例] 26歳♀、身長166cm,体重52kg。子宮筋腫→腹腔鏡下子宮筋腫核出術予定。喫煙歴+,10本/日×5年間。気管支喘息+,ベクロメタゾン吸入。頭低位としてオキシトシンを子宮内に注入して5分後、吸入酸素濃度40%にも拘らずSPO2が100→92%に低下した。
・術中の比較的高濃度O2(40―50%)吸入ではSPO2の高度の低下はあり得ない。肺に問題のないPtならPaO2は150-200mmHg位。術中にSPO2が95%まで低下したとするとPaO2は80mmHg程度。酸素化能は約半分まで下がったことになる。
1) 従量式調節換気(VCV)の場合、気道内圧の変化を見る
2) カプノメータの波形と気管チューブの深さをチェックする
3) 用手換気にして胸部の聴診,視診を行う
4) SPO2が90%より低下しそうなら吸入酸素濃度を100%に上げる
・VCVの場合、気道内圧↑は痰詰まり、気管チューブの屈曲,位置異常、喘息発作など
 気道内圧↓は呼吸回路のどこかにリークがある
・従圧式調節換気(PCV)では1回換気量の減少
○カプノメータ:喘息発作などの閉塞性換気障害では、息が呼出しにくいから第3相波形が右肩上がりになる
・呼気二酸化炭素濃度は通常、気腹開始から30分位で上がり止まる
・分時換気量を増やしても上昇が止まらない場合(50mmHg位まで上昇することがある)は二酸化炭素による皮下気腫か気胸を考える。気腹による気胸は横隔膜の脆弱な部位から二酸化炭素が胸腔に入り生じる
○気管チューブの深さ:気腹して頭低位にしたらSPO2が低下した場合、気管チューブの位置異常の可能性がある→気管分岐部を越えて片肺換気になることがある;術中Xpは時間がないので聴診、気道内圧で判断。気管支鏡で確認するのもよい。166cm,♀では深さ20-21cmが妥当
○聴診と視診、用手換気による触診:用手換気で肺コンプライアンスを感じる。麻酔回路にリークがあればすぐわかる。痰が多いと湿性ラ音+、喘息では呼気終末喘鳴wheezing+。心不全でも喘鳴+。
○吸入酸素濃度:小児の場合は機能的残気量が少なく、酸素消費量が多いので急にSPO2が低下するので、すぐに100%酸素に切り替える。成人の場合SPO2が92%ならば治療による成果を確認してから酸素濃度を上げる余裕はある。
・このPtでは喫煙者→痰詰まり→無気肺、片肺挿管、気管支喘息発作などの可能性が大
○無気肺:気管吸引、気管支鏡による吸引。用手的に加圧、リクルートメント。肺を膨らませるためには最初に高めの換気圧opening pressureが必要→PEEPをかける。術中酸素化障害の大半は無気肺。
○片肺挿管:チューブを浅くして再固定
○喘息発作:β刺激薬(サルブタモールなど)。麻酔回路にスペーサーを取り付け、4-5パフ噴霧→ステロイド静注(メチルプレドニン125mg)、アミノフィリン持続静注(500mg/日:負荷投与250mg/30分)
○気胸:肺自体に損傷はないので気腹中止すれば改善する
◇ 三村文昭:術中の低酸素血症2 症例検討 呼吸器合併症があるPtの腹腔鏡下子宮筋腫核出術 LiSA Vol21, No1, 2014, p28-31      <12/7/2016>

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100.03.06. 持続フェンタニル静脈内投与に添加したdroperidolによるⅢ度AVブロック

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100.03.06. 持続フェンタニル静脈内投与に添加したdroperidolによるⅢ度AVブロック
○[症例報告] 73歳、♀、153cm,48kg. 転移性肝腫瘍→腹腔鏡下肝切除術。
PH:胃癌→幽門側胃切除、子宮筋腫→子宮全摘、直腸癌→腹腔鏡下直腸切断術→肝転移→今回の腹腔鏡下肝切除
・術前ECG:QT時間0.36秒、QTc時間0.47秒
・麻酔導入:propofol+remifentanil+Rocuronium→気管挿管
・麻酔維持:Desflurane3~4%、remifentanil0.2~0.4㎍/kg/min、+Rb
 BP低下にdopamine2.0~3.5㎍/kg/min
・手術時間:4h46’ 総輸液量3937mL、出血量372g、尿量1440mL
・手術開始2h後からPONV予防のためdroperidol1.25mg(0.5mL) iv、その1h後から
 Fentanyl600㎍+droperidol5.0mg(2mL)+NS34mL (a) を2mL/hでciv開始した
・術後覚醒良好でICU入室
 ICU入室50分後、(a)開始後3h30’に嘔気+→メトクロプラミド(プリンペラン)iv ECG?
 さらに2h後、嘔気+→ECGでⅢ度AV blockに気付いた。呼びかけに応じず意識レベル低下、CPR開始しようとしたが間もなくECGは補充調律から洞調律に復帰し呼びかけに応じた。Droperidol中止したところⅢ度AV blockは再発しなかった
[考察]・droperidolで誘発される重篤な不整脈としは、QT時間延長に続くトルサード型の心室性の頻拍性不整脈が知られている。K+チャンネル遮断作用に関連した心筋の再分極遅延か?
・droperidolの使用量と不整脈の発生頻度:droperidol使用量が高用量であるほど不整脈を誘発しやすい。2.5mg(1mL)以下の通常使用量では稀だが、通常使用量0.1mg/kgでもQT時間延長から不整脈誘発の報告がある。1.25mg(0.5mL)のdroperidolではQTc時間延長はなかったが2.5mL(1mL)ではQTc時間延長がみられた報告がある。Droperidolが原因のⅢ度AV blockなどの伝導障害を伴う除脈性不整脈の報告は少ない。Droperidolの単回投与(0.1~0.25mg/kg)では圧反射に伴って心拍数はわずかに上昇することが多いと報告されている。このcaseのdroperidol総投与量は1回目嘔気時で2.0mg、2回目嘔気時で2.4mg。
・肝切除で肝代謝が一時的に低下していたこと、fentanylとも併用で副交感神経系の反射的興奮が原因か?
○[注釈] (a)fentanyl600㎍(12mL)+droperidol5mg(2mL)+NS34mL では
・fentanyl=12.5㎍/mL、1時間2mL投与でfentanyl25㎍/2mL/h。
・droperidol=0.104mg/mL、1時間2mL投与で0.2083mg/h=208.3㎍/h
・私が術後鎮痛及びPONV予防に通常使用しているのはfentanyl20mL+droperidol0.6mL (1.5mg)+NS19.4mL. これではfentanyl25㎍/mL、droperidol37.5㎍/mLの濃度で、およそ1.5mL~2.0mL/hでcivしている。時間当たり2mLとしても報告例は2.78倍投与していることになる。
◇小寺厚志:持続フェンタニル静脈内投与に添加したドロペリドールが原因と考えられたⅢ度AVブロックの1例 臨床麻酔 Vol40, No10, 2016-10, p1380-1383  <11/16/2016>

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80.20.01.02. 術前の赤血球製剤準備

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80.20.01.02. 術前の赤血球製剤準備
(1)交差適合試験
・1) 最大手術血液準備量 maximum surgical blood order schedule; MSBOS
準備血液単位数(C)、実際に輸血した単位数(T)   C/T比を1.5以下~1に近く
  胆嚢摘出術    type & screen(T&S)
  胃全摘術     3
  心臓手術     4
  大動脈手術    4
  股関節全置換術  3
  膀胱全摘回腸導管 4
  乳房切除     T&S
  肺葉切除術    2
・T&Sは輸血する可能性 30%以下、輸血しても2単位程度の場合に用いられる
 ABO血液型,Rho(D)型 (type) と不規則抗体スクリーニング (screen)
Rho(D)陽性、不規則抗体陰性なら交差適合試験は行わない
 自己血輸血の場合、Pt取り違えがあるかもしれないのでクロスマッチを行う
◇稲田英一:輸血療法と凝固管理, 麻酔への知的アプローチ 第9版 日本医事新報社 東京, 2015, p289-291
◇日本赤十字社事業本部:「輸血療法の実際に関する指針」(改訂版)及び「血液製剤の使用指針」(改訂版) 平成17年9月, 平成21年2月一部改正, 2009.2.
・2) 手術血液準備量計算法 Surgical Blood Order Equation:SBOE
・SBOEの例:
体重60kg、術前Hb12g/dL、心肺機能、脳循環に問題ないPt、貧血の限界7g/dL。 
循環血液量 60kg×70mL/kg=4200mL⇒出血量が4200mL×(12-7)/12=1750mLに達するまでRCC-LRは不要。このPtの予定術式の平均出血量が1600mLなら、平均出血量をT&Sの扱いで用意する
◇入田和男:周術期の輸血療法。予定出血量に応じた輸血の準備と対応 LiSA vol19,no11, 2011,p1174-1180
○出血に応じた輸液・輸血療法
1)循環血液量の20%未満の出血 840mL/60kg←循環血液量70mL×60kg=4200mL
 ⇒細胞外液の輸液、乳酸リンゲル液などを出血量の2―3倍投与
2)循環血液量の20―50%の出血 840―2100mL/60kg
 ⇒1)に加え、人工膠質液、赤血球製剤の投与
3)循環血液量の50―100%の出血 2100―4200mL/60kg
 ⇒1)2)に加え等張アルブミン製剤の投与
4)循環血液量を越える出血 >4200mL/60kg
 ⇒1)2)3)に加え新鮮凍結血漿、血小板製剤の投与
◇吉場士朗:周術期の輸血療法 血液製剤の使い方 LiSA vol19, no11, 2012, p1164-1168
・許容出血量(mL)=体重(kg)×70×(術前Hb-許容Hb)/術前Hb
循環血液量=70mL×体重kg
循環血漿量=40mL×体重kg または 70mL×体重×(1-(Ht/100))
・Hbの輸血効果 予測上昇Hb値(g/dL)=循環血液量(dL)/投与Hb量(g)
    血液200mLに由来するRCC-LR製剤中のHb量は26.5g
・FFPの上昇活性値
 予測上昇凝固因子活性値(%)=
{新鮮凍結血漿の用量(mL)×血管内回収率(%)/循環血漿量(mL)}
・血小板の輸血効果
 予測血小板増加数(/mm3)={(輸血血小板数)/循環血液量(mL)×103}×(2/3)
                           <11/14/2016>

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140. 医療統計140.01. オッズ比、相対リスク、絶対リスク減少率、Number Needed to Treat


目次
140. 医療統計
140.01. オッズ比、相対リスク、絶対リスク減少率、Number Needed to Treat
○ OR, RR, ARR, NNT―これらのうち、我々はどれを使うべきか
○[要旨] はじめに:データの統計的解析及び医療データを理解する際に、医学文献では大いに注意を払うが、にもかかわらず臨床医の間には混乱を生じる。それぞれの研究者は治療法の比較に異なる方法を用いている。例えばエンドポイント(結果)が2つからなる場合、疾病がある場合とない場合には通常の指標はオッズ比、相対リスク、相対リスク減少率、絶対リスク減少率、及びNumber Needed to Treat(NNT)である。その際、臨床医が直面する質問は:私のPtに最良の治療を選ぶ際に助けになるなるのはどれでしょうか?である。
[方法] この論文の目標は例を用いて、どのようにそれぞれの指標は使われ、それは何を意味するのか、その欠点と利点は何かを説明することである。
[結果] いくつかの指標の対は同等の情報を表わす。さらに異なる指標は結果として異なる印象を与える。
[結論] 研究者は相対的及び絶対的指標を表示し適当な信頼区間を用いて表示することを推奨する。
[Keywords] odds ratio, risk reduction, number needed to treat, 医学的意思決定
○[はじめに] 近年医学文献で利用できる情報量は急速に増加しており、さらなる研究もなされるにつれて、結果はより容易に利用しやすくなっている。Ptでさえもインターネット時代においては最近の研究について気付いている。問題は種々の発表されている研究におけるエビデンスを如何に審査して新しいものに既存の治療法を変えて、正当化するかどうかを決めることである。「統計」という言葉が出ると多くの臨床医は混乱し不快感のうめき声をあげて反応する。
・異なる治療法の比較をする時の主なる困難さはあらかじめ計画された研究ではほぼお互いに比較されることはないという事実である。代わりにほとんどの研究は新しい治療と偽薬と比較されている。さらに研究のエンドポイントが異なっており疾病のはじめの重症度が異なる場合もある。その研究は前もって異なる薬物に曝露されているPtの集合を見ている場合もあり、アウトカム(結果)の基準が異なっているかもしれない。この問題は調整目的でデザインされたプラセボ(偽薬)対照の試験のシステマティックレビューの限界を示している。明らかにいくつかの治療法を比較する最も良い方法は全ての比較されるべき治療法を含めてデザインすることであるが、調整目的のために成し遂げるのは困難な仕事である。
・ここ数年のうちにいくつかの独立した研究の結果を統合した問題が、多くの文献の話題になっている。いくつかは相対リスクだけあるいは絶対リスク減少率だけを使用する一方、他の論者はNNT基準の使用を主張している。何人かは選択の基準としてオッズ比を考えている。明らかに方法の選択は研究の型とそのデザインに結びついている。後ろ向き研究retrospective studyと横断研究cross-sectional studyのためには、そこでは目的は差異よりも関連性を見ているのでオッズ比が推奨される。そこでは相対リスクやリスク差risk difference(=ARR)は意味ありげに計算される事はない。リスク計算はフォローアップ研究(追跡調査研究)で意味があるだけである。オッズ比はまたケースコントロール研究でだけ使われ、相対リスクは推定できない。
○[方法] この文献では我々は主に比較研究 controlled studyに関与する。我々は近年医学文献に報告された治療効果の、その利点と欠点に沿って異なる指標に関して述べ、論争のいくつかをどちらが使われるべきかについてまとめる。治療効果の判定は使われた指標に依存するので臨床医及びPtが指標間の差を理解することが重要である。この理解が症例のための適切な指標の選択を助け、相対的かつ絶対的指標より完全な絵を与えるために報告されることを望んでいる。
○[[一般的指標]]
・[絶対リスク減少率] 基本的で最も単純な指標は絶対リスク減少率absolute risk reduction(ARR)で、risk difference(リスク差)とも呼ばれている。治療を行った結果として、イベントのリスクは臨床的に有意義な量、減少したか?ということである。計算法はまさにコントロール群のイベントのリスクと治療群のイベントのリスクの差である。
・推定されたARRの利点は計算が容易で得られた信頼区間は理解され易く、(そして標準的な統計パッケージで容易に利用できる)、治療を行わない場合の基礎となるリスクと治療に伴うリスク減少率の両方を反映している。明確な意味があり、臨床医に訴える明らかな意味を持っている。ゼロを含む信頼区間は治療薬と偽薬placeboの間にリスクの点からは有意の差がないことを示している。1つの欠点はリスクが0や1に近い時に、リスクが範囲の中央近くにある時よりも固定されたサイズのリスクの差が、より大きな重要性を持つかもしれないということである。0.010と0.001の差は、人々がより大きな副作用をこうむるリスクを考える際に、0.410と0.401の差よりもより著しいということです。
・[Number Needed to Treat] 絶対リスク減少率ARRに基づいた関連ある指標がnumber needed to treat(NNT)でARRの逆数と定義されている。この指標の意味するところは、そうでなければ利益を得ることできなかった1人のPtで望ましい結果outcomeを得るために治療される必要があるPtの数である。
*[注]その治療の1例の効果を観察するためには、その治療を何人のPtに用いなければならないかという指標。
また結果outcomeが2つである時は費用対効果比は増加する費用とNNTの産物になる。NNTの信頼区間(CI)は絶対リスク減少率の上限及び下限の信頼限界の逆数で得られる。NNTは医学文献の中で論ぜられる利点も欠点もある。それは容易に理解され“「………」は我々が我々のPtにとって最良の決定をなす手助けになるであろう”と言って使われる。ElferinkとVan Zwieten-BootはNNTの使用を推奨し、NNTは絶対的利益を考慮に入れ、容易に解釈されるという意味で統計的及び臨床的意義を述べるので有益な指標であるといっている。NNTの数値が病気やinterventionや結果の機能であると気付く価値がある。結果が非常に深刻である場合の10のNNTはより穏やかな結果であるNNT5よりも異なって判定されるかもしれない。それ故に同じ状態、重症さ、結果の治療が比較される際にのみ、NNTを直接比較するのは適切である。
*[注]ORとRRよりもARRとNNTを使うよう奨められている。そうすることにより1人のPtを救うためにどれだけの費用と薬が必要なのか明確になる。
・治療群とコントロール群にリスク差がない時は絶対リスク減少率ARRは0で、NNTは無限大となる。また差が有意でない時は、絶対リスク減少率ARRの信頼区間CIは0を含むであろう。NNTのCIはARRのCIの逆数を取って得られるから、0.1のARRで―0.05~0.25の95%CIが得られる。それで10のNNTと-20~4の95%CIを生じる。この区間CIについては2つの問題がある。第1にNNTは正の数であるべきで、、第2にCI信頼区間は点推定値を含むべきではない。この場合はNNTは10に等しい。これに対しMcQuaryとMooreは推定値だけを使うよう示唆している。しかしながらCIのためには結果が有意のときのみ提示されるのは十分であるとは言えない。NNTが負である時の解釈は次のようになっている:もしもNNTのPtが新しい治療法で治療された時は1人の少ないPtが彼らが全て対照で治療された時よりも利益を得られないということ。NNTは負である時にはそれはNNHと呼ばれる。
*[注]NNTがマイナスである時は対照群より成績が悪いことを示している。
The number needed to harm. ARRが0に近づくときは新しい治療法とコントロールに差はないことを意味する。それ故、1人が良くなるために無限に多くのPtが必要となり、それは誰も持っていない。(95%CIが-20~4)というようなCIの解釈の問題がまだ存在する。なぜならARR 0はNNTが無限大に等しいと解釈されるから。1つの単純な解決法は2つに分けた区間として報告することである:NNH(20―∞とNNT(4―∞)。Altmanは2つの区間を1つにまとめることを提案しているNNTH 20 to ∞ to NNTB 4)。
・欠点を打ち負かすためにNNTはそれらが適応される対照群のイベント率とそれらから得られる相対リスクとCIによってに伴われると示唆される。NewcombeはARRはより基本的な量であり、より多く誤解される可能性が少なく、NNTにとって好ましい。NNTの特異性の問題のためにNNTとそのCIが、ARRが十分ゼロから離れている時に代替法として使われると示唆している。
・[相対リスクと相対リスク減少率] 次の2つのよく知られた指標が相対リスクRRと相対リスク減少率RRRである。治療法の相対リスクは治療群とコントロール群のリスクの比で、またリスク比risk ratioと呼ばれいる。相対リスク減少率は1から相対リスクRRを引くことで得られる。それはARRとコントロール群のリスクの比と同じである。
・RRは計算と解釈が簡単で、標準的な統計ソフトウェアに含まれている。信頼区間CIはlog(RR)のためのCIの下限、上限のべき乗をとって計算される。それは一般的公式では  CI=log(RR)±1.96×SE(log(RR))。 (1)
しかしCIを計算する簡単な方法はよく行われてない。それで、Equiv Test及びCIAが使われるが、それらはいまだ広く利用されていない。
・RRの欠点の1つはその値が非常に異なった臨床的状況でも同じになりうるということである。例えば、RRが0.167という値は次のような臨床上の状況の両方の結果となる。
1) 治療群とコントロール群のリスクがそれぞれ0.3と0.05である時[0.05/0.3=0.167]
2) 治療群のリスク0.84、コントロール群のリスク0.14の場合[0.14/0.84=0.167]
・RRは比例スケールとして明確であるが、絶対的値に実際の意味がない。それ故、具体的な臨床や公衆衛生の状況へエビデンスのまとめや絶対的指標を応用する時の相対的効果の指標として使用する意味合いが一般的である。
○ [オッズ比Odds ratio] オッズ比(OR)は効果の大きさの一般的指標で症例対照研究case control studyやコホート研究cohort study,臨床研究clinical trialで報告されるかもしれない。そして後ろ向き研究や横断研究でも使われ、そこではゴール(目的)は差異よりも関連性を見ることである。オッズはロジスティック回帰モデリングにおける効果の大きさの自然な指標で基準を満たすPtの数とそうでないPtの数、あるいはイベントの起こらない数と関連した出来事の数の比として解釈される。
・オッズ比は治療群のオッズとコントロール群のオッズの比である。それはその信頼区間CIと共に標準的統計ソフトで得られる。オッズもオッズ比もディメンション(次元)がない。1より小さいオッズ比ORはオッズが減少したことを意味し、1より大きなORはオッズが増えたことを意味する。ORは理解するのが難しく、しばしば相対リスクとして理解されていることに注意を払うべきである。結果outcomeが比較的稀な時にはORは相対リスクRRに近いが、当初のリスクが高い時には相対リスクRRの良い近似ではないことは認識された問題である。さらにORはいつも相対リスクRRに比べて効果の大きさが誇張されるであろう。ORが1より小さい時はそれはRRより小さく、1より大きい時はORはRRを越える。しかしながら解釈は一般的にこの矛盾によっては影響されないであろう。なぜなら矛盾は効果の大きさが大きく陽性のときか陰性の時だからである。その様な症例は質的結論は変わりないままであるから。
・RRとORは下記のように注意することには意義がある。
RR=OR*(1+(n21/n22))/(1+(n11/n12)), (2)
ここでn11は(yes, group1)の頻度;n21は(yes, group2)の頻度;n22は(no, group2)の頻度;n12は(no, group1)の頻度である。
この公式はn11, n22, すなわち”yes”の結果の頻度がそれぞれn12, n22に比べて小さい時にORがRRとよく近似することを説明している。これは「稀なoutcome結果の仮定」として知られている。
・オッズ比は単にロジスティックモデルから直接推定される関連性の指標であり、研究デザインがfollow upやcase-controlやcross sectional横断研究であるかどうかに関係なく特別な想定を求めることはない。Case-controlや横断研究ではオッズ比は下記のように4つの確率に依存している。
OR={P(E=1|D=1)/P(E=0|D=1)}/{P(E=1|D=0)/P(E=0|D=0)}   (3)
ここでPtが曝露されていればE=1,それ以外はE=0, Ptに疾病があればD=1,それ以外ならD=0。リスクはcase control study, 横断研究から推定されることはできないと気付くことは価値がある。なぜなら利用することができないP(D|E)型の条件付きの確率を必要とするので。
○ [[結果]]
○ [仮定的例]
・一部分McQuaryとMooreに使われた仮定的例はその異なる指標を信頼区間CIを付けて使われるであろう。研究の目的はplacebo偽薬を受けたコントロール群と新しい抗片頭痛治療薬を受けた治療群で片頭痛の再発を比較することである。説明のためにコントロール群と治療群の4つの異なった可能性がありうる結果outcomeを調べてみる。Stage1のためのC1とM1、stage2のためのC2とM2、stage3のためのC3とM3、stage4のためにC4とM4を示す。全グループは1000名と仮定する。
・研究終了時にコントロール群C1の30%で片頭痛が起こった(risk, 0.3), 治療群M1は5%、コントロール群C2では84%、治療群M2で14%、コントロール群C3で10%、治療群M3で1.7%、C4で95%、M4で70%でTable1にまとめられている。
・使われた指標は95%CI付き絶対リスク減少率ARR、リスク、95%CI付きNNT、95%CI付き相対リスクRR、リスク減少率、オッズ、95%CI付きオッズ比ORで、以下のことが分かる。
1. はじめの3つのcaseは同じ相対リスクRRと相対リスク減少率RRRであるが、一方case4は著しく異なっている。しかし絶対リスク減少率ARR、NNT、オッズ比ORは3つのcaseでは著しく異なっている。(オッズ比ORはcase1及び3では同じであるがcase2は異なっている。
2. Case1,4は同じARR、NNT、ORであるが、RR、RRR、基準のリスクは非常に違っている。     Table1
 C1M1C2M2C3M3C4M4
Event3005084014010017950700
No event70095016086090098350300
Risk of event0.30.050.840.140.10.0170.950.7
ARR 0.25 0.7 0.083 0.25
   CI 0.217-0.283 0.656-0.744 0.062-0.104 0.217-0.283
NNT 4 1.43 12.05 4
   CI 3.53-4.64 1.34-1.52 9.65-16.02 3.53-4.60
RR 0.167 0.167 0.17 0.74
   CI 0.125-0.222 0.143-0.195 0.101-0.282 0.706-0.769
RRR 0.833 0.833 0.83 0.26
Odds0.4290.0535.250.1630.1110.017192.33
OR8.140.12332.250.0316.420.1568.150.123
   CI 0.090-0.168 0.024-0.04 0.092-0.262 0.090-0.168

○ [実際の例] 次の例は前向き研究で早期のParkinson病でropinirole(ROP)か、levodopa(LD)服用後のジスキネジアの頻度を比べている。結果はropiniroleを飲んだ179例中17例、levodopaを飲んだ89例中23例でジスキネジアが起こっている。データはTable2にまとめられている。
Presence of dyskinesia
YesNoTotal
Levodopa236689
Ropinirole17162179
Total40228268
・LDを飲んだPtのジスキネジアPtのリスクは23/89=0.258,一方ROPの方のPtのジスキネジア出現のリスクは17/179=0.163. 
それ故、絶対リスク減少率ARR=0.258―0.095=0.163  リスク差
ARRの分散varianceは V(ARR)=0.258(1-0.258)/89+0.095(1-0.095)/179=0.00263
従って比率の違いに対する95%信頼区間は以下のようになる
  0.163±1.96√0.00263=(0.0636―0.264)
ここで1.96は95%CIのstandard normal tableから取られた上限2.5%である。
・NNTとそのCIはARRとそのCIから逆数を取って得られる。
すなわちNNT=1/ARR=1/0.163=6.13、CIは((1/0.264)-(1/0.063))=(3.79―15.87)
相対リスクは0.095/0.258=0.368
・信頼区間は次のように得られる:logRRのCIが得られ、下限及び上限は望む区間を得るために変換される
・log(RR)の分散は下記のように与えられる
 V(log(RR))=(1/23)-(1/89)+(1/17)-(1/179)=0.08551
 それ故 log(RR)の95%CIは次のようになる
 Log(0.368)±1.96√0.08551=(-1.5727から-0.4265)
信頼区間をべき乗して、RRの95%CIが提供される:(0.207―0.653)。
・LDを飲んだPtでジスキネジアが起こるオッズは(23/66)=0.348. 
ROPを飲んだPtでジスキネジアが起こるオッズは(17/162)=0.105、それ故オッズ比は0.105/0.348=0.302
信頼区間を得る手順は次の通り:ORのlogのCIが得られ、下限及び上限は望む間隔に変換される。
log(OR)の分散は次のようになる
V(log(OR)=((1/23)+(1/66)+(1/17)+(1/162))=0.1236
それ故、log(OR)の95%CIは
Log(OR)±1.96√0.1236=-1.198±1.96×√0.35157=(-1.887から-0.508)
下限、上限をべき乗してORの95%CIを得る(0.151―0.602)
相対リスクRRは釣り合ったスケールであるが、絶対的なスケールに対して実際の意味を持たないのでエビデンスをまとめる相対的効果の指標を使うことと具体的な臨床や公衆衛生の状況にそれを適応させる絶対的指標を両方報告するのが最適であろう。
我々の例でいうと、全ての統計はROPがジスキネジアを予防することをよりよく示している。しかしながらLDに伴うリスクはROPに伴うリスクより3倍高く、ROPを使うことによって、ジスキネジアが発症するリスクは16%減少したと報告するのが最良である。情報のこれら2つの部分は絵を完成させる。
・Malenkaらによって報告された興味深い研究によれば利点に対するPtの理解は、どのように利点が示されるかに影響される― 相対的あるいは絶対的という用語に。
利点やリスク、相対的 対 絶対的という用語の組み立てはPtの好みに大きな影響を持つかもしれないということを見出した。その利点が相対的用語で表現された薬物治療はPtの56.8%で選択され、一方絶対的用語で用語で表現された薬物治療は14.7%であった。
○[[結語]] 上述及び仮定的例での議論は、治療の選択は使われる指標によることを示すことが目的である。それ故、異なった指標が実際に表現すること及びどれが特別なPtの状況にとってより適切であるかを臨床医が理解することが重要である。例えばARRやNNTは絶対的指標であり、一方RRやRRRは相対的指標である。より完全な絵を描くためには相対的及び絶対的指標の両方が報告されることが推奨される。
◇ Edna Schechtman, PhD:Odds Ratio, Relative Risk, Absolute Risk Reduction, and the Number Needed to Treat―Which of these Should We Use? VALUE IN HEARTH, Vol5, No5, 2002,p431-435 <11/10/2016>

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100.03.02.02. PONV予防にトラベルミン

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100.03.02.02. PONV予防にトラベルミン
○ PONV対策に安価で安全な薬剤としてトラベルミンを使用した。
・上下肢、鎖骨または股関節の手術を全身麻酔で施行。ASA1-2、成人男女をトラベルミン投与群と非投与群に無作為化60例ずつ。
・麻酔はプロポフォール1.5~2.5mg/kgで導入後、ラリンジアルマスクプロシール(LMA)を挿入。LMAのドレインチューブから胃管を挿入して胃内容を吸引後、胃管を抜去した。自発呼吸下にセボフルラン1~2.5%と亜酸化窒素50~67%で維持し、適宜ペンタゾシンをiv。執刀直前に0.2~0.375%ロピバカイン10~20mLで局所浸潤麻酔を施行。
・投与群には閉創開始時にトラベルミン注1Ap(1mL)を皮下投与。
・手術終了時、フルルビプロフェンアキセチル50~100mgを点滴投与した。
・術後24時間のPONVの有無を術後回診およびカルテの記載から調べた。
○ [結果] Pt背景、ペンタゾシン投与量、手術時間、麻酔時間に両群の有意差はなかった。
・PONVの発生頻度1.
投与群
n=60
非投与群
n=60
PONV +6 *23
  悪心のみ3 *17
  悪心・嘔吐36
* Fisher直接法で両群間に有意差あり(P<0.005)

・PONVの発生頻度2.
投与群
n=60
非投与群
n=60
早期 0~6時間3*20
晩期 6~24時間33
* Fisher直接法で両群間に有意差あり(P<0.005)
・PONVの発生頻度は投与群で6例(10%)、非投与群で23例(38%)で、投与群の方が有意に少なかった。(P<0.005) 
・PONVの程度で比較すると悪心のみを認めたPtは投与群3例、非投与群17例で有意差を認めたが(P<0.005)、悪心・嘔吐両方を認めたPtは両群間に有意差はなかった。
・PONV発生の時期では早期(術後6時間まで)が3例と20例で有意差があったが(P<0.005)、晩期では有意差はなかった。
・PONVを発生した両群計29例でその要因となったのは、38%が搬送時のベッド移動やトイレ歩行などの体動で、17%が摂水・摂食であった。
・トラベルミンの副作用は注射部位の一時的発赤のみ。
○ [考察] PONVの一般的発生頻度は20-30%。
・PONVの危険因子(Apfel et al):女性、非喫煙者、PONVまたは動揺病の既往、術後オピオイド使用を4大危険因子。
この因子数が0, 1, 2, 3, 4の場合のPONV予測率は10, 21, 39, 61, 79%と報告
・今回の症例の危険因子数は両群間に差はなく、PONV発生率は21~39%と予測される。トラベルミン投与により危険因子0の10%にまで低下した。
・USAガイドライン2003:PONVに対する制吐薬としてセロトニン受容体拮抗薬、デキサメタゾン、ドロペリドール、ジメンヒドリナートがあげられている。
・トラベルミンはジメンヒドリナートを参考に1952年に日本で発売された、抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミン30mgとテオフィリン誘導体のジプロフィリン26mgの配合体。
・ジフェンヒドラミンは嘔吐中枢化学受容体引金帯および内耳迷路の興奮を抑制する。ジプロフィリンはジフェンヒドラミンの効果増強し、中枢神経刺激してジフェンヒドラミンの副作用である眠気を軽減する。適応は動揺病・メニエル症候群の悪心、嘔吐、眩暈。トラベルミン注の効果は投与後5分で出現し、4~5時間持続する。保険適応外であるが緩和医療領域でオピオイド鎮痛薬の副
PONV+PONV―
トラベルミン+6  (a)54     (b)60  (a+b)
トラベルミン―23   (c)37     (d)60  (c+d)
・相対リスクRR:(a/a+b)/(c/c+d)=0.261
・オッズ比OR:(a/b)/(c/d)=0.179
・相対リスク減少率RRR:1―RR=0.739
・絶対リスク減少率ARR:(c/c+d)―(a/a+b)=0.283
・NNT=1/ARR=3.529
トラベルミン セロトニン受容体拮抗薬 ドロペリドール デキサメタゾン
NNT 3.5 5~7 3~7 3~4
*NNTは数字が小さいほど有効性が高い
・トラベルミンは6時間以降のPONV予防効果はなかったので持続時間4―5時間を考慮して追加投与すると有効になるかもしれない。
・トラベルミンは1Ap原価67円、オンダンセトロン(ゾフラン)4mg:6894円、グラニセトロン(カイトリル)1mg:3015円、トロピセトロン(ナホバン)5mg:1982円、デキサメタゾン(デカドロン):210円、ノバミン:64円、ドロペリドール142円(1回3.6~7.1円)
・ドロペリドールは錐体外路症状、致死的不整脈を生じる危険性を指摘されている。ノバミンは錐体外路症状、中枢神経抑制。
◇ 大塚みき子 ら:術後悪心・嘔吐に対するジフェンヒドラミン・ジプロフィリン配合薬(トラベルミン)の予防効果 日臨麻会誌 Vol26, No7, p274~678, 2006  <10/26/2016>

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30.06.04.04. Difficul Airwayが予測された症例

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30.06.04.04. Difficul Airwayが予測された症例
○ [経験] 喉頭癌切除+放射線療法後の症例
・[症例] 60歳台後半、男性、身長174.8cm、体重65.8kg
・左三叉神経痛で脳外科にて左微小血管減圧術(Microvascular decompression;MVD)を予定された。
・その他合併症:高血圧症、痛風、胃十二指腸潰瘍の既往治療歴あり。
・16年前に喉頭癌で切除術+放射線療法を受けている。嗄声あり、大声が出ない。耳鼻科の執刀医から、次回、何らかの手術を全身麻酔で受ける場合には気管挿管and/or抜管が困難になるかもしれないといわれた。前頸部、甲状軟骨付近に正中絨切開痕と放射線治療による皮膚の引き連れがみられる。
・頸部CT:coronal断面で声帯から17mm下方で長さ17mmにわたって幅6mmに狭窄がみられた。Axial断面では狭窄は見られず、左右方向に狭窄しているのが分かった。
・Difficult Airwayが予測されたのでAirway scope(AWS)+Gum elastic bougie(GEB)を用いたsemiawake挿管を予定した。
○ 挿管の実際
・O2:6Lでmask酸素化、硫酸アトロピン0.25mg IV.
・fentanyl 25μgずつ、4回分割、計100μg IV. ドルミカム2mg IV.
・McGRATH Macで咽頭、声帯を観察しながら8%キシロカインスプレー噴霧、2回。喉頭部はわずかに変形し、偏位している。声帯はやや開いている。喉頭蓋が持ち上がらず、ひきつれて固定されている。Cormac Grade4.
・AWSにspiral tube ID #7.5, GEBを内腔に通して、口腔内に挿入した。喉頭蓋の下面にbradeが入り声帯を十分に確認してからGEBを気管内に挿入した。Spiral tube #7.5を押し進めるも挿入できず。GEBを留置したままspiral tubeを#6.5に変更して挿管できた。あまり抵抗はなく、比較的容易に挿管できた。カフを10cc、22cmで固定した。
・spiral tube ID#7.5はOD10.4mm、ID#6.5はOD9.0mm
・ドルミカム8mg IV。Propofol+ultiva+Rbで麻酔維持した。
・術中からfentanyl 40μg/hrでcivした。
○ Ope終了後、ブリディオン200mgIVでRbを拮抗し、覚醒十分で抜管した。カフリークテストは行わなかった。抜管後も特に呼吸状態に問題はなかった。BP180/台が持続し、ニカルジピンで対応した。
・術後Ptへの問診で、導入・挿管・抜管時の記憶はなかった。
・5PODに頭痛、嘔気・嘔吐、血圧上昇があり、MRI,CT検査を実施したところ、左小脳に脳内出血がみとめられた。呼吸状態は術前と変わりなかった。ニカルジピンcivなどで血圧コントロールし、保存的治療で漸次良好に経過した。三叉神経痛は完全に消失していた。  <9/16/2016>

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130.04.08. 抗血栓薬

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130.04.08. 抗血栓薬
抗凝固薬
(静脈系)
心原性脳梗塞、
肺塞栓症
心房細動、
静脈血栓症
ワーファリン、プラザキサ、
イグザレルト、エリキュース、
リクシアナ
抗血小板薬
(動脈系)
狭心症、
心筋梗塞、
動脈硬化による脳梗塞、
冠動脈ステント留置後
バイアスピリン、パナルジン、プラビックス、
プレタール、
オパルモン、アンプラーグ、
ペルサンチン

                                                                           <9/14/2014>

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100.03.05 PONV予防に少量のdropeidol投与

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100.03.05. PONV予防に少量のdropeidol投与
[要旨] 前向き、無作為、プラセボ対照の研究で、(1)全身麻酔の覚醒前30分に投与されたdroperidol 0.625mg IVは一般的外科手術のPt集団で術直後および遅発性の術後嘔気嘔吐(PONV)を減らすことができるかどうか、(2)PONVのrescue治療に対するdroperidolドロレプタン, ondansetronゾフラン, promethazineヒベルナの効果を比較した。
・2時間以上の全身麻酔を受けた150例の成人Ptでdroperidol (0.625mg IV)またはplaceboを覚醒前30分に投与した。
・Postanesthesia care unit(PACU)でPONVの治療を要したPtはdroperidol (0.625mg IV), ondansetron (4mg IV), promethazine (12.5mg IV)を無作為に投与された。
・droperidolは有効にPONVを予防した。(droperidol群6.8% 対placebo群40.8%、p<0.001)
・droperidol, ondansetron, promethazineは発症したPONVの治療には同様に有効であったが副作用、PACU退出時間に差はなかった。
○ PONVは術後Ptにとって大きな問題として残っている。実際、麻酔の安全性は増加しているが、PONVは今やPtが麻酔・手術に関して表現する最も大きな問題の一つである。術前に調べるとPtの72%がPONVの予防は最も優先性を与えられるべきであると述べている。加えてPONVはPACUからの退出が遅れて外来Ptの術後に予定外の入院となる主要な理由の一つである。
・PONVの原因は多因子でPtに関した多くのリスク因子、麻酔の方法、手術の形式などが明白にそのリスクを増やしている。
・droperidolはPONVの治療および予防に有効であるが、多量投与(2.5~5mg)では副作用の可能性があり、傾眠傾向、落ち着きのなさ、不安、錐体外路症状などを含む。しかし少量のdroperidol(0.625mg IV)投与は著しい副作用なしに制吐作用がある。
・3つの疑問点に付き調査した。1)全身麻酔を受ける手術Ptに対してdroperidol 0.625mg IVのroutine投与はPACUおよび術直後24時間以内のPONVの頻度を減らせるか。
2)droperidol. ondansetronゾフラン, promethazineヒベルナ,間でdroperidol投与の有無にかかわらず発症したPONVの治療効果に差があるか。
3)droperidol予防を受けたPtとplaceboを受けたPtで副作用像やPACU退出時間に差があるか。
[方法] 2時間以上の各種外科手術で全身麻酔を受けた成人Pt150名で検討した、前向き、無作為、placeboコントロール研究。
・麻酔覚醒30分前にdroperidol 0.625mg IV群と同量の生食IVを受ける群に無作為化された。麻酔方法は制限を付けなかったが、チオペンタール対プロポフォール、N2Oの使用、オピオイドの使用、筋弛緩薬の拮抗、ステロイドの使用は記録された。除外項目は、年齢<18歳、妊娠、研究薬へのアレルギー、制吐薬の常用である。生理のサイクルは調べなかった。手術手技では頭蓋内手術および心臓手術は除外した。
・研究の第1段階の第1エンドポイントはPACUにおける嘔気and/or嘔吐の発症、第2エンドポイントは副作用の発生である。
・PACU到着時にblindされたPACU看護師によって評価され、嘔気および鎮静スコアを割り当てられた。同じ看護師が15分間隔で225分までまたはPACU退出までのどちらか早い方で再評価した。
・嘔吐の症状は、1.No nausea嘔気なし、2.Mild nausea軽度嘔気、3.Severe nausea高度嘔気、4.Vomiting/retching嘔吐あるいは空吐 に分類した。
・鎮静レベルは、1.Heavily sedated強い鎮静、2.Moderately sedated中等度傾眠、3.Mildly drowsy軽度傾眠、4.Fully awake完全覚醒 に分類した。
・Ptはdizzinessめまい、headache頭痛、blurred vision目のかすみ、restlessness落ち着きのなさ、dysphoria違和感、口内乾燥感の評価を受けた。PACU看護師は観察された錐体外路症状、PACU退出時間を記録しておく。PACUにいる間、PtはPACU医の指示した術後鎮痛薬を受けることができる。
・PACUでPONVが発症したらdroperidol 0.625mg IV, ondansetron 4mg IV, あるいはpromethazine 12.5mg IVを無作為に受けることができる。さらにPONVが起きたらPUCU医あるいは看護師により無作為化されていない制吐治療を受けることができる。
・PACU退出後24時間内のPONVの頻度はPt問診と記録により行った。
[結果] 150名のPtを登録。Droperidol予防を受けた群とplacebo群では年齢、性別、PONVの既往、麻酔時間、N2O使用の有無、麻薬使用量、コリンエステラーゼ阻害薬やステロイドの使用に関して差はなかった。手術手技には差はなかった。最も多かった手術は非頭蓋内脳外科手術(23%)、婦人科手術(22%)、一般外科手術(14%)、整形外科手術(13%)、耳鼻科手術(12%)、これらを合わせて74%であった。
・74名のPtがdroperidol予防を受け、76名がplaceboを受けた。嘔気のカテゴリーのそれぞれのPt数は図1の通り。嘔気のなかったPtは予防群で有意に多かった(p<0.001)。嘔吐あるいは空吐きのあったPtはplacebo群で有意に多かった(p<0.008)。PACU滞在中にPONVを経験したPtの平均nausea scoreを計算すると、PONVを経験したPt数はdroperidol群で有意に少なかった。

・droperidol予防群の74名中5名(6.8%)がPONVを経験した。一方placebo群では76名中31名がPONVを経験した(40.8%、p<0.001)。number needed to treat(NNT)は2.9.
・鎮静カテゴリーのそれぞれのPtの割合は有意差はなかった(各カテゴリーでp>0.05)。
・PACUからの退出時間は同じだった。実際、droperidolで予防治療された場合,placebo群と比べてより迅速な退出傾向だった。(91±39分 vs 104±48分, p=0.062)
・術後24時間のPONVの予防もdroperidol群で良好な傾向だった。Droperidol群16名(22%)、placebo群24名(32%)で遅発性のPONVがみられた。統計的有意差はなかったp=0.232.
・droperidol群とplacebo群で副作用に有意差はなったが、dysphoria不快感の発生頻度がdroperidol群でおおい傾向があった。

Droperidol 0.625mg IV or placebo 投与後24時間以内に観察された副作用

・PONVが発現したPtはすべて治療を受けた。Droperidol予防群でPONVが発症したPtが少数見られた。その後の分析はこの5名を除いて行われた。残り31名の内7名はondansetron、14名はpromethazine、10名はdroperidolをrescue治療として受けた。さらに無作為化されていない制吐薬を必要としたPONVはondansetron群の7名中2名(28.6%)、promethazine群14名中3名(21.4%)、droperidol群10名中1名(10%)でみられた。第2の制吐薬としてはdroperidol群でより少ない傾向であったが有意差はなかったp=0.613.
・鎮静スコアはdroperidol群でより低い傾向があったが例数が少なく統計的有意差はなかった。副作用、PACU滞在時間、24時間以内のPONVは3群で差はなかった。
[討論] 麻酔覚醒前30分にdroperidol 0.625mg IVの予防投与は直後および24時間以内の遅発性PONVの発症頻度を減じ、不利な副作用やPACU退出時間の遅れを起こさなかった。
・PACUでのPONVはplaceboに比べてdroperidol予防治療を受けたPtで41%から7%に減少した。さらにdroperidol予防投与は術後当初の24時間以内のPONVのエピソード(225 vs 32%)も少ない傾向であった。
・placebo群のPONVの頻度は他の報告と同等であったが、droperidol群の頻度は以前に報告されたものより少なかった。
・droperidolの1.25mg以上の投与は好ましくない副作用の頻度が高いが、0.625mgではplaceboと比べて副作用の差がなかった。Droperidol予防投与群では鎮静レベルがわずかに上昇したが有意差はなかった。PACU退出時間も延長しなかった。
・この研究の第2部はPACUにおけるPONVのrescue治療でdroperidolとpromethazineとondansetronの効果の比較である。Droperidolが大いに効果があったので我々が考えたよりPONVの発症したPtは少なかった。
・PONVの予防的治療は出来上がったPONVの治療よりも有効であった。一度PONVが発症すると最初の治療では高率に失敗する。
・droperidolのコストは$0.40/2.5mg vial.
○ 結論としてdroperidol 0.625mg IVをroutine型通りに投与することはPONVの予防に有効で安全である。副作用の頻度の増加もなくondansetronよりもコストの面からも優れている。
◇ N.S.Kreisler 一般的外科手術の成人Pt集団で少量のドロペリドールは嘔気を有効に減らす Anesth Analg 2000, 91; p1256-1261 <8/12/2016>

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130.12.02. [経験] 上肢の局所静脈麻酔による局麻薬(キシロカイン)中毒(軽症)の経験

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130.12.02. [経験] 上肢の局所静脈麻酔による局麻薬(キシロカイン)中毒(軽症)の経験
○ 80歳代女性。身長140cm、体重42kg。合併症;2型糖尿病、内服薬でFBS141~158にコントロール、HbA1C;8.3. 肝機能正常、血清蛋白6.7、Alb3.4. 腎機能;Cre0.46. dementiaなし。ASA2.
◌肘頭骨折に対する観血的骨接合術の目的で局所静脈麻酔(整形外科、自家麻酔)が行われた。3年前に今回の今回の骨折の対側の肘頭骨折に対して腕神経叢ブロック0.375%アナペイン20ml局所静脈麻酔1%キシロカイン20mLで手術が行われたが特に問題はなかった。
◌今回の経過:入室時BP120/60、pulse75bpm。
・患側上腕部をターニケットで駆血後、1%キシロカイン20ml(iv)。
・約5分後に執刀。手術開始後約20分でBP160/80に上昇し、脈拍<60bpm、その後15分間にBP100/60に低下。
・発汗+、気分不良を訴えた。眠気、あくびが出現したが、痙攣はなかった。口唇周囲のしびれ、耳鳴り、金属様の味覚などの症状はなかった。直後に急に創痛が出現したので、麻酔科に診察依頼があった。
・診察時、創痛が極めて強く酸素でマスク換気し、徐脈に対しアトロピン0.5mg(iv)、局麻薬中毒を疑って20%脂肪乳剤であるイントラリポスを急速点滴静注した。閉創のためにセボフルレン1.5%を開始した。10分後に手術終了し、50%酸素でマスク換気しスムーズに覚醒した。発汗、生あくびは消失し気分不良はなくなっていた。
・手術終了時にターニケットの送気チューブが屈曲して効いていない状態になっているのが確認された。
・イントラリポスは100mL点滴終了で中止した。1PODまで経過観察し問題なかった。その後、リハビリを経て24PODに軽快退院となった。
○ 局所静脈麻酔開始後にターニケットの送気チューブが屈曲し、駆血ができなくなりキシロカインが体循環に流入したものと考えられる。  <6/30/2016>

局所静脈麻酔 Bier block
○ Bier block:1908年Bier(脊髄くも膜下麻酔の創始者)が報告した古いblock法。手技が簡単であるが合併症もある。知っていると便利。
・ターニケットを解放した時に局麻薬中毒が起こりうる
・ターニケット加圧による痛みのため麻酔時間に限界がある
・術後鎮痛効果が事実上ほとんどない
・外傷による血腫、開放性骨折あるいはそれに類する状態では禁忌
・ロピバカイン、ブピバカインを使用した場合、ターニケット加圧の失敗時には血中に放出され、心毒性を現す危険性が大きくなる。この心停止は蘇生困難である。
・近位カフを減圧し、遠位カフを加圧する時、両者のバルブや加圧ホースをダブルチェックし、正しく作動していることを確認すること
◇ Surja Sen, MD et al:昔ながらの「Bierブロック」を知っておいて損はない。ただしスピーディな術者には要注意 麻酔エラーブック 第1版 Catherine Marcucci et al 編 メディカル・サイエンス・インターナショナル 2010, p409-412..   <7/7/2016>

脳神経外科手術での局麻薬中毒
◌awake craniotomyなどの目的で神経ブロック(眼窩上神経ブロック、滑車上神経ブロック、頬骨側頭神経ブロック、耳介側頭神経ブロック、大後頭神経ブロック、小後頭神経,大耳介神経ブロックなど)が行われる。頭皮の神経ブロックは投与量が多くなりがちで局麻薬中毒のリスクが高くなる。
・0.3%ロピバカインを調整してPt体重(kg)×1mLを目安として初回投与量をきめ、4時間後に初回投与量の1/2を追加の目安とする(東京女子医大 鎌田)
・10万倍アドレナリン添加1%リドカイン 体重(kg)×0.7mLを極量の目安に、適宜浸潤麻酔を併用して行う
◇ 佐藤裕:その他の麻酔管理 B 神経麻酔のための区域麻酔 神経麻酔第1版 内野博之 編 克誠堂出版 2016, p315-319
○ [注釈] 脳外科麻酔では局麻薬中毒の機会は少ないと思っていたが、上記のようなこともありうる。その際は中毒症状が出てから麻酔科が呼ばれることになる <7/8/2016>

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130.12. 局所麻酔薬中毒

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130.12. 局所麻酔薬中毒
○ 局麻薬中毒治療のチェックリスト
◇ American Society of Regional Anesthesia and Pain Medicine Checklist for Treatment of Local Anesthetic Systemic Toxicity
・局所麻酔薬の全身的中毒(LAST)の薬理学的治療は他の心停止シナリオとは異なる
□ 助けを求める
□ 初期の焦点
□気道確保:100%酸素で換気する
□痙攣抑制:ベンゾジアゼピンが好ましい;心血管系の不安定性のあるPtではプロポフォールは避ける
□人工心肺(の設備のある)が使用できる施設に連絡する
□ 不整脈cardiac arrythmiaの管理
  □BLS及びACLSが薬物の調整と効力の遷延のために必要になる
  □バソプレシン、カルシウムチャンネルblocker、βblocker局所麻酔薬は避ける
  □アドレナリンは<1μg/kgに減らす
□ 脂肪乳剤治療Lipid Emulsion(20%) Therapy (70kgのPtに対する注射投与の値)
  □Bolus1.5mL/kg(lean body mass) 1分以上かけてiv(~100mL)
  □持続注0.25mL/kg/min(~18mL/min:輸液ポンプ使用)⇒15mL/kg/hr
  □Bolus投与を2回目まで繰り返す 心血管虚脱(ショック)では持続的に
  □血圧が引き続き低い場合は注射量を2倍にする 0.5mL/kg/min
  □循環動態が安定して少なくとも10分は注射を続ける
  □推奨される上限量:およそ10mL/kg 最初の30分で
  □LAST後のイベントはwww.lipidresque.org. www.lipidregistry.orgに報告
       <6/22/2016>
◇ 局所麻酔薬中毒 Raffi Kapitanyan et al. April30, 2016                    http://emedicine.medscape.com/article/1844551/-overview
○ 臨床の要点
全般には安全であるが局麻薬は不適切に投与されたり、あるいは適切に投与されたにも拘らず予期せぬ反応を引き起こすことがある。局所および浸潤麻酔の中毒は局所的あるいは全身的でありうる。麻酔薬の全身的中毒はしばしば中枢神経系(CNS)や心血管系を巻き込む。
○ 兆候と症状
局麻薬中毒の兆候は典型的には注射後1~5分で現れるが、発現は30秒から60分までの間になるかもしれない。中毒兆候は次のように分類される。
・CNS中枢神経系 ・心血管系 ・アレルギー系 ・局所組織系
◌CNS兆候:古典的には全身的中毒性は次のようなCNS興奮の症状で始まる
  ・口周囲 および/あるいは 舌のしびれ ・金属様の味覚 ・頭部フラフラ感
  ・めまい ・視覚および聴覚障害(焦点が合わない、耳鳴り) ・失見当識
 より高用量では初期(当初の)CNS興奮状態はしばしば急激にCNS抑制となり次のような様相を呈する。
  ・筋攣縮 ・痙攣 ・意識消失 ・昏睡 ・呼吸抑制と停止 ・心血管抑制とショック
◌心血管系兆候
  ・胸痛 ・頭部フラフラ感 ・息切れ ・発汗 ・動悸 ・血圧低下 ・失神
◌血液学的兆候
  メトヘモグロビン血症はベンゾカインの使用でしばしば報告されている;しかしリドカインとプリロカインもまた関与している。低濃度(1~3%)ではメトヘモグロビン血症は無症状であるが、高濃度(10~40%)では次のような症状のいずれかを伴ってくるかもしれない。
  ・チアノーゼ ・呼吸困難 ・めまい、失神 ・皮膚の変色(灰色グレイ) 
・運動不耐性 ・脱力 。頻呼吸 ・疲労
◌アレルギー兆候
  ・発赤 ・蕁麻疹 ・アナフィラキシー(非常にまれ)
○ 診断
全般的に安全であるが局麻薬は不適切に投与されると有害となりうる。あるいは適切に使われても予期せぬ反応を起こすかもしれない。有害な効果は通常、薬物の高い血清濃度によって引き起こされる。それは次のような事柄の1つによって起きるかもしれない。
 ・不注意な血管内注入 ・過剰な注射量および回数 ・薬物クリアランスの遅れ
◌Pt側の因子も毒性に関与する。例えばリドカインは肝で代謝されるので肝機能障害が増えれば毒性のリスクも増える。リドカインはまた蛋白結合性なので低蛋白の状態はリスクを増やすかもしれない。アシドーシスも血清蛋白からのリドカインの分離に有効に働くのでリスクが増す。他の薬物(例えばシメチジン、βblockerなど)との相互作用もリドカインのレベルに影響する。
◌局所及び浸潤麻酔の毒性は限定的または全身的でありうる。麻酔薬の局所的有害効果は不可逆的になるかもしれない。麻酔や麻痺の遷延のような神経血管系の兆候も含んでいる。
◌麻酔薬の全身的毒性はCNSや心血管系を最もしばしば巻き込む。たとえばベンゾジアゼピンのような他の薬剤を同時に投与すると、CNS兆候の進展を隠すかもしれないが心血管系の兆候は隠さない。
◌比較的稀に(4%)局麻薬は免疫系に影響することがある。免疫グロブリンE(IgE)を介するアレルギー反応である。ほとんどの場合はアミノエステルを使用した場合に起こる。いくつかの麻酔薬、特にベンゾカインはメトヘモグロビン血症と呼ばれる血液学的効果を伴っている。
◌CNS毒性は2相性である。初期兆候はCNS興奮性で痙攣のような問題である。それに続く兆候はCNS抑制で痙攣の停止、意識消失が始まり呼吸抑制や停止に至る。
◌心血管系の作用は局麻薬の高い血清レベルで起こる。その効果はリエントリー不整脈を含むかもしれない。心室心拍の促進は心房性不整脈のPtで報告されている。
◌局麻薬中毒の治療には以下のものが含まれる。
・気道管理 ・痙攣抑制 ・心臓不整脈の管理 ・脂肪製剤治療
○ 病態生理pathophysiology
◌局麻薬の作用の発現、効力、作用時間は組織のpHに沿って、薬物のpKa、脂溶性、蛋白結合、血管拡張性で決定される。高濃度の投与により投与量が増加する伴って発症時間が短くなり、効力の強さと作用時間が増加する。同時に不利な/毒性反応の可能性も高まる。
◌薬物のpKa(解離指数)は作用の発現を決定する最初の因子である。低いpKaは組織の浸透性を増加させ、非イオン化した(荷電した)分子の脂溶性を増加させるので作用の発現時間を短くする。pHに近いpKaは浸透性を至適化する。さらに加えて細胞外腔の炎症はpHを低下させ作用発現を遅らせる。投薬の部位もまた因子の一つである:組織や神経鞘のサイズが増加した領域では発現が延びる。以下の因子が効力に影響する。
・好脂溶性の性質を増加させる高い分画係数は麻酔薬の脂質の神経膜内への通過を促進させ、効力を増強する。
・血管拡張は血管の吸収性を増加させ、それにより局所使用可能な薬物を減少させ効力を減ずる。
・エピネフリンあるいは重炭酸ナトリウムの添加はpHを増加し、それによりより脂溶性である非イオン化分子を増加させる。エピネフリンを含んでいるほとんどの局麻薬は防腐剤を含んでいる、これらの溶液のpHは低く調整され、エピネフリンと抗酸化剤の安定性を保っている。
◌次の因子は作用時間に影響する。
・局麻薬にエピネフリンの添加は血管収縮を生じ、全身的吸収を減らすので作用時間の延長をもたらす。
・蛋白結合性は主として作用時間を決定する:蛋白結合率が高いと作用時間が長くなる。
・pHの増加(重炭酸ナトリウムを使用して)は作用時間を延長する。

130.12. 病態生理[注釈] 局麻薬はNa+チャンネル遮断によってその薬理効果を発現する→これが経静脈的に吸収されてNa+チャンネル遮断効果が脳や心臓などの組織で発言すればその量に応じて活動電位抑制効果が発現する。
◌局麻薬のpKa(酸解離定数)が7.4に近いと→作用発現が速くなる
・リドカインpKa=7.7→効果発現が速い
・ブピバカイン、pKa=8.1、ロピバカインpKa=8.1→効果発現遅い、作用時間長い
◌脂溶性が高いほど→局麻薬の作用が強くなる
・テトラカインpKa8.2→脂溶性高く作用時間長い
・ロピバカインpKa8.1→脂溶性高く作用時間長い
◇ Angela M. Pennell MD:脊髄くも膜下麻酔の術前診察で「麻痺したりしませんか?」と尋ねられた。正しく答えられますか。 麻酔エラーブック 第1版 Catherine Marcucci et al 編 メディカル・サイエンス・インターナショナル 2010, p389-392.   
<7/6/2016>

○中毒のメカニズム
◌局麻薬によるCNS中毒性はまず、CNS興奮性としてあらわれ、その後CNS抑制が起きる。この2相性の効果は局麻薬がCNSの抑制的経路をブロックし(その結果刺激する)その後、ついには抑制的及び興奮的経路もブロックし(その結果全体的なCNS抑制となる)ことによって起きてくる。
◌心血管系の効果はこれらの薬物が心臓及び神経組織を通してimpulseの伝導に影響するfast-in、slow-outメカニズムを通してNaチャンネルをブロックして起きる。心臓ではこのことはVmax(すなわち心臓の活動電位のphase0の間の脱分極の率を下げリエントラント不整脈を起こす。加えて洞と房室結節を通す伝導が抑制される。。
○ 病因
・局麻薬はエステル型とアミド型の2群に分けられる
AgentDuration of ActionMaximum Dosage Guidelines
Esters  
ProcaineShort(15-60min)7mg/kg;<350-600
(Novocaine) epinephrine-;11mg/kg <800mg
ChlorprocaineShort(15-30min)epinephrine+;14mg/kg <1000mg
(Nesacaine)  
Amides
LidocaineMedium(30-60min)epinephrine-;4.5mg/kg <300mg
(Xylocaine)Long(120-360min)epinephrine+;7mg/kg 
MepivacaineMedium(45-90min)7mg/kg;<400
(Carbocaine)Long(120-360min)epinephrine+
BupivacaineLong(120-240min)epinephrine-;2.5mg/kg;<175mg
(Marcaine)Long(180-420min)epinephrine+;<225mg total dose
EtidocaineLong(120-180min)epinephrine-;0.4mg/kg<300mg
(Duranest)USA-epinephrine+;8mg/kg
PrirocaineMedium(30-90min)body weight>70kg;600mg
(Citanest)  
RopivacaineLong(120-360min)5mg;<200mg minor nerve block
(Naropin,Anapain)  


非歯科用量 少量ずつ投与する;予期する効果を得る最小の投与量及び濃度にせよ。急速注射を避けよ。

◌ブピバカインの心血管系毒性に伴う多くの不慮の死が起こったのでより毒性の少ない長時間作用性の局麻薬の研究が促進された。この研究によりレボブピバカインとロピバカインが生まれた。
◌ブピバカインは右旋性のR-(+)-エナンチオマーと左旋性のS-(-)-エナンチオマーの50:50ラセミック混合体である。臨床研究によりS-(-)-エナンチオマーであるレボブピバカインはCNS、心血管系への毒性がより少ないということが明らかになった。特に血管内投与した時に致死的となる量がR-(+)-エナンチオマーに比べて78%も多かった。1990年代のさらなる研究により1996年の純粋なS-(-)-エナンチオマーであるロピバカインの導入に至った。ロピバカインはブピバカインのように分離されたブロックを起こす能力があるが、より低濃度で知覚運動解離を起こす。この長時間作用型アミドは臨床使用される前に毒性研究された最初の局麻薬である。ロピバカインもCNS及び心血管系の毒性を持っているがその頻度は極めて低い。
◌局麻薬中毒は不注意な血管内注射や投与量の間違いにより起こる。血管内注入は麻酔薬が推奨範囲内で投与されても中毒は起こりうる。
◌有害な作用が起こった麻酔薬の最少投与量
薬物 最少投与量mg/kg
プロカイン 19.2
テトラカイン 2.5
クロロプロカイン 22.8
リドカイン 6.4
メピバカイン 9.8
ブピバカイン 1.6
エチドカイン 3.4
◌高投与量に加えて高注射スピードも局麻薬の有害作用のリスクを増加させる。
◌リスクを増加させるPt側に因子は次の通り
 ・腎・肝障害 ・代謝性・呼吸性アシドーシス
 ・以前からある心ブロックや心臓の状態 ・妊娠 ・極端な高齢 ・低酸素症
○ 疫学
◌局麻薬中毒の頻度は決定しづらい。これらの薬物は広範囲にいろんな状況で使用されており、ほとんどの中毒反応は報告されていないから。局麻薬による全身的中毒は末梢神経ブロック1000例対1例ほど起きているかもしれない。しかしこれらはほとんど小さな主観的兆候を含んでいるであろう。
◌2012年にUSAではアメリカ中毒管理センター(AAPCC)によればリドカインの単回曝露1238例が報告された。同時に他の局麻薬及び/あるいは表面麻酔薬の単回曝露3849例が起きていた。AAPCCによるリドカイン曝露のうち514例は6歳未満の子供で起きていた。
○ 予後
・酸素化、換気、心拍出が維持されていればPtは通常、余病なしに回復する。治療しなければ、局麻中毒は痙攣、呼吸抑制あるいは停止、低血圧、心血管性ショックあるいは心停止、そして死亡に至る。APCC国家中毒センター2013年次報告によれば、リドカイン曝露の内150例は軽症、67例は中等症、14例は重症で5例の死亡が報告されている。
○ Pt教育
・特定の麻酔薬に有害反応を持つPtには、将来その特定の麻酔薬を避けるように、またその反応を医療者全員に警告するようアドバイスする。もしもPtがあるclassの麻酔薬(エステルあるいはアミド)に有害反応を経験したらそのclassの薬物すべてに対してより高いリスクがある。しかしながらそのエピソードが痙攣を含む場合は将来、痙攣を起こすリスクが増えることはないといって安心させるべきである。   <6/27/2016>

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10.09.05. 筋弛緩薬モニタリングの深い原理と広い使用法

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10.09.05. 筋弛緩薬モニタリングの深い原理と広い使用法
◇日本臨床麻酔学会第34回大会シンポジウム 日臨麻会誌Vol36,No1,2016,
10.09.05.01. 神経筋接合部におけるアセチルコリン受容体
・神経筋接合部は多数のニコチン性アセチルコリン受容体(nAchR)が存在し、神経終末から放出されたアセチルコリン(Ach)が受容体に接合することになる
・脱分極された筋肉は収縮を起こす。Achが受容体に結合すると受容体は回転運動によりダイナミックにチャンネル開閉を調節する
・通常終板に存在するAchRは成熟型と呼ばれ、α2βεδの5つのサブユニットで構成される。またシナプス前にはα3β2で構成される神経型AchRが存在し、正のフィードバックを介してシナプス小胞の再動員に寄与している。
・一方胎生期の筋肉や除神経された筋肉上ではεサブユニットがγサブユニットに置換されたα2βγδのサブユニットで構成される未成熟型が発現し、特にスキサメトニウムへの反応性の違いから臨床上問題となることが多い。
・また近年では、従来中枢神経にしか存在しないと考えられていたα7サブユニットのみで構成されるα7AchRが特殊状態下の筋肉に存在する可能性が示唆されており、その生理的役割が注目されている。
・nAchRはリガンド開閉型イオンチャンネルで単一分子内に受容体とチャンネルの2つの機能を持ち合わせる
・未熟児や新生児を扱う際には神経筋接合部の形態的未成熟が示唆されるため筋弛緩薬投与時には成人と同様の反応性を有するとは限らない。
・古くなったAchRはエンドゾームで分解され、半日単位で終板の内側から外側に向かってnAchRが移動して、神経筋接合部が日々入れ替わっている。
・成人の筋肉においてもある種の病的状態、例えば不動化による委縮筋、熱傷後、除神経後などで未成熟型nAchRが発現する。筋弛緩薬への反応性の違いから臨床上注意を要する。
・未成熟型nAchRを多く発現していると考えられる病態ではnAchRの開口時間が延長して高濃度の高カリウム血症となりやすいのでSCCの使用を控えるべきである。
◇笹川智貴ら 神経筋接合部におけるアセチルコリン受容体 日臨麻会誌Vol36, No1, 2016, p51~56. 日本臨床麻酔学会第34回大会シンポジウム      <5/30/2016>

10.09.05.02. 筋弛緩モニタリングの変遷と種類
・麻酔中の筋弛緩は神経筋遮断薬によるAchRの占拠によって生じるが、Achの約90%が占拠された状態で初めて臨床的な筋弛緩効果が認識される。筋肉によって神経筋遮断薬に対する感受性に差がある。
○筋弛緩後モニタリングの意義
1)神経筋遮断薬の効果発現(気管挿管の至適時期)を知る。
2)追加投与量及びタイミングを知る。
3)手術室退室時に残存筋弛緩がないことを確認する。
・残存筋弛緩がない⇒頭部拳上、舌挺出、握手などに関与する筋肉群の回復⇒4連刺激比TOFR>0.7⇒現在は術後肺合併症あるいは麻酔回復室における危機的呼吸器合併症を回避するためには嚥下、上気道開存を司る筋群の回復が必要⇒TOFR>0.9を回復の目標とすべき。
1) 主観的筋弛緩モニタ(神経刺激装置)
反復刺激による減衰減少fadeの有無を区別できるかどうか TOFR0.4~0.9ではfadeなしと判定される
2) 客観的筋弛緩モニタ
(1) 筋電図モニタelectromyography EMG:手術時に腕が体側に収納されていても測定可能
(2) 筋張力モニタ mechanomyography MMG:研究用のgold standard
(3) 圧電力モニタ kinemyographyあるいはpiezoelectric neuromuscular monitor PzEMG
(4) 加速度モニタ acceleromyography AMG:clinical gold standard 母指が自由に動く(等張性収縮)ことが前提
(5) Phonomyography PMG
○AMGの注意点
(1)用量反応曲線を求めるなどの薬理学的研究には向いていない
(2)薬力学に関する研究ではMMGとの互換性はない
(3)薬力学に関する研究のうち作用発現に関してはEMGと互換性があるがTOF比に関しては互換性がない。PTCに関しては不明
(4)臨床的評価、主観的モニタよりは残存筋弛緩の検出に優れている
・筋弛緩モニタの装着率が上昇するにつれて残存筋弛緩の発生頻度が低下する。
◇小竹文夫ら 筋弛緩モニタリングの変遷と種類 日臨麻会誌Vol36, No1, 2016, p57~61. 日本臨床麻酔学会第34回大会シンポジウム      <5/31/2016>

10.09.05.03. 筋弛緩モニタリングの機器、モニタリング部位、モニタリングの実際
・筋弛緩薬は神経筋接合部に作用する薬物だが、神経筋接合部に対する作用を直接的に測定する方法はない⇒測定筋の支配神経を刺激し、筋の動きを測定、効果を推測することが筋弛緩モニタリングである。
・モニタリング機器:TOF -Watchが臨床で多用されている
・モニタリング部位:尺骨神経刺激による母指内転筋反応を測定するのが一般的。その他、皺眉筋、短母趾屈筋、咬筋があげられる
・モニタリングの実際:刺激電極貼付時にアルコール綿で清拭脱脂し、黒電極は末梢、白電極は中枢側に貼付する。トランスデューサは動きに対して垂直になるように取り付け、皮膚温の低下にに注意。キャリブレーションを行う。
・麻酔の3要素にうち、鎮痛;客観的評価困難、鎮静;BISモニタ、エントロピー、筋弛緩;筋弛緩モニタ  筋弛緩薬に対する感受性は個体差が大きい。
1)母指内転筋―尺骨神経:
・筋弛緩の発現が呼吸筋(横隔膜など)より遅い=挿管のタイミングの評価には適さない。
・筋弛緩状態からの回復は呼吸筋や短母趾屈筋より遅い=十分な回復を評価するのに適している
2)皺眉筋―顔面神経:
・筋弛緩反応の過程が喉頭筋、横隔膜と類似してる=気管挿管のタイミングにも有効。皺眉筋反応が認められた時点で筋弛緩薬を追加投与すれば、呼吸筋、腹筋の十分な筋弛緩が得られる。
・他の筋に比べて筋弛緩状態からの回復が速い=十分な回復を評価するのに適さない
3)短母趾屈筋―後脛骨神経:
・筋弛緩作用の発現が母指内転筋より遅い=挿管のタイミングの評価に適さない
・回復は母指内転筋より速い=深い筋弛緩状態の維持に適していない、十分な回復を評価するのに適さない
4)咬筋―咬筋神経:
・咬筋は母指内転筋より作用発現時間が速く=気管挿管の指標になりうる。十分な回復を評価するのには適さない。Rocuronium0.6mg/kg投与後の作用発現時間は咬筋では73秒、母指内転筋では111秒であり、気管挿管の指標として適する可能性がある
○気管挿管時のモニタリングの注意点
1)喉頭鏡の挿入(開口の容易さ)のために咬筋の弛緩
2)声門の開大のための喉頭筋の弛緩
3)挿管時の反射の抑制のために横隔膜の弛緩   が必要
・Rocuroniumの現在の挿管量0.6mg/kgは母指内転筋を指標にしたもの。横隔膜のED95:0.5mg/kgで計算すると挿管量は1.0mg/kgになり、十分量のRocuronium投与下では母指の遮断は迅速で安全な挿管の指標となる
○維持時のモニタリング
・母指内転筋でのT2出現時(TOFカウント2はtwitch height 10%に相当)には横隔膜の弛緩はほとんど回復しており、体動が起きてもおかしくない。PTCを指標にすることを推奨する。PTC<5の状態では気管吸引しても咳反射を生じない深部遮断である。
・PTCは高齢者では再出現までの時間が延長し、ばらつきが大きい。6分以上間隔をあけることが必要。テタヌス刺激の後は一時的にTOFの回復を早めてしまう(post- titanic facilitation)
○回復時のモニタリング
・非脱分極性筋弛緩薬に解呪性の高い(回復が遅い)母指内転筋で判定するのが原則
○母指内転筋におけるTOF比を指標とした残存筋弛緩の臨床的影響に対する評価
・1回換気量はTOF比0.5いじょうでは正常だが、TOF比0.8では努力肺活量、嚥下機能、上気道の統合性は障害されている
・至適回復はTOF比1以上が必要である。
◇北島治 筋弛緩モニタリングの機器、モニタリング部位、モニタリングの実際 日臨麻会誌Vol36, No1, 2016, p63~71. 日本臨床麻酔学会第34回大会シンポジウム  
<5/31/2016>

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100.03.04. 術後嘔気・嘔吐

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100.03.04. 術後嘔気・嘔吐
・PONV(postoperative nausea and vomiting)は周術期の最も一般的な合併症。20~30%。
・2003 Anesthesia and AnalgesiaにGuide Line(GL) 2014改訂版
 Post-discharge nausea and vomiting(PDNV)日帰り麻酔を含めた早期退院の重要性
 2014日本癌治療学会「制吐薬適正使用ガイドライン」 麻酔科関連ではない
1) リスク因子
・1997 Koivurantaら:女性、非喫煙者、PONVの既往、乗り物酔いの既往、60分以上の手術
・1999 Apfelら:女性、非喫煙者、PONVまたは乗り物酔いの既往、術後オピオイド使用。
 4つのリスク因子の数 0, 1, 2, 3, 4 ⇒ PONV予測;10, 20, 40, 60, 80%
0,1低リスク、2,3中リスク、4高リスク
・International Anesthesia Resarch Society(IARS)ガイドライン  
PONV発生頻度のオッズ比(95%信頼区間):女性2.57(2.32~2.84)、非喫煙者1.82(1.68~1.98)、PONVの既往2.09(1.90~2.29)、術後オピオイド使用1.47(1.31~1.65)、   /50歳未満の年齢1.79(1.39~2.30)/胆嚢摘出術1.90(1.36~2.68)、腹腔鏡下手術1.37(1.07~1.77)、婦人科手術1.24(1.02~1.52)/吸入麻酔薬の使用1.82(1.56~2.13)、亜酸化窒素の使用1.45(1.06~1.98)、麻酔時間1.46/h(1.30~1.63)、術後オピオイド使用  
*術中オピオイドのPONVに与える影響は少ない、オピオイドの使用は用量依存性にリスクを高める
これらのスコアの感度、特異性は70%前後
・小児では悪心の評価が困難、POVの危険因子
 Eberhartら:30分を越える手術時間、3歳以上、POVの既往または血縁者のPONV既往、斜視手術  
これらのリスク因子 0, 1, 2, 3, 4 ⇒ POV発生頻度 約9%, 10%, 30%, 55%, 70%
斜視を除くリスク因子 0, 1, 2, 3 ⇒ POV発生頻度 3.4%, 11.6%, 28.2%, 42.3%
・PONVの危険因子:女性、50歳未満、PONVの既往、PACU(post-anesthetic care unit)でのオピオイド使用、PACUでの嘔気
 リスク因子 0, 1, 2, 3, 4, 5 ⇒ PONVの発生頻度 10, 20, 30, 50, 60, 80%
2) PONVの予防
1. 全身麻酔を避け区域麻酔を選択する
2. 導入と維持にpropofolを使用する
3. 亜酸化窒素を避ける
4. 吸入麻酔を避ける
5. 手術中と術後のオピオイドの使用を最小限にする
6. 十分な輸液
・導入維持にpropofolを使用することで約25%のPONVを減少させ得る
・吸入麻酔によるPONVは術後早期(平均0~2時間)が重要でその後は少ない
・オピオイドに関しては手術後の使用を最小限にし、非ステロイド系炎症薬やCyclooxygenase2阻害薬、ケタミンによる鎮痛でPONVの発生頻度が減る
・ネオスチグミンがPONVのリスクを高めることは結論付けられない
3)制吐薬
1. セロトニン3型(5HT3)受容体拮抗薬:オンダンセトロン(ゾフラン)4mg iv 手術終了時投与が効果的、QTc延長作用
2. ニューロキニン-1 (NK-1)受容体拮抗薬:アプレピタント 術前経口投与
3. コルチコステロイド:デキサメタゾン4-5mg、メチルプレドニゾロン40mg 術後創感染の問題
4. ブチロフェノン系:ドロペリドール0.625~1.25mg、ハロペリドール ドロペリドールは2001年にFDAによって、QTc延長とtorsades de pointesが起こり得るとして警告が発せられたが、欧州のいくつかの国では制吐薬として一般に使用されている。QTc延長はオンダンセトロンと同等といわれている。成人で少量のドロペリドール(<1mgもしくは15㎍/kg iv)使用は有意に制吐作用もあり、副作用も少ないという報告もある。
・メトクロプロミド:10mgでは無効、20mg以上で有効;錐体外路症状+、多剤併用しても無効
◇ 角田奈美ら:術後嘔気・嘔吐の最前線  臨床麻酔, Vol40, No4, 2016,p573-581 
   <5/6/2016>

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101.04.03. ケタミン、フェンタニルを用いたIV-PCAの有用性

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101.04.03. ケタミン、フェンタニルを用いたIV-PCAの有用性
○ 上肢骨折に対する骨接合術は術後痛が強く、fentanylの持続静脈投与のみで動作時痛などを緩和するのは難しい
・麻酔はpropofol+Remifentanil+Rocronium
○ IV-PCA
fentanyl 1mg: 100㎍/2mL/Ap×10Ap or 250㎍/5mL/Ap×4Ap
Ketamin 100mg: 200mg/20mL×1/2 V
Droperidol 5mg: 2.5mg/mL×2mL 250mg/10mL/V
DD配合薬(トラベルミン)2mL: 1mL/Ap×2Ap ジフェンヒドラミン・ジプロフィリン
生食 16mL加えて計50mL
・緑内障+のPtではDD配合薬は使用せず
・QTc延長しているPtと20歳以下のPtではドロペリドールは使用せず
・投与速度:1.0mL/h(体重50kg) 体重・年齢により増減、
bolus投与は1時間当たりの投与量、ロックアウトタイムは6分
○ 術中投与薬:
ケタミン0.3~0.5mg/kg(15~25mg/50kg) 1回5~10mgずつ分割投与
デキサメタゾン6.6mg IV ; 術後感染の懸念あれば使用せず
0.75%ロピバカイン(アナペイン);創部散布
フルルビプロフェン(ロピオン);1mg/kg程度IV (50mg/5mL/Ap)
トラマドール2mg/kg程度IV (100mg/2mL/Ap)
PONVの既往+、乗り物酔い+:dロペリドールIV、DD配合薬IV
○ [結果] 35名(男8人、女27人)、平均年齢60.7歳[21~80]、ASA1~2、
平均体重55.5kg[38~80]、平均身長156.2cm[141.6~175]
手術時間 平均77分[40~147]、麻酔時間 118分[74~192]
・IV-PCA投与速度 平均1.05mL/h[0.6~1.4]、術中bolus投与 4例[0~2.6mL]
 ケタミン平均総使用量 術中 27mg[13~46]、術後36mg[19~62]
 QTc延長のためdroperidol持続投与しなかったPt 3例
 術中トラマドール 全例[75~200mg]、フルルビプロフェン 全例[50~100mg]
0.75%ロピバカイン散布33例、デキサメタゾン 31例
ドロペリドール 2例に0.3mL、DD配合液 4例[0.3~0.4mL]
術後1POD朝までにIV-PCA以外に鎮痛薬は使用しなかった
・NRS(numeric rating scale)安静時中央値 0[0~4.5]、動作時中央値 2[0~6]
 動作時と安静時のNRSの差は中央値 1[0~3]、動作時の方が有意に高かった
・RASS(Richmond Agitation-Sedation Score) 中央値0[-1~0]
・嘔吐 0例、安静時嘔気 3例(8.5%)、安静時浮遊感 0例、動作時浮遊感10例(28.6%)
・翌朝までのPCA bolus回数 中央値1[0~9]、鎮痛満足度 中央値 9[3~10]/10点満点
 全例次回も同じ鎮痛を希望
・IV-PCAの中止例なし 幻覚や唾液分泌更新などの副作用なし
・四肢手術に対する術後鎮痛法:IV-PCAを含む経静脈的方法、神経ブロック、硬膜外麻酔  IV-PCAの利点;麻酔覚醒直後から神経学的診察が可能、両上肢の手術の場合も問題なく施行可能。
欠点;動作時の鎮痛が不十分になる、オピオイドの使用で呼吸抑制、PONVの可能性が増加
・今回のIV-PCA regimenでは呼吸抑制なく、高いPt満足度+、ケタミンによる幻覚や唾液分泌亢進はなかった 
◇ 武藤茉莉子ら:ケタミン・フェンタニルを用いたIV-PCAの有用性:整形外科上肢手術での検討 日臨麻会誌 Vol36, No1, 2016, p25-28                <4/12/2016>
○ [注釈] このIV-PCA regimenでは1mL/hでcivすると50時間、約2日間シリンジポンプがつくことになり、長すぎる。1POD朝までで良いように思われる。
Fentanylにすると20㎍/mL ×1mL/h。15時間(Pm5~Am8)civするならば
・fentanyl300㎍(100㎍/2mL/Ap×3Ap) 6mL
Ketamin 30mg 3mL
Droleptan 1.5mg 0.6mL, DD 0.6mL +NS4.8ml加えて計15mLを1mL/hで
・生食を19.8mL(約20mL)加えればfentanylは10㎍/mLになり2mL/hでcivも可 <4/14/2016>

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80.20.02. アルブミン製剤の使用

目次" href="http://penguin111.blog89.fc2.com/blog-entry-40.html">目次
80.20.02. アルブミン製剤の使用
○ アルブミン治療のエビデンスと使用ガイドライン
・出血性ショック、重症敗血症や重症熱傷ではアルブミンを用いても死亡率や合併症を改善しない
・脳虚血(頭部外傷)ではアルブミン使用で死亡率が有意に増加する
・アルブミン製剤:1)等張の5%製剤、2)アルブミン濃度が4.4%以上で含有タンパク質の80%以上がアルブミンである加熱人血漿蛋白(plasma protein fraction: PPF)、3)高張の20~25%製剤
○ 科学的根拠に基づいたアルブミン製剤の使用推奨度
推奨度高張アルブミン製剤等張アルブミン製剤
推奨する・肝硬変
1) Ⅰ型肝腎症候群
2) 特発性細菌性腹膜炎
3) 大量の腹水廃液
4) 難治性腹水の管理
・凝固因子の補充を必要としない
 治療的血漿交換療法
・凝固因子の補充を必要としない
 治療的血漿交換療法
・他の血漿増量剤が適応とならない
 病態


通常は使
用しない
・難治性の浮腫,肺水腫を伴う
 ネフローゼ症候群
・低蛋白血症に起因する肺水腫
 あるいは著明な浮腫
・出血性ショック
・重症熱傷
・重症敗血症
・循環動態が不安定な体外循環
・血漿循環量の著明な減少(妊娠高血圧
 症候群、急性膵炎など)
・人工心肺を使用した心臓手術
・くも膜下出血後の血管攣縮
不適切
な使用
・周術期の循環動態の安定した低アルブミン血症
・蛋白資源としての栄養補給
・末期患者
禁忌・頭部外傷(脳虚血

                       <3/31/2016>
◇ 安村敏:アルブミン治療のエビデンスと使用ガイドライン 臨床麻酔2016:40(増), p268-280

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205.08.02. 無症候性頸動脈狭窄に対するCEAまたはCASの適応について

目次
205.08.02. 無症候性頸動脈狭窄に対するCEAまたはCASの適応について
○ 無症候性頸動脈狭窄に対して内膜剥離かステント留置あるいはどちらでもないか
・頸動脈内膜剥離術と内頚動脈ステント留置術後の早期および後期outcomeを比較する2つの大規模な無作為試験から重要なデータが発表された。今までのところ全ての他の大きな大きな多施設、無作為試験の中で共通であるが、Asymptomatic Carotid Trial (ACT I)とCarotid Revascularization Endarterectomy versus Stenting Trial (CREST)は周術期後、後期のendarterectomyあるいはstenting後の同側のstroke脳梗塞の発生率に差はなかった。平均的危険性リスクであると思われる無症候性のPtを含んでいると思われるACT Iにおいては同側脳梗塞の5年発生率は(周術期を除いて)stenting後は2.2%(年率0.4%)、endoarterectomy後は2.7%(年率0.5%)だった。CREST試験では平均的リスクであると思われる症候性および無症候性のPtを含んでおり、同側脳梗塞の10年危険率の見積もりは(周術期を除いて)stenting後は6.9%(年率0.7%)、endarterectomy後は5.6%(年率0.6%)であった。
・周術期後のstenting後の後期同側脳梗塞の発生率はendarterectomy後のそれと有意差はないという無作為試験におけるほぼ満場一致のコンセンサスであるという事実はstentingの永続性についてのなかなか振り払えない概念を追い払うべきである。この問題は今、確実に解決された。しかしながらまだ解決されていないのは無作為試験の所見の日常の臨床における一般化の問題である。より重要なのは無症候性のPtを治療するより良い方法は何かという悩ましい問題である。この問題についてACT IもCRESTも解決したという幻想を抱くべきではない。
・CRESTとACT Iは共に試験において最良のインターベンショニストと外科医を保証したに過ぎない。Stentingまたはendarterectomyを実行したACT IとCRESTにおける手技の間の死亡率と脳梗塞の発症率の推奨すべき低さはこのことを証明している。それ故、これらの所見が通常の日常臨床実践に移し替えられているかが残されている。もしガイドラインが特に無症候性のPtでstentingのより自由な適応に変えられるかどうか。これは重要な点で最近の系統的なレビューでは、大きな登録データの21のうち9つでは(43%)報告された死亡及び脳梗塞の発症率はAmerican Heart Associationで推奨されているリスク限界の3%を越えているendarterectomy後の1/21登録の5%と比較しても超過している。さらに3%のリスク限界は内科的インテンシブ治療のリスクの縮小よりも明らかに高すぎる。
・無作為試験のデータ(すなわちACT IとCREST)と現実の世界の実践は何も新しくはなく、この場合はおそらく多くのUSAの臨床医は無症候性のPtは年に2つかそれ以下の治療を行っているだけでより経験を踏んだ同僚より劣ったoutcomeで臨床を行っている。初期の処置のリスクの大きさは最近の有症状のPtで結局はendarterectomyかstentingかどちらが好ましいかで決まる。そしてこれは最近起こった症状、Ptの年齢、併存する状態によって決まるであろう。しかしながらこれら2つの試験からのデータはstentingはendarterectomyと同等であると無批判に解釈され、無症候性のPtの頸動脈インターベンションの90%以上が行われている合衆国の現状を悪化させる。それらの90%以上は結局は不必要で、有害な処置である可能性がある。それに対し、無症候性の狭窄に対して行われたインターベンションのパーセンテージはドイツ、イタリアではおよそ60%、カナダ、オーストラリアで15%、デンマークでは0%である。これらの矛盾(相違)は無症候性の内頚動脈狭窄に対して、ルーチンにインターベンションを主張することの妥当性に対する疑問が起こってくる。
・ACT Iの著者らは後知恵であるが、彼らの試験に内科的群を含めたほうが良かったかもしれないとしぶしぶ認めている。しかしながら現在の内科治療が梗塞の年間リスクを低めたかについての討論はACT Iを思いついた時には頂点に達していなかった。それは確かに高度にトピックスで、現代において議論の分かれる論点である。無作為化した試験でも非無作為化研究でも、内科治療中の無症候性のPtの梗塞の年率はベースラインの狭窄の強さにかかわらず過去20年間に減少しており、エビデンスによれば同側の梗塞は0.5~1%と低くなっている。それはACT IおよびCRESTで成功裏にstentingかendarterectomyが行われたのとほぼ同じである。
・だから現代のガイドラインでは3%以下のリスクで行われたならばインターベンションは妥当かもしれないと推奨されているが、それは10年以上前に行われ現代ではすたれていると思われる歴史的無作為試験医基いている。
・臨床試験の外側のendarterectomyとstentingは症候性の高度狭窄のPtあるいはインターベンションよりも内科的治療での梗塞の高リスクのPtのためにとっておくべきである。その様なPt(70~90%の無症候性の狭窄のおよそ10~15%)はtranscranial Dopplerによって探索されるマイクロ塞栓についての情報と合体したアルゴリズムにより、将来は傷つきやすいプラークを同定する画像戦略によって同定される。
・今後、どのようなPtが内科的治療よりもインターベンションで利益があるのか高名さに基づいたやり方でなく科学的根拠に基づいて可能になるかもしれない。  
◇ J. David Spence, A. Ross Naylor Endarterectomy, Stenting, or Neither for Asymptomatic Carotid-Artery Stenosis N ENGL J MED 374; 11, Editorial March 17, 2016, p1087-1088 <3/31/2016>
○ [注釈] 内頚動脈狭窄症に対してstentingはendarterectomyと比べて非劣性であることが明らかになった。しかしながら無症候性の内頚動脈狭窄症については内科的治療が良くなり、直ちにstentingするのはよろしくないということ。
◆Kenneth Rosenfield, et al. Randomized Trial of Stent versus Surgery for Asymptomatic Carotid Stenosis N ENGL J MED 374; 11, March 17, 2016, p1011-1020
・無症候性の内頚動脈高度狭窄症Ptに対してstentingは術後30日以内の死亡・脳卒中・心筋梗塞と1年以内の同側脳卒中についてendarterectomyと比べて非劣性であった。最長5年間の群間で有意さはなかった。
◆ Thomas G. Brott, et al. Long-Term Results of Stenting versus Endarterectomy for Carotid-Artery Stenosis N ENGL J MED 374; 11, March 17, 2016, p1021-1031
・CREST試験:stentingとendarterectomyで周術期の脳卒中・心筋梗塞・死亡その後4年間の同側脳卒中に関して有意差はなかった。今回その後10年間のfollow upでも群間に有意差はなかった。

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10.03.05.02. TOFモニタ, BISモニタ

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10.03.05.02. TOFモニタ
○ [経験] J病院ではTOFウォッチを使用している。
挿管時にTOF値が0になるのを確かめて挿管する。それ以前に挿管しようとすると声帯が開いていないことがある。筋弛緩薬エスラックス初回投与(理想体重×1.0~0.9~0.6mg)後、約50分位でTOF値が2~4になったら、追加投与。Ptにより、投与量(理想体重×0.15~0.2mg)により追加投与の時間は大きく異なる。母指または母趾の加速度トランスデューサーの貼り方が難しい、毎回エラーが出る。しかしながらTOFは非常に有用である。若年者の腹腔鏡下手術で横隔膜の筋弛緩が不十分で早く切れることがある。 <3/30/2016>
10.03.05.02. BISモニタ
○ [経験] J病院ではBISモニタを使用している。
麻酔導入、覚醒時に特に有用である。BIS値40~60が有効とされているがしばしば容易に40以下になる。しかし、麻酔薬特にpropofolを安易に下げて術中覚醒しないか心配になる。脳外科麻酔では前額部が術野に近くBISモニタを貼付しにくい。鼻根を跨いで頬部に貼付している。比較的に信頼できそうである。  <3/30/2016>

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10.03.05.02. TOFモニタ,

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10.03.05.02. TOFモニタ
○ [経験] J病院ではTOFウォッチを使用している。
挿管時にTOF値が0になるのを確かめて挿管する。それ以前に挿管しようとすると声帯が開いていないことがある。筋弛緩薬エスラックス初回投与(理想体重×1.0~0.9~0.6mg)後、約50分位でTOF値が2~4になったら、追加投与。Ptにより、投与量(理想体重×0.15~0.2mg)により追加投与の時間は大きく異なる。母指または母趾の加速度トランスデューサーの貼り方が難しい、毎回エラーが出る。しかしながらTOFは非常に有用である。若年者の腹腔鏡下手術で横隔膜の筋弛緩が不十分で早く切れることがある。 <3/30/2016>
10.03.05.02. BISモニタ
○ [経験] J病院ではBISモニタを使用している。
麻酔導入、覚醒時に特に有用である。BIS値40~60が有効とされているがしばしば容易に40以下になる。しかし、麻酔薬特にpropofolを安易に下げて術中覚醒しないか心配になる。脳外科麻酔では前額部が術野に近くBISモニタを貼付しにくい。鼻根を跨いで頬部に貼付している。比較的に信頼できそうである。  <3/30/2016>

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100.03.03. PONV対策;DD配合薬とドロペリドールの比較

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100.03.03. PONV対策;DD配合薬とドロペリドールの比較
・PONV予防のためDD配合薬(トラベルミン注)とドロペリドールの比較、後ろ向き試験 2007.1~2013.3(6年2ヶ月) fentanyl iv;249例。術後48時間までfollow up.
・fentanyl投与 0.5~0.7μg/kg/hr
・T-M群(トラベルミン男)73例、T-F群(トラベルミン女)96例、D-M群(ドロペリドール男)28例、D-F群(ドロペリドール女)52例。  男101例、女148例、 トラベルミン169例、ドロペリドール80例
・2006年PONVガイドラインに沿って 
トラベルミン1/2Ap(15mg)をOP終了前にiv、45~60mg(1.5~2Ap/日)持続投与。
ドロペリドール1~1.25mg(0.4~0.5ml)OP終了前にiv、2~2.5mg(0.8~1.0mL/日civ)          
PONV+V+前庭刺激症状(めまい、浮遊感)
D-M/2821.410.783.3
T-M/738.2++0+0+
D-F/5253.832.771.4
T-F/9611.5*9.4*27.3*

・非喫煙者による吸入麻酔実施後のPONVの影響:非喫煙の女性ではトラベルミン使用PtでPONVが少なかった
◇ 宮原誠二ら 術後オピオイド鎮痛に伴うPONV(術後悪心嘔吐)予防策の検討――ジフェンヒドラミン・ジプロフィリン配合薬(トラベルミン注)の有用性 日臨麻会誌 Vol33, No1, 2013, p70-74 <3/15/2016>

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100.03.02. 術後嘔気嘔吐 PONVにトラベルミン

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100.03.02. 術後嘔気嘔吐 PONVにトラベルミン
○ 乳房手術症例でPONV対策にドロペリドールとトラベルミンを使用した
・34症例、ASA1~2、平均年齢60歳(37~87歳)、平均体重55kg(37~86kg)
乳房全摘10例、乳房部分切除17例、乳房全摘+腋窩郭清3例、乳房部分切除+腋窩郭清4例。
トラベルミン=DD配合薬2mL……ジフェンヒドラミン30mg・ジプロフィリン26mg/2mL/Ap
○ fentanyl 1000μg………(250μg/5mL)×4Ap⇒20mL
ケタミン100mg ………ケタラール100=(200mg/20mL⇒10mL
ドロペリドール5mg……ドロレプタン(25mg/10ml)⇒2mL
DD配合薬2mL………トラベルミン/2mL/Ap⇒2mL
生食を16mL加えて50mL
・緑内障Ptではトラベルミンは使用せず
・QTc延長Ptではドロペリドールは使用せず、20歳以下も不使用
・注入速度:1.0mL/hr 50kgで 0.6~1.2mL/hr flashは1時間量と同量。Rock out timeは6分。
・術中使用薬:propofol+RF+Rb   PONV対策としてmultimodal approach
       デキサメサゾン6.6mg(iv)
       フルルビプロフェン1Ap(iv)
       トラマドールiv ivは適応外だがivしている施設は多い
       PONV歴+、乗り物酔いPtではドロペリドールとDDを術中にiv
・鎮静鎮痛判定として RASS、NRS(numeric rating scale)
・ケタミンの経静脈持続投与で術後のモルヒネ使用量が減少し、オピオイドによる副作用が減少する。
・IV-PCAは麻酔開始と同時に持続投与
・術中にケタミン0.3~0.5mg/kg 1回5~10mgずつ分割投与。 15/18/25/30mg/50~60kg
IV-PCA投与速度;1.00mL/hr(0.6~1.3)
術中のケタミン使用;24.4mg(10~40)
・PONV+は1例、QTc延長でドロペリドール不使用例。IV-PCA中止症例なし
・ケタミンを併用したことで低いfentanyl濃度でPt満足度の高い鎮痛効果を得た
ケタミンを1.2mg/kg/hr以下で投与するとオピオイド使用量を40%減少させる
トラベルミンの持続投与(1/2Ap iv+1.5~2Ap/dayで持続投与)がドロペリドールの持続投与(1~1.25mg iv+ 2~2.5mg/day)よりPONVの発生率を低下させる
◇ 吉田圭佑ら 乳腺手術におけるケタミン、フェンタニル、ドロペリドール、ジフェンヒドラミン・ジプロフィリン配合薬(トラベルミンTM)を用いたIV-PCAの検討 臨床麻酔,Vol40, No2, 2016, p163-167 <3/15/2016>

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200.01. 年間脳外科手術実績  [経験] 2015年脳外科手術例数

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200.01. 年間脳外科手術実績
[経験] 2015年脳外科手術例数 今年からJ病院
○ 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血手術例:全9例(担当4例、他の麻酔医担当5例)
○ 未破裂脳動脈瘤手術症例:全4例(担当3例;動眼神経麻痺緊急2例、他医1例)
○ 脳内出血手術:全麻5例(全担当、緊急手術)、局麻:ステレオ手術1例(自家麻)
○ 急性硬膜下血腫:全麻2例(全担当)、局麻4例(自家麻)。
○ 慢性硬膜下血腫:全麻1例(担当)、局麻43例(自家麻)
○ 脳梗塞開頭外減圧:2例(全担当)
○ 外減圧後頭蓋形成:5例(担当4例、他医1例)
○ 硬膜下、外膿瘍、ドレナージ:全麻3例、局麻:1例
○ 脳腫瘍摘出術:3例、下垂体腺腫TSS 2例
○ 片側顔面痙攣に対する微小血管減圧術MVD3例
○ 頸動脈内膜剥離術CEA手術:2例(担当)
○ 脳梗塞に対するSTA-MCA吻合術:8例(担当)
○ 水頭症手術:12例(VA 1例含、全麻)、脳室ドレナージ6例(局麻)      
脳外科手術例数 合計116例:全麻61例(担当48例、他医13例)、局麻55例(自家麻)
                            <2/27/2016>

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