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脳外科麻酔の現場

脳外科麻酔についての備忘録 An actual spot of the neurosurgical anesthesia.

90.07.03. 気管支喘息の吸入薬

目次
90.07.03. 気管支喘息の吸入薬
○ 吸入ステロイド:抗炎症作用
・キュバール、・フルタイド、・パルミコート、・オルベスコ、・アズマネックス
○ β吸入薬
・サルタノールインヘラー、・メプチンエア:速効短時間型、発作用
・ベロテックエロゾル。ストメリン
・セレベスト:長時間型、維持管理用
○ ステロイド薬・β2刺激薬配合剤
・アドエア、・シムビコート、フルティフォーム、・レルベア
○ 抗コリン薬:症状悪化時、重症例の補助
・アトロベント、テルシガンエロゾル、スピリーバ:重症持続型の適応あり、・シーブリ
○ 抗アレルギー薬
・インタール:予防薬               <2/16/2016>

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90.08.02. Parkinson病Ptの麻酔

目次
90.08.02. Parkinson病Ptの麻酔
○ Parkinson病薬の種類と副作用
・レボドパ[ドパストン]:ドパミンの前駆体=休薬による症状増悪と悪性症候群
・レボドパ+DCIの合剤[ネオドパストン、メネシット、マドパー]=同上
・ドパミンアゴニスト[カバラール、パーロデル、ビ・シフロール=同上
・MAOB阻害薬[エフピー]=術前2週間休薬.オピオイド代謝阻害.ペチジン(オピスタン、デメロール)併用禁忌。フェンタニル、レミフェンタニル、ドロペリドール、エフェドリン併用注意。
・COMT阻害薬[コムタン]=特になし
・アマンタジン[シンメトレル]=特になし
・抗コリン薬[パーキン、アキネトン、アーテン]=麻薬関連薬物として抗コリン薬(アトロピン、スコポラミン)で作用増強
・ノルアドレナリン前駆薬[ドプス]=ハロタンなどハロゲン含有吸入麻酔薬は禁忌
・ゾニサミド[トレリーフ、エクセグラン]=休薬による症状増悪と悪性症候群、MAOB阻害作用あり
○ 手術に伴う絶飲食への対応  パーキンソン病治療ガイドライン2011
1) 手術当日、朝1回1時間程度でレボドパ・DCI配合薬100mgに付きL-ドーパ50~100mgをdiv。2日目以降も同様な対応。症状に応じて増量してよい
2) 長期に経口摂取が不能であれば腸瘻を設置する
・ドパミンアゴニストはレボドパ換算量(プロモクリプチン10mg=レボドパ・DCI配合剤100mg)
・休薬期間短縮のため手術は朝1番にするのが良い
・手術当日朝のPD薬は内服継続し、術中追加投与はレボドパ静注薬[ドパストン]をIV or経鼻胃管
・ドパミンアゴニスト貼付薬[ニューロプロパッチ]、皮下注射用ドパミンアゴニスト[アポカイン皮下注]
○PD薬中断の問題点―――PD薬中断が長引いた時
・PD症状の増悪:1)麻酔覚醒時に筋強直:レボドパ静注薬の緩徐静注。振戦:抗コリン薬[アキネトン]緩徐静注
・悪性症候群の発症
○麻酔管理上使用すべきでない薬物
・全身麻酔の合併症を避けるため可能なら区域麻酔での手術が望ましい
・ 起立性低血圧、仰臥位高血圧のPtでは術中の体位による血圧変動に注意
PDと注意すべき麻酔関連薬物
◌吸入麻酔薬
・デスフルラン:記載なし
・セボフルラン、イソフルラン:レボドパ、ドパミンアゴニスト使用Ptで低血圧
・ハロタン:不整脈の可能性
・亜酸化窒素:筋固縮の可能性
◌静脈麻酔薬
・プロポフォール:一時的に振戦を改善、制吐作用あり。ジスキネジア増強。定位脳手術ではPD薬中止するため不可
・チオペンタール:おそらく安全
・ミダゾラム:使用可能、せん妄に注意
・ハロペリドール:錐体外路症状増悪に注意、禁忌
・ドロペリドール:錐体外路症状を増悪し得る、MAOB阻害薬使用Ptで特に注意必要
・ケタミン:筋固縮の可能性
・デクスメデトミジン:記載なし
◌オピオイド
・フェンタニル、レミフェンタニル:筋固縮を増強するので注意。術後鎮痛には好ましくないMAOB阻害薬服用Ptは肝でのオピオイド代謝が阻害されオピオイド過量状態となる。
・モルヒネ:筋固縮の可能性、少量でジスキネジア減少、増量で無動性増悪
・ペチジン(メペリジン):MAOB阻害薬の併用禁忌、興奮、筋固縮、異常発汗、高熱のため禁忌:モルヒネ、コデイン、オキシコドン、ブプレノルフィンはこの作用はない
◌筋弛緩薬
・スキサメトニウムSCC:高K血症の可能性
・非脱分極性筋弛緩薬:おそらく安全
◌拮抗薬
・スガマデクス:記載なし
・ネオスチグミン:脳血管関門BBBを通過しないため安全に使用できる
◌循環作動薬
・抗コリン薬[アトロピン、スコポラミン]:PD Ptでは嚥下障害、流涎があり、周術期の誤嚥のリスクが高い。抗コリン薬は唾液の粘稠性を増加させ挿管抜管時の誤嚥を助長する可能性あり。術後呼吸不全、抜管後喉頭痙攣。PD薬として抗コリン薬を使用している場合は特に注意が必要
・エフェドリン:MAOB阻害薬使用Ptでは交感神経刺激作用が増強される
・ドパミン:末梢に作用する薬なので使用に問題はないが、作用が減弱する可能性あり
・Caチャンネル阻害薬:頻度は少ないがparkinsonismusを悪化させる報告がある
◌制吐薬
・メトクロプラミド[プリンペラン]、プロクロルペラジン[ノバミン]は中枢性ドパミン拮抗作用のため避けるべき。
・ドンペリドンは末梢作用で使用可。   
◇村岡裕ら. 神経精神疾患と麻酔 Parkinson病 LiSA Vol22. No12, 2015,p2012-2016
○ [注釈] PD Ptに全身麻酔を行うとしたら(他の合併症は考慮せずに)
1)チオペンタールで導入、エスラックスで挿管し、Des+レミフェンタニルRFで維持。リバースはブリディオンを使う。ワゴスは使えるがアトロピンは使えないのでよろしくない。
2)propofolで導入、エスラックスで挿管、propofol+RFでTIVA.エスラックスを使えばジスキネジアもない。ブリディオンでリバース。
・術後鎮痛はアセトアミノフェン[アセリオ]+NSAIDs[ロピオン、ボルタレンsp]+blockまたは局麻
・術中の昇圧はフェニレフリンまたはノルアドレナリン   <2/8/2016>

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100.04.01.02. fentanyl持続静注による術後鎮痛

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100.04.01.02. fentanyl持続静注による術後鎮痛
○fentanylを2倍に希釈して(25㎍/mL)とする
・25~50㎍/hr(1.0~2.0mL/hr)
◇ 小林好弘 LiSA vol23, No1, 2016, p58-60
○75~100㎍/hr 術当日から1POD
・手術終了前3時間からciv
・Remifentanil術中0.3~0.5㎍/kg/min
・50~75㎍/hr 1PODから
◇ 加藤洋海 LiSA Vol23, No1, 2016, p62-67
○30~50㎍/hr
・bolus投与 10~20㎍ ロックアウト時間5~10分
◇ 秋本美志也 LiSA Vol23, No1, 2016, p68-74 <1/6/2016>span>

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80.01.05. 術中昇圧薬の選択

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80.01.05. 術中昇圧薬の選択
○ 全身的に健康なPt
・フェニレフリン(=ネオシネジン0.1mg):血管収縮を起こすα受容体刺激薬
・エフェドリン、ドパミン:αβ受容体の両方を刺激し、心収縮力増強、心拍数増加、血管収縮
・アトロピン:高度除脈と低血圧が起きた場合
○ 重大な基礎心疾患を持つPt
◌ 冠動脈疾患PtがBP90/60mmHgの低血圧、脈拍80bpm:第1選択=心拍数を増加させないフェニレフリン。 
・エフェドリンを用いて心拍数増加し血圧上昇が不十分など心筋虚血を起こし易くなる
◌ 大動脈弁逆流症Ptが低血圧になったら、αβ受容体の両方を刺激する薬剤の方がよい。
・もとからの心収縮性がさほど悪くないなら効果のmildなエフェドリン
・心収縮性が高度に低下しているPt:ドパミン
・血管収縮のみを起こすフェニレフリンを過量投与すると後負荷増大、圧受容体反射による心拍数減少⇒左心室への逆流量増加⇒急性心不全を起こす可能性あり
・β遮断薬を使用しているPt:エフェドリンのβ作用が発揮されにくく昇圧作用も減弱する
○ 妊婦の低血圧:エフェドリンが第1選択とされてきた=血圧上昇による子宮血流量減少を伴わない。 フェニレフリンの使用も安全で第1選択
・カテコラミン:血圧は上昇させるが子宮血流量を減少させ、子宮胎盤循環が不良になり胎児の状態が悪くなる
○ 腎疾患Pt:腎血流量を増加させるドパミンが選択されることが多いが、ドパミンによる腎不全予防効果はない
・フェニレフリンやノルアドレナリンのようなα受容体刺激薬は腎動脈を収縮させ腎血流を減少させる可能性とされるが、実際には血圧上昇して尿量増加することもある
健康なPt冠動脈疾患PtARのPtβ遮断薬 Pt妊婦腎疾患Pt
フェニレフリン ○よくない
エフェドリンよくない ○軽症作用低下尿量↑も
ノルアドレナリン尿量↑も
アトロピン○除脈
ドパミン ○良くない予防なし

◇ 稲田英一. 麻酔への知的アプローチ 第9版 日本医事新報社、東京.2015,p33-34 <12/25/2015>

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10.09.01.06.02. 筋弛緩のチェック

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10.09.01.06.02. 筋弛緩のチェック
○ 筋弛緩の五感によるチェック:頭部拳上テスト(5秒間の保持)、握力テスト、開眼テスト(5秒間大きく見開くことができる)、発声、舌の突出……TOFR>0.7→筋弛緩からの安全な回復TOFR>0.9
○ 筋弛緩モニタリングの実際
・気管挿管時:TOF刺激に対する反応が完全に消失してからが望ましい
・術中の適切な筋弛緩の維持:TOFカウント1~2回以上を保っていればほとんどの手術で適切な筋弛緩状態が維持できる
・筋弛緩の必要ない手術ではTOFカウント3~4回以下で維持。または筋弛緩薬を投与しなくてもよい――適切な麻酔深度が保たれているのが前提
・強い刺激である気管吸引を行った時:PTC0回で体動を完全に、PTC1~2回では弱い反応に抑えられる
○ 拮抗薬投与時期
・抗コリンエステラーゼ薬投与:TOFカウント最低で3回、できれば4回になってからが良い――ほとんどのPtでTOFR>0.9が達成される
・スガマデクス投与:TOFカウント0回でPTCが確認できる場合は4mg/kg
          TOFカウント1~2回の場合2mg/kgが推奨される
○ 気管チューブの抜管:TOFR0.9になってから
○ 筋弛緩効果のみでバッキングを予防するにはPTC1~2未満を維持する
○ 眼周囲の筋も筋弛緩薬に対する感受性が低く、回復が速い
◇ 仁田原慶一ら. 筋弛緩のチェック 安全な麻酔のためのモニター指針 LiSA Vol20, No4. 2013, p352-355         <12/10/2015>

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10.09.01.06. 筋弛緩薬ロクロニウムRbの使い方

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10.09.01.06. 筋弛緩薬ロクロニウムRbの使い方
気管挿管時の筋弛緩
・ロクロニウムRbは神経筋遮断作用が速い、中時間作用性、活性代謝物の影響が少ない、持続投与が可能→症例によって効果の差が非常に大きい(筋弛緩薬全般に言えること)⇒気管挿管時は各筋弛緩薬の95%有効投与量(ED95)の2~3倍を投与する必要がある。
・RbのED95は0.3mg/kg⇒通常の気管挿管時は0.6~0.9mg/kg必要 0.3mg/kgは母指内転筋における有効量→横隔膜におけるED95は0.5mg/kg
・挿管時には1.0~1.2mg/kg(海外) ⇒筆者は1.0mg/kgを勧める。
・投与量が多くなれば作用持続時間は延長する
・麻酔薬は食道括約筋圧を有意に低下させる→フルストマックPt,逆流性食道炎,食道裂口ヘルニアなど胃内容逆流を生じやすいPt→迅速導入、迅速気管挿管rapid sequence induction and intubation(RSII)
・Rb投与後60秒以内に95%以上の確率で気管挿管を可能にするには1.04mg/kg必要。RSIIの際には1.0~1.2mg/kg
○ 胃内容逆流の危険性がある時は意識下挿管or[タイミングプリンシパル]
1)頭高位にて脱窒素
2)リドカイン1mg/kg iv(Rbによる血管痛予防) or Remifentanil civ(1㎍/kg/min=3.6mg/60kg/h)
3)30~60秒後 Rb 1mg/kg bolus iv Rbの筋弛緩効果は30秒以内
4)Rb投与後15秒くらいしたらpropofol就眠量(1~2mg/kg)投与
5)Rb投与60秒後、輪状軟骨圧迫しながら迅速気管挿管
・高齢者でも若年者でも終板の機能は変わらないので投与量の差はない。高齢者では作用発現は遅く、持続時間は延長する。
・高齢者ではRb1mg/kg投与で作用発現は2~3分(若年成人は1分)
○[プライミングプリンシパル]
・Rb0.03mg/kg+0.97mg/kg→筋弛緩までの時間を短縮する
・Rb1.0mg/kg投与ではTOF母指内転筋の反応でも安全な気管内挿管ができる
◇ 山本聡美ら. 気管挿管時の筋弛緩 ロクロニウムは呼吸筋におけるED95の2倍量を投与すべし LiSA, Vol20, No9. 2013, p834-838 <11/27/2015>

術中の筋弛緩薬投与とモニタリング
・Rbは持続投与に適した特徴を持つが投与量の個体差が大きい
・尺骨神経刺激に対する母指内転筋収縮反応を測定  母指内転筋の第1単収縮高(T1)をコントロール値の5~10%に維持するのが術中筋弛緩の目標
・喉頭筋や横隔膜が母指内転筋と同程度の筋弛緩を得るには1.7~2倍の投与量を要す→母指内転筋でT1=10%回復時に喉頭筋は約50%、横隔膜は90%回復している。
・術中の咳反射などを抑制するには母指内転筋T1=0(単収縮反応なし)が必要
テタヌス刺激後カウントpost titanic count(PTC)=2~3以下が目標
・PTC=1~2以上あればスガマデクス4mg/kg投与で速やかに拮抗可能  従来の術中筋弛緩目標はT1=5~10%であったがこれはスガマデクス以前の目標
・TOF Watchなどは測定部に布が触れると測定に影響する。測定部は保温が必要。
・下肢の反応は母指内転筋と同様
・手術終了時の回復の確認は母指内転筋で行う。回復がより遅い母指内転筋で十分な回復が確認されれば呼吸や嚥下運動などに必要な筋力も十分回復し、残存筋弛緩に起因する合併症を防ぐことができる  回復目標=TOF比≧1.0
・ベクロニウムVbは肝臓での代謝産物がもとの約70%の筋弛緩活性を有するので実際の筋弛緩効果を確認しながら反復投与の間隔や投与量の調節が必要
・Rbは生体内で活性代謝産物を生じない→Rb自体の血漿中濃度が筋弛緩効果を反映
・Rb持続投与時の目標血漿中濃度
 Sevo2%、Rb0.6mg/kg~0.9mg/kg単回投与後、母指内転筋のT1をコントロールの3~10%:1.0~3.0㎍/mL
 Propofol;Rb同様、1.5~1.7㎍/mL⇒持続投与7㎍/kg/min
 [初回単回投与量(mg/kg)×50]分後から持続投与開始
 投与量の増減 1㎍/kg/min増減=血中濃度0.2㎍/mL増減
 0.5㎍/kg/min=0.1㎍/mLずつ変更する
◇ 伊藤祥子ら. 術中の筋弛緩薬投与とモニタリング 個体差を考慮し、より効果的な持続投与を行うために LiSA, Vol20, No9. 2013, p840-845    <11/27/2015>

筋弛緩の拮抗とその評価
・残存筋弛緩が呼吸器合併症に関与。 軽度の残存筋弛緩でも回復室における危機的呼吸イベントの発生と関係がある。
・母指内転筋は筋弛緩に対する感受性が高いため、残存筋弛緩の見逃しを防止する観点からも妥当な選択である
・従来は横隔膜における残存筋弛緩に由来する低換気が問題にされ――TOF比≧0.7をもって残存筋弛緩なしと判断していた。
・TOF Watchは加速度感知型筋弛緩モニターacceleromyograph AGM.  AGMを用いた場合の残存筋弛緩の閾値は1.0を用いるべき
・ネオスチグミンの注意点は、深い筋弛緩状態では拮抗作用が不十分、天井効果あり、0.05mg/kg程度で作用が上限となる――3mg/60kg=6Ap.
 ネオスチグミンの至適投与時期 TOFカウント2→TOFカウント4.
 最大量に近いネオスチグミンを投与した場合、逆に筋弛緩効果が生じる可能性あり
――より低用量の投与を推奨
・スガマデクスによって有意に残存筋弛緩の頻度が減少するものの、筋弛緩モニターを使用しない場合、スガマデクスによる拮抗の直後に、再手術などの理由で再度筋弛緩が必要になった場合――スガマデクス投与後25分以上経過していればRb1.2mg/kgで気管挿管に必要な筋弛緩が得られる
・腎不全のPt:ICUにおいて血液浄化を受けているPtで1回6時間の血液浄化でRbおよびスガマデクスの約70%が除去された。
◇ 豊田大介ら. 筋弛緩の拮抗とその評価 AGMでのモニタリング時にはTOF比1.0以上が目安になる LiSA, Vol20, No9. 2013, p846-850 <11/28/2015>

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130.04.07. ダビガトラン中和のためのイダルシズマブ

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130.04.07. ダビガトラン中和のためのイダルシズマブ
[背景] 非ビタミンK拮抗薬の経口抗凝固薬に対する特異的中和薬はない。イダルシズマブは抗体フラグメントであるが、ダビガトラン(プラザキサ)の抗凝固作用を中和するために開発された。
[方法] イダルシズマブ5g静注の安全性と、重篤な出血があるPt(group A)又は緊急処置が必要なPt(group B)でダビガトランの抗凝固作用を中和する能力を決定するためにこの前向きコホート研究が行われた。第1次評価項目end pointはイダルシズマブ注射後4時間以内におけるダビガトランの抗凝固能の中和の最大パーセントで、中央検査部で希釈トロンビン時間またはエカリン凝固時間により判定した。主要な第2次評価項目は止血能の回復とした。
[結果] 中間解析はイダルシズマブの投与を受けた90例(group A:51例、group B39例)を含んでいた。ベースラインで希釈トロンビン時間が上昇していた68例とエカリン凝固時間が上昇していた81例の最大中和率の中央値は100%(95%信頼限界100-100)。Ptの88―98%でイダルシズマブは検査結果を正常化しており、効果は数分以内に現れた。Ptの79%で非結合ダビガトラン濃度は24時間で20ng/mL以下外あった。評価しえたgroup Aの35例において止血は、それぞれの観察者によって決定されたものであるが、中央値11.4時間で回復した。緊急処置(手術)をうけたgroup B 36例のうち33例では術中止血能は正常で、2例で軽度の止血異常、1例で中等度の異常だった。抗凝固薬を再開しなかった1例でイダルシズマブ投与後72時間以内で血栓イベントが発生した。
[結論] イダルシズマブはダビガトランの抗凝固作用を数分以内に完全に中和した。
◇ C.V. Pollack et al. Idarucizumab for Dabigatran Reversal N. Eng J Med 373; 6 Aug6, 2015, p511-520  (抄録のみ)
[注釈] 血栓症の予防治療に用いられてきたワルファリンはモニターとしてPT-INRを使用する必要がある。最近は新規経口抗凝固薬としてダビガトラン、リバーロキサバン、エドキサバンなどが用いられてきている。これらはワルファリンと比較して効果発現、効果消失時間が短く、効果の個人差が少なく、他の薬剤との相互作用も起こしにくく、抗凝固作用のモニタリングが不要である。新規経口抗凝固薬は、血栓症によるイベント発生率をワルファリンと比較して同程度またはそれ以下に抑制することや、頭蓋内出血などの出血性合併症を低下させることが示されている。出血が起きた場合に、ワルファリンであればビタミンK,プロトロンビンコンプレックス、新鮮凍結血漿などで作用を拮抗することができる。しかし、新規経口拮抗薬には拮抗薬がなかった。 ◆稲田英一、LiSA,Vol22, No10, 2015, p1068
<11/2/2015>

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130.04.06.02. 消化器外科・一般外科領域における抗血栓薬服用Ptの周術期管理の実態分析

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130.04.06.02. 消化器外科・一般外科領域における抗血栓薬服用Ptの周術期管理の実態分析―京大外科関連施設癌研究会アンケート調査から―
・抗血栓療法(抗血小板療法APT、抗凝固療法ACT)
・ACT例;ヘパリン置換を行うことが多い
・APT例;血栓塞栓高リスク例→APT休薬後にヘパリン置換を行う施設
      APT維持下に手術を施行する施設
・重篤な出血性合併症:APT例49%、ACT例62%の施設でみられた。
・抗血小板薬APT:アスピリン、チエノピリジン系薬物(チクロピジン、クロビドグレル)、シロスタゾール、イコサペンタエン酸、塩酸サルボグレラート、ベラプロストナトリウム、リマプロストアルファデクス、ジピリダモールなど
・抗凝固薬:ワルファリンカリウム、ダビガトラン、リバーロキサバンなど
・予定、緊急手術それぞれでACT,APTの周術期管理、術中止血困難例経験
・APT例での高リスク群:(1)薬剤溶出性冠動脈ステント、(2)非薬剤溶出性冠動脈ステント留置術後2ヶ月以内、(3)脳血行再建術後3ヶ月以内、(4)最近発症した虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作例、(5)その他当該科にて高リスク群と判断された症例
・ACT例での高リスク群:(1)静脈血栓症(肺塞栓症や深部静脈血栓症)の既往歴、(2)慢性心房細動例、(3) その他当該科にて高リスク群と判断された症例
                         消化器外科    一般外科
ACT例
  ・待期手術→内服休薬後ヘパリン置換      89%       68%
  ・消化器外科緊急手術
 ビタミンK、FFPで抗凝固能の緊急拮抗  82%
  ・Lap手術                  施設基準満たせば適応100%
  ・術中止血困難、術後出血性合併症経験     63% 24施設
APT例
  ・血栓塞栓症低リスク群
術前休薬        68%        63%
  ・血栓塞栓症高リスク群
内服休薬後ヘパリン置換      71%        58%
        単剤または2剤継続下手術     21%        34%
  ・消化器外科緊急手術
     血小板輸血はなし、内服継続下手術    89%
     Lap手術                92%
出血・血栓塞栓リスクのいずれも高い 術後ACT・APT内服再開時期
多剤併用抗血栓薬服用例
 ・APT2剤内服例         2剤とも同時再開  76%
 ・APT+ACT           術後にヘパリン再開後に2種同時再開 47%
・脳血管疾患や心血管疾患の高リスクPtでは低用量アスピリン服用により脳・心血管イベントの発症リスクは訳75%まで低下する。
・一方アスピリン中断は主要血管イベント発症の危険因子で中断により発症リスクは3倍程度上昇する。心房細動Ptにおいてワルファリンを中断して脳梗塞の発症頻度が1%程度に上昇する。
・血栓塞栓症は周術期の発症頻度は1~2%程度で低いが、一度発症すると致命的になったり重篤な後遺症を残すことが多くその予防は最優先に検討されるべき。
◇ 藤川貴久ら:消化器外科・一般外科領域における抗血栓薬服用Ptの周術期管理の実態分析―京大外科関連施設癌研究会アンケート調査から―,日外会誌116, (5),2015,p334―339
<10/14/2015>

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130.04.06. 心房細動のあるPtの周術期の「つなぎ」の抗凝固療法

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130.04.06. 心房細動のあるPtの周術期の「つなぎ」の抗凝固療法
○背景:心房細動のあるPtで待期的手術やその他の待期的侵襲のある処置のためにワルファリン治療の中断が必要な時に、「つなぎ」の抗凝固療法が必要か否かは明らかではない。「つなぎ」の抗凝固療法を行わないことは周術期の動脈血栓塞栓症の予防に、低分子ヘパリンで「つなぎ」療法を行った場合と比べて非劣性であり、大出血に対しては優れているという仮説をたてた。
○方法:無作為化二重盲検プラセボ対照試験。ワルファリン治療を周術期中断した後に低分子ヘパリンdelteparin100IU/body weightKgによる「つなぎ」抗凝固治療群とマッチングプラセボ毎日2回皮下注群に割り付けた。処置の3日前から24時間前までと処置術後5-10日後まで行った。ワルファリン治療は処置5日前に中止し、処置後24時間以内に再開した。術後30日間のfollow upを行った。第1のoutcomeは動脈血栓塞栓症(脳卒中、全身塞栓症、TIA発作)と大出血とした。
○結果:全1884名が登録され、950例が「非つなぎ治療群」に、934例が「つなぎ治療群」に割り当てられた。
・動脈血栓塞栓症の頻度は「非つなぎ群」で0.4%、「つなぎ群」で0.3%(リスク差0.1%ポイント、95%信頼限界[CI]は―0.6~0.8、P=0.01で非劣性であった。
・大出血の頻度は「非つなぎ群」で1.3%、「つなぎ群」で3.2%(相対リスク0.41%,95%CI0.20―0.78、P=0.005優意性)
○結論:心房細動でワルファリン療法を受けているPtで待期的手術あるいはその他の侵襲的処置のためにワルファリン療法を中断した場合、動脈血栓塞栓症の湯棒のために周術期に低分子ヘパリンによる「つなぎ療法」を行わないことは非劣性であり、大出血のリスクを減らした。

○ Afがあり、warfarinを受けており、待期的手術やその他の待期的侵襲性の処置を受けるPtにとって、周術期のwarferin Txの中断の間に「つなぎ」の抗凝固療法の必要性は長い間不明のままである。毎年、このよくある臨床的シナリオはAfがあってwarfarin Txを受けているPtのおよそ1/6が影響を受けている。Warfarin Txは典型的には、その抗凝固作用が減退するのを許すために待期的処置の5日前に中止される。;それは処置後、止血が心配なくなった時に再開され、治療的抗凝固が達するまでに治療後5~10日を要する。Warfarin Txの中断の間、「つなぎ」の抗凝固療法は、脳卒中のような周術期の動脈血栓塞栓症のリスクを最小にする糸で、典型的には低分子ヘパリンで行われるが、十分な抗凝固のレベルを持たない時間を最小にすることができる。
○ 多くの観察研究が低分子ヘパリンでの「つなぎ」のタイミングと投与量を評価してきた。しかしながら周術期のwarfarin中断の間に「つなぎ」凝固治療が必要かどうかという基本的な質問には答えられないままに残ってしまった。エビデンスの欠如のために臨床ガイドラインは「つなぎ」抗凝固療法の必要性に関して弱く、首尾一貫しない推奨しか提供できなかった。
○ BRIDGE trialは簡単な疑問に答えるために企画された。AfのあるPtでヘパリン「つなぎ」は手術その他の侵襲的処置の前後のwarfarin中断の間に必要かどうか。我々は
周術期の動脈血栓塞栓症の予防の為の「つなぎ」を全くなしで済ますことは非劣性であり大出血の結果outcomeに関しては優れているという仮説を立てた。
○ 討論:Afでwarfarinを使っているPtの周術期に抗凝固薬の「つなぎ」をせずにwarfainを中断することは非劣性であることが分かった。さらに「つなぎ」療法は大出血のリスクに関して約3倍の寄与をしていた。小出血はより少なかった。心筋梗塞、静脈血栓塞栓症および死亡に関して両群に差はなかった。
○ Afがありwarfarin治療の中断中のPtの周術期の動脈血栓塞栓症は大袈裟に言われていて、「つなぎ」抗凝固療法によって和らげられてはいない。
○ 周術期の動脈血栓塞栓症のメカニズムは処置のタイプ、術中血圧の変動のような因子とより関係しているのかもしれない。
○ warfarinの中断は反動的高凝固状態を引き出したり、処置の環境が前血栓状態に関与するといった前提はこのtrialの結果は支持されなかった。
◇ J.D. Douketis et al. : Perioperative Bridging Anticoagulation in Patients with Atrial Fibrillation. New England Journal of Medicine, 373; 9, 2015, p823-832

血栓の成分
・動脈性血栓:血小板と白血球、ずり応力の高い動脈内の硬化部位にできる。
⇒抗血小板薬《アスピリン、クロビドグレル(プラビックス)、チクロピジン(パナルジン)、プラスグレル、ticagrelor、cangrelor》
⇒急性冠症候群診断後、冠動脈stent留置術後、非心源性脳梗塞、末梢閉塞性動脈疾患。
・静脈性血栓:赤血球とフィブリン、血液のうっ滞が原因で形成される。
⇒抗凝固薬《ワルファリン、未分画ヘパリン、低分子ヘパリン(エノキサパリン、ダルテパリン、フォンダパクリヌス、ダビガトラン(プラザキサ)、リバーロキサン(イグザレルト))
⇒人工弁、心房細動、静脈性血栓塞栓症             <10/13/2015>

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10.06.01.03. McGRATH MACの使用経験

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10.06.01.03. McGRATH MACの使用経験
○ [経験] 2015年頭からMy McGRATHを使用している
・約8か月間(238日間)に149例の気管内挿管を経験した
・容易に挿管できた:138例
 やや困難(2回目挿管を含めて):10例
 McGRATHで挿管困難でAWSを使用:1例=脳外科再々手術例でepiglottis変形
 この間に声門上器具i-gel使用例:5例 腹臥位例でi-gel挿入1例
・当初、気管チューブの行く先(口腔内)とMcGRATHのディスプレイ画面との視差に違和感があったが徐々に慣れてきた
・通常のMacintosh型の喉頭鏡で挿管する時のように頭部後屈して口唇から声門を一直線化する必要はない。枕をやや高くしてそのままの位置でMcGRATHのbladeを挿入する方が声門が見えやすい。また気管チューブも声帯を通過してまっすぐ入りやすい。
・McGRATHのbladeはMacintosh同様に、先端を喉頭蓋窩(谷)に挿入する
・気管チューブは口腔内に入るスペースがあれば舌を左側に寄せる必要はない
・気管チューブは口角から斜めに入れるのではなくbladeの下に沿って入れたほうがチューブ先端が視野に入りやすい
・bladeは男性4、女性3を使用
・bladeの出光部にはあらかじめ曇り止めが塗布してあるようでreuseすると曇る⇒腹腔鏡用あるいはAWSの曇り止め(目薬)を1滴たらすと曇らない
・昨年までATQやKingvisionを使っていたのでチューブガイドはあった方が良いと思ったが、慣れればほとんどは問題ない。しかし挿管できなかった1例ではAWSで挿入した。
・口腔内分泌物が多いと見えにくくなる
・電池は8か月で約1/3になった。1年くらいは使えそうである
・全般的には安心して使える喉頭鏡であるといえる。   <9/7/2015>

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205.08. 動脈血圧管理と頸動脈内膜剥離術

目次
205.08. 動脈血圧管理と頸動脈内膜剥離術
○ CEAの周術期血圧管理についての総説
動脈圧の急性の周術期変化はしばしば起きる。特に心血管系疾患を持つPtや血管作動性薬物を飲んでいる人、ある種の心血管系外科的操作に関連した人で頸動脈手術を受けるPtでは特異な病態生理学および外科的因子のために低血圧、高血圧はよくあることである。血圧管理不良は頸動脈内膜剥離術CEAの合併症や死亡率を増やすが血圧の良好な管理は実際に行うのは困難である。新ガイドラインでは急性の神経学的兆候を持つPtで緊急のCEAを実行する有効性が強調されている。この戦略は周術期の血圧コントロールをよりチャレンジングなものにするかもしれない。しかし個々の薬物治療を導く特別なデータは少ない。CEAに関連した血行動態の不安定性の頻度、関わり合い、原因を検討しこの管理のためのいくつかの推奨を作った。特別な薬物の選択よりは厳密なモニタリングと治療のタイトレーションががより重要な考え方であろう。
血圧の急性の変化は多くの外科手術の間はよくあることである。広範な原因の多様性が寄与するかもしれないが、心血管系の不安定性や血管作動性薬物を飲んでいる人やある種の心血管系の手術を受けている人でより共通で顕著である。
・CEAは大規模、無作為化、前向き研究の結果に基づいたよく定義された適応を持つ予防的手術である。手術の目的は著しい頸動脈狭窄のあるPtの致死的あるいは手足が不具になる脳卒中strokeの引き続くリスクを減らすことであるが、その利益は周術期の合併症、死亡率が低い時にのみ実現する。周術期strokeに加えてCEAを受けるPtは冠動脈疾患、高血圧症、糖尿病の共存する頻度が高いのでその他の心血管系の合併症のリスクが増える。CEAを受けるPtで血圧をコントロールすることはしばしば困難であるが、周術期血行動態の不安定性は直接あるいは間接に合併症と死亡率に影響する。頸動脈手術はユニークで血圧の生理学的コントロール機構の主要な構成要素の一つである、頸動脈洞内の圧受容器baroreceptorは病気の進行自体に含まれ、外科手技と同時発生の麻酔によって影響を受けるかもしれない。最近、一過性脳虚血発作TIAあるいはstrokeになったPtはbaroreceptorの感受性が変化しているので血行動態の不安定性のリスクが高くなっているかもしれない。(表1)最近のエビデンスはTIA後初めの数時間に不具になるあるいは不具にならないstrokeが起こる頻度が高いと強調しており緊急の手術が主張されている。血管外科医と脳卒中医はTIA後早期にCEAが実行されることを支持しているが、このことは圧反射機能がTIAやstroke後の初めの数週間は障害されているので周術期の心血管系管理がより困難になるであろう。この論文はCEAを受けるPtの血行動態の不安定性の頻度、重要性、原因について述べ、病態生理学的仕組み、特別な管理戦略のエビデンスについて考える。
○ CEAを受けるPtの周術期のリスク因子
(表1)CEAを受けるPtの周術期の不安定性に対する危険因子
術前:症候性の神経学的事態と外科手術の日時が近いこと、・両側頸動脈狭窄、・以前に対側CEAを受けているか根治的頸部手術を受けている、・コントロール不良な術前高血圧症
術中:・外反するCEA、・頸動脈洞神経のブロック/廓清
・CEA後の悪い結果poor outcomeにはいくつかの因子が関与している。それには、同側の大脳半球の神経学的兆候(strokeかTIA)や、対側の頸動脈の高度狭窄、遠位の内頚動脈(ICA)や外頸動脈狭窄などが含まれる。急性あるいは不安定な神経学的兆候(例えば極最近のstrokeやだんだん増強するTIA)などではリスクは特に高く、無症候性の眼症状だけのPtでは神経学的リスクは低い。慢性腎不全、重症な冠動脈あるいは末梢血管疾患、あるいは内科的リスク因子の合併しているPtでは周術期の結果outcomeは悪い。長期間のoutcomeは喫煙者、高血圧症、高脂血症のあるPtではより悪く、その他のリスク因子、例えば年齢、性別などでは決定的ではない。高血圧症はCEAを受けるPtでは一般的であり約65%に既往がある。未治療の高血圧症はCEA後の悪いoutcomeの独立した危険因子であると考えられるが、これに対するエビデンスは何であろうか。
○ 高血圧症とCEA後のoutcome
・術前の高度の高血圧症は理論的にCEA後の神経学的あるいは心血管系の合併症にかかり易くなるかもしれない。しかしデータは首尾一貫していない。いくつかのCEAの研究は術前と術後の高血圧症および周術期高血圧症のより悪い神経学的outcomeあるいは死亡との関連を示したが、他の大きな研究ではその様な関連性は見られなかった。否定的研究のいくつかは肯定的関連性を示すデータのサブグループ解析を含んでいた。これらの矛盾の可能性のある理由は研究の大きさ、デザイン、フォローアップ期間、使用された精密な定義(例えば高血圧症を定義するために異なる閾値を採用する(後方視の)指標(すなわち死亡、心筋梗塞MI、stroke)を使い、他の合併症を明瞭にしていず、いくつかの研究は20年以上のデータを評価していた。その間に外科的、麻酔的、内科的臨床は変化している。内科的治療の改善はいくつかのリスクファクターの長期および周術期の合併症を変えた。たとえば血栓溶解、早期の経皮的冠動脈インターベンションPCIおよびMIの二次予防など、血圧の積極的治療の閾値は、特に糖尿病のようないくつかのPtグループでは減少した。いくつかのCEAの研究では無症候性と症候性のPtを含んでいる北米での全例混合overall case mixではヨーロッパと比べて無症候性のPtの比率が高い。CEAに関連した周術期strokeのほとんどは低あるいは高血圧症よりもむしろ血栓塞栓症によって生じている。そしてそれらのほとんどは外科的技術的エラーによって起こっている。しかし多くの研究は重要な外科的変数たとえばsite部位(側)、頸動脈狭窄の強さ、対側の狭窄の有無と程度などを数えていない。そして外科的技術(外反法と標準的CEA、シャントの使用、ヘパリンの投与、あるいはそのプロタミンによる拮抗など)も説明していない。
・今、術前高血圧症の重要さが終末器官のダメージ損傷の存在に関連していることが評価されているが、いくつかの研究はこのことを説明していない。高血圧症は歴史的に周術期心筋虚血、不整脈、心血管不安定性および周術期の心臓のoutcomeが悪化する危険因子とみなされてきた。しかし最近のメタ解析は一般的外科Ptの実際のリスクは統計学的に(オッズ比1.35)重要であるがおそらく臨床的には重要ではない。この様に一般的な外科のPtでは入院時の収縮期血圧(SAP)<180mmHgあるいは拡張期血圧(DAP)<110mmHgは周術期のリスクは実質的には増えない。
・これに対し重度の高血圧症(SAP>180mmHg or DAP>115mmHg)では広範な術中血圧変動、周術期不整脈、心筋虚血などが起こりやすくなる。
・基本的な血圧の基線base lineに関係なくCEAを受けるPtではしばしば動揺しやすい。ある研究では収縮期高血圧(SAP>220mmHg)と低血圧(SAP<90mmHg)はそれぞれ9%と12%であった。CEAを受けるPtでは一般的手術Ptの群に比べて心血管系のリスクが増えている。なぜならこの群では他のリスク因子(虚血性心疾患、心不全、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患)の頻度が高いから。そしてCEAでは血圧の誇張された周術期の変化はMIとか心不全がCEA後の長期死亡の37-50%に上るという。心合併症と血圧をできるだけ厳密にコントロールするのは理にかなっている。頸動脈狭窄のあるPtの脳血流量CBFは側副循環に依存しているにも拘らず、CBFの自己調節は特に慢性高血圧症のPtでは障害されているかもしれない。強い降圧治療はこの様な環境では脳虚血を起こし易くする。
・CEAを受けるPtでは未治療の高血圧症は術後の高血圧症と関連している。これは術後の創の血腫形成を起こし易く、縫合線や静脈の出血を増加させ気道閉塞を起こすかもしれない。それはまたCEA術後の脳過灌流症候群や脳内出血を起こし易くする。
○ 脳過灌流症候群
・脳過灌流症候群と脳内出血は術後の高血圧症と関連している。それは術後当初は正常血圧であるPtにも起こりうる。過灌流症候群はCEA後のPtの~1%に起こり、古典的には術後2~7日に出現し、強い頭痛、神経学的欠落症状、脳内出血に至るような痙攣を起こす。臨床症状は高血圧性脳症に類似し、脳内出血後の死亡率は67%に上るかもしれない。脳過灌流症候群は以前は低灌流であった脳の領域における拡張した脳の細動脈に流量が増えることによって起こると示唆されてきたが、最近の研究では虚血再灌流障害によると予想されている。同側の血管原性脳浮腫をもたらす、それは通常は後方循環における自動調節能の局所的喪失があるが、全脳血流量は増えてるわけではない。CEA後の脳内出血の危険因子には最近の同側の虚血性stroke、高度の同側または対側の頸動脈病変、流量再建後の著しく増加した脳灌流(中大脳動脈流速、拍動性)高度の術後高血圧症が含まれている。(表2) 脳過灌流症候群における脳浮腫は治療可能で、積極的な血圧コントロールで逆転できるかもしれない。それ故、血圧の厳密なコントロールは脳過灌流症候群の危険因子を持ったPt特に周術期に中大脳動脈の流量や拍動性の増加が著しい時には保証されている。
・文献的矛盾にも拘らず血管手術の世話をする多くの麻酔科医と外科医は注意深いモニタリングと血圧のコントロールがCEAを受けるPtでは重要であることに同意している。著しい心拍数と血圧の変動は術前に高血圧症がなくても共通のことであると評価できる。しかしながら良好な血圧のコントロールは高度の頸動脈狭窄のある手術では2つの潜在的問題があり重要である。第1は頸動脈の交差クランプ前には頸動脈狭窄を通した遠位の十分な脳灌流が「分水界」の脳虚血を予防するために必要であること、第2に内膜剥離がなされ狭窄が取り除かれた後には、それ以前は狭窄により「保護されていた」脳血管が比較的高い圧にさらされるリスクがあるから。高血圧症はその他のタイプの手術と比べてCEAを考慮しているPtは周術期リスクが高いのは明らかである。なぜそうなのか?
○ CEA中の血行動態の不安定性の病態生理
○ 動脈の圧反射 the arterial baroreflex
・心血管機能は脳幹内でコントロールされ末梢受容器の幾つかからのインプットに影響されて大動脈弓と頸動脈分岐部(baroreceptor)内の頸動脈洞の非被包化内臓神経終末からの求心性知覚繊維を含んでいる。心房と心室壁(心臓圧受容器)、頸動脈および大動脈体部の動脈化学受容器、それは孤束核でシナプス結合する。動脈圧反射は頸動脈洞と大動脈弓の中の圧受容器で検出され、動脈圧の急性変化に対する反応における交感神経および副交感神経の心臓血管活動性の反射変更である。それは血圧の急性変調に対応でき、異なる病変部位によって変化する。たとえば慢性高血圧症、頸動脈病変、脳血管病変。その全てはCEAを計画しているPtで起こっている。頸動脈圧受容器の脱神経は血圧の可変性を生じる。なぜなら減少した迷走神経および交感神経性圧反射感受性を減らすから。しかしこのことは他の圧受容器が正常の慢性の動脈圧を維持することができるように慢性の高血圧には導かない。圧受容器の機能はCEAを受けるPtで必然的に障害される。これに対するいくつかの分離された原因がある。
○ CEAを受けるPtの変化した圧受容器機能
・CEAの間の血圧と心拍数の急性の変化はもともと頸動脈洞を外科的に操作することにより生じると信じられていた。レニンアンギオテンシン系の変化やバソプレシン濃度、中枢性カテコラミン活動性など他の変化も想定されていたが。しかしながら今日では頸動脈のアテロームはそれ自体が脳灌流圧を減じ、圧受容器反射と脳血管の反応性を無症候性のPtでも悪くすることが明らかになっている。障害された圧反射と脳血管反応性は長期のoutcome予測因子である。頸動脈のアテロームは動脈樹系の他の部位のアテローム性の病気を伴っており、頸動脈アテロームの動脈圧反射の感受性により、周術期血行動態の不安定性と関連している。
・頸動脈への手術は圧受容器の機能不全と関連している。頸動脈プラークの外科的除去はただちに圧受容器の活動性の部分的破綻を生じ、高血圧を起こし、動脈圧の不安定性を増す。このことは術後、数時間から数日続き、動脈腔から知覚神経終末を抜去することにより生じているかもしれない。術中の頸動脈洞神経ブロックがなぜ周術期の動脈圧コントロールを変える効果があるのかの説明になっている。ヒトの圧受容器システムはその他の生理学的機構と共通で、重複性の要素に組み込まれており、もし片側だけが侵されても全体の機能は障害されない。対側の頸動脈のアテロームが著しいPtは対側頸動脈が正常なPtよりも両側の圧受容器の機能不全と圧反射が減るので、術中および術後の高血圧のエピソードが起こる。この事のさらなる支持として「不全」が高齢のPtの分割、両側CEA後に報告された。同様にCEA後の圧受容器機能の回復は、術後後期に血圧のコントロールがしばしば改善されるのが観察されることで説明できる。
・手術の直接的効果に加えて、いくつかのその他の要因がCEAの術中、術後の圧受容器の機能不全と循環動態の不安定性に貢献している。これらには慢性高血圧症、降圧薬の効果、最近のTIAやstroke、stroke後の降圧薬の変更、年齢の効果などが含まれる。さらに加えて自律的機能不全、例えば糖尿病Ptでは圧反射反応が障害される。ある研究ではCEA後に高血圧になるPtの93%が糖尿病を持っていた。
○ 頸動脈のcross-clamping横断クランプとシャントの効果
・頸動脈のクランプは脳血流の予測されうるパターンへと導く。それにより圧受容器反応によって調整される動脈圧の代償性増加と交感神経の活動性の増加が一緒に起こる。これはシャントを活用するか、手術の終わりにクランプしないことにより血流の復元が逆転し、短時間の軽度の低血圧が続いて起こるかもしれない。これらの変化の大きさは要因の数に依存する。その要因とは同側の狭窄の程度、側副血行の完全さ、脳虚血の時間、手術的麻酔的要因による。深い全身麻酔(GA)下にCEAを施行しているPtでは圧受容器の機能と脳の自動調節能が高濃度の吸入麻酔薬により減少することによって、変化はより目立たないかもしれない。クランプの時間もまた、循環動態の安定性に影響し、高血圧が通常であるが、術後低血圧も報告されていて、おそらく10-15分間の超短時間の頸動脈クランプと関連しているかもしれない。
○ 外科的要因
・いくつかの外科的要因も血行動態の安定性に影響するかもしれない。外反CEAは血管拡張薬をより多く使用することより術後の高血圧に関与している。標準的縦切開内膜剥離術、パッチ血管形成を行う場合も行わない場合も、術後の血管収縮薬の使用が少ない。このことは横断あるいは頸動脈洞神経の局所ブロックにより関連していると思われる。それは血行動態の不安定性に関係する。頸動脈洞神経ブロックは決まった手技routine procedureとしては推奨されていない。
・症候性内頚動脈ICA狭窄は頸動脈ステントによる血管形成(CAS)で治療されるかもしれない。CASは従来の手術に比べて異なった血行動態の側面を持っている。周術期(処置の)低血圧が通常に起こる(起こりやすい)。100例のPtのCASとCEAの無作為試験で頸動脈ステントを行ったPtは外科的群に比べて処置後動脈圧の予測しうる優位の減少があった。そしてそれは6か月も持続した。しかしながらCASの役割は特に症候性のPtではまだ確立されていない。
○ 麻酔の要因
・初期の手技は一般的に局所麻酔下に行われていたが、全麻(GA)がより良い手術状態と脳循環を促進すると感じられたので徐々に一般的になってきた。最近の注目は領域麻酔(RA)に戻ってきた。その利点は覚醒下の神経学的モニタリングができることが含まれている。最近の系統的レビューではRCTで結果に差がなく、RAで創の血腫が少ないなどのmorbidityで小さな差があるだけである。GARA trialはCEAに対してlocoregional局所+領域麻酔とGAで3500名のPtで90以上のセンター(多施設)、ヨーロッパが中心であるが、2001―2007年に比較検討したものである。一次のoutcomeは30日以内の死亡、stroke、心筋梗塞MIで、二次のoutcomeは1年目のstrokeが含まれる。予備的な結果では30日以内の死亡率でGAとRAで大きな差はなかったが、さらなる分析が求められた。その間に、それぞれの技術の強い関心がそれぞれの好みの方法の利点についての討論が続くだろう。
・CEAのための麻酔の選択は術中および術後の血行動態の輪郭profileに影響する。潜在的に観測者と報告者のバイアスが投影されるが、いくつかの非無作為化研究ではGAおよびRAの術中動脈血圧の輪郭の差が示された。RAでCEAを行ったPtでは横断クランプ中に高血圧になりがちで脳血流の回復後と術後期に低血圧になりがちである。それとは対照的にGAの通常のパターンは術中は比較的低血圧で術後高血圧となる。
・IV及び吸入麻酔薬は投与量に依存して中枢性交感神経の調子、圧反射の活動性の減弱、心臓および末梢血管の直接の影響によって共に心血管機能に影響する。オピオイドのようなその他の薬物は、交感神経の求心性および遠心性の活動の減弱によって、直接的中枢あるいは末梢迷走神経刺激、直接及び間接の心筋および血管平滑筋への効果で心血管機能に影響する。これらはGAによるCEAの間、陽圧換気によって低血圧を生じるかもしれない。N2Oは血清ヘモシステイン濃度とCEAを受けるPtの術後心筋虚血を増加させるのでほぼ間違いなく避けるべきである。ある研究は、特定の麻酔薬が心血管系の安定性に影響するかもしれないが、全体として特定の麻酔薬の使用が心血管系の安定性やCEA後のoutcomeに影響することはないと示唆している。RAとGAの間の観察された動脈圧の差についての可能性のあるその他の理由には鎮痛薬と輸液管理の差が含まれるであろう。外科的な混乱の可能性のある要因として頸動脈の横断クランプの時間とGA下のシャントの使用の増加が含まれるだろう。
・麻酔科医によって投与されるその他の薬物は明らかに血行動態とoutcomeに影響しうる。術中動脈圧を増加させることは頸動脈が横断クランプされている間の神経学的欠落の進行を拮抗するために使われるかもしれない。しかし動脈圧の増加は、いくつかのセンターでは日常的に実行されているが、それ自体はリスクがないのではなくて影響されやすいPtの心筋虚血を早めることもある。
○ 外科手術の適応とタイミング
・最近のデータはTIA後早期のstrokeのリスクは以前認識されていたよりも高いことを示しており、UKのガイドラインではインターベンションはTIAの48時間以内に実行されるべきであると示唆している。この目標は多くのセンターでは日常的実地臨床にはなっていない。認識が高められ外科の緊急性が術前評価と周術期管理に、特に急性の心疾患やコントロールされていない高血圧症のあるPtで十分なインパクトがあるであろう。圧受容器の機能不全は急性虚血性脳卒中後にはよくあることであり、確実な長期outcomeを伴っている。高血圧症は急性虚血性脳卒中後には普通にあることであるがstroke後の動脈圧の目標についてのコンセンサスはない。最近TIAを起こしたPtは周術期の動脈圧の不安定性が増加しているかもしれない。最近起こしたstrokeはCEA後の有害な神経学的outcomeの確定した危険因子である。それでより高いリスクのPtは緊急手術の準備をされるであろうから高血圧を含む危険因子のコントロールに利用される時間は少ない。周術期の最近の動脈圧(血圧)管理のデータは急いで要求される。
○ 動脈血圧管理の実際的観点
・術前・術中・術後で少し異なる考え方が適応される。
・手術前には血圧をコントロールし維持することは重要であるが頸動脈狭窄部より遠位の脳灌流を過度に減らすことは避けなければならない。
・術中の目標は脳灌流圧と側副血行を維持することである。自己調節が麻酔の効果により障害され、手術の直接的効果により圧反射が害され、しかし脳血流は頸動脈遮断や手術自体により強い影響を受けるのであるが。
・術後には、障害された自己調節能と圧反射がある中で、手術部位より末梢の脳循環は術前値に比べて増加する。新しい内膜剥離部位は血腫や血栓が形成されやすい部位である。
○ 血圧の術前コントロール
・一般人口における血圧コントロール目標は最近改訂された。しかしながらCEAを考慮しているPtでは血圧コントロールはいくつかの理由で困難であり、受け入れやすい血圧が達成されるまで手術を遅らせて得られる利点は、手術の遅れによるリスクがより重くなるかもしれない。加えて、頸動脈狭窄の存在による脳血流は側副循環に危険なまで依存している。そして脳循環の自動調節能は慢性高血圧症PtやTIA後や小さなstroke Ptでは特に障害されている。無症候性の頸動脈狭窄やTIA後、小さなstrokeのPtでの最適な血圧目標は確立されていない。これらの環境における最良の治療は、治療に対する反応が違っているので他の高血圧症Ptの治療とは異なっている。この様な環境における手術前の積極的降圧治療や麻酔中の低血圧は脳の低循環のために脳虚血strokeを起こしうるので避けられるべきである。
・分離された収縮期高血圧のあるCEA Ptの至適血圧の目標についての疑問は、それ故に不明瞭で臨床医を導くデータはない。臨床をガイドするデータの欠落にも拘らずSAP<180 or DAP<100mmHgはCEAに急性に直面しているPtの目標としては尤もなところである。α-及びβ blockerは理論的に利点があり、心臓死の高危険度のPtの心筋虚血の頻度を減らすことが示されている。逆にレニン-アンギオテンシン系をブロックする薬物は周術期の低血圧を伴うかもしれない。術前の絶食期と術後の胃内容が空になる期間は薬物の経口あるいは非経口投与ルートを使うかの決定に関連があるかもしれない。
・一般的法則として多くの麻酔科医と外科医は待期的CEAの前に収縮期血圧160mmHgかそれ以下を目標としている。手術の朝まで治療を続け、アンギオテンシン転換酵素阻害薬ACEとアンギオテンシンⅡレセプター拮抗薬ARBをできるだけ除いて、手術後できるだけ早く通常の治療を再開する。しかしながら治療は個々のPtに合わせて行われるべきであり、特に緊急手術の前に最近急性の神経学的症状を伴ったPtにおいて、急激な血圧の低下は避けられるべきであるということが強調されることは重要である。至適血圧を短時間で組み立てるのは困難であるばかりでなく、これらの環境の対立を生じるかもしれない。
○ 血圧の術中コントロール
・血管外科に対する伝統的な麻酔の教えでは収縮期血圧を術前のベースライン値から±20%に維持するよう示唆されている。しかしながら頸動脈の横断クランプ中の「分水界」strokeの恐れ、動脈圧を「正常値」に上昇させることにより神経学的欠落の進展が逆転したawake CEAを行ったPtからの臨床的エビデンスと共にCEAを受けているPtの限界をベースラインより、正常から20%上昇までの間に改訂された。これらの値はガイドラインとして検討されるべき(みなされるべき)で、awake CEAも含めて脳のモニタリング情報の観点から適応されるべきである。例えば確かなモニタリングが、比較的低血圧にも拘らず脳血流は十分にあると示したならば、我々自身の臨床ではGAまたはRAを行っているPtで血圧をさらにその上の前もって決めておいた目標までは増加させなかった。周術期の血圧を増加させることはリスクがないわけではなく、ある観察研究では心筋梗塞MIの頻度の増加を伴っていた。術中の高血圧はそれ自体が外科的シャント留置をより困難にし、心筋虚血を起こし易くする。また、脳内出血を伴ってくる。
・全てを考慮すると可能ならば低血圧を避けることは特に頸動脈の横断クランプ中はおそらく有益である。一方血流の回復後は高血圧を避ける方が望ましい。このことの重要性はまた、横断クランプの時間、シャントの使用を含めて、それ故に外科手技とも関係してくる。どの薬物が優れているかというエビデンスはなく、われわれの実臨床では経静脈輸液の投与、それと同時にエフェドリン、メタラミノール(ミルリノン)、フェニレフリンは、合併症や薬物投与歴、心拍数や直ちに投与するかタイトレートしながら投与するかに依存しており、脳血流量に対する特別な血管作動性薬物の明確な効果は予言するのは困難で、絶対的全身的動脈圧に依存する。頸動脈病変の進展具合、側副血行、シャントの効果、圧反射機能、上に議論したようにその他の効果により決まる。
○ 術後血圧コントロール
・術後高血圧はCEAにはよくある。通常は一過性であり、手術後最初の数時間にピークがあり、障害された圧受容器の機能に関連している。それは創血腫や心筋虚血にかかり易くし、いくつかの症例では脳過灌流の前兆になるかもしれない。重篤な術後高血圧の頻度は66%にのぼり,40%かそれ以上のPtは特別な治療的介入を必要とする。術中低血圧と術後高血圧はPtの創血腫を起こすリスクを高める。通常のCEA Ptの気道は全例で浮腫のために狭くなっている。それで創血腫は直接の圧迫と浮腫の組み合わせにより重篤な気道閉塞を生じるかもしれない。いくつかの症例では緊急の創の探索が必要であり、それは重大なリスクを伴っている。NASCETトライアルではこの病態生理学的機序は全ての非脳卒中の致死的外科合併症についての原因である。術後創血腫の頻度は3―8%である。これは正常の動脈圧で動脈を閉塞するとか、創のドレナージなど術中術後の動脈血圧の積極的コントロールで最小にできるかもしれない。
・術後の高血圧はCEA後の脳過灌流の進展の原因となる因子であるか、増加した脳圧に対する反応であるかはっきりしないままである。しかしながらCEA後高血圧であるPtの血圧を直ちにコントロールすると神経学的合併症や創の合併症あるいは両方ともに減らしてoutcomeを改善するという間接的エビデンスがあるのでほとんどの実地医師は術後高血圧の迅速な治療が必要であると考えている。決定的データがない中で目標血圧 収縮期<160mmHgあるいは術前値の20%以内が広く用いられている。しかし下方の閾値が脳過灌流や創血腫の高リスク群では適応かもしれない。
・CEAを受けるPtの高血圧を予防あるいは治療するその他の薬物の効力について比較するデータは少ない。UKでは血管麻酔医における実地臨床は治療と好ましい降圧薬の閾値については大きく変化している。重要な考え方には非経口的処方ができるかどうか、活動の始まりと機序の時間、同時に行われる治療や疾病などが含まれる。合併症のないCEAのほとんどのPtでは2時間以内に、GAであろうがRAであろうが経口の投薬がなされるべきであるが、経静脈的投与が通常術後早期には必要である。
・直接作動性の血管拡張薬(例えばsodium nitroprussideニトプロ、glyceryl trinitrateニトログリセリン、nicardipineニカルジピン、hydralazineヒドララジン=アプレゾリン)は広く使われてきているがこれは脳血管拡張を起こすので、CEA後には理論的には不利である。これは新しく脳血流量が増加しCEA後に自動調節能が障害されたPtでは有害であるかもしれない。またこのことは全身的な血圧に対する治療効果によってより重要かもしれないがそれぞれのPtで脳循環動態に対する異なる薬物の効果を正確に説明するのは困難である。
・nifedipineアダラートカプセルはまた脳動脈拡張と舌下に投与した時に血圧の急激な低下を来し、そのことは重大な有害事象を伴ってくる。それでニフェジピンの舌下は急性の高血圧の治療には適応されない。α-またはβ-アドレナリン拮抗薬は術後高血圧の予防あるいは治療に有用である。利用可能なiv製剤にはlabetalolラベタロールとesmololエスモロール、metoprololメトプロロール、atenololアテノロール=テノーミン、clonidineがある。labetalolラベタロールとesmololエスモロールは脳神経外科のPtで有効であるとみられて両者とも効果をタイトレートされるが、他の薬物も使用されるかもしれない。β-アドレノリセプターアゴニストは他の薬物でみられる反射性頻脈を妨げるのに有用である。α2アドレノリセプターアゴニストは、クロニジンのような、術前または術中に投与され、心筋虚血を減らし、血圧を下げ、血清カテコラミン濃度を下げる。CEAを受けているPtにおけるクロニジンの使用についてはデータがない。たとえどの薬物が使われるとも、その薬物による血圧の危険な低下は分水界の脳虚血を伴うことがあるので調節してタイトレートされなければならない。非経口投与の薬物が要求されるときには一拍ごとの動脈圧モニターが奨められ治療に対する反応はHDUやICUでも少なくとも血圧が安定するまで2―4時間は密にモニターされるべきである。管理への提案はTable3,4に記されている。
・術後後期の血圧管理はそれと違って経口投与が行われる。しかし神経学的症状所見の評価が特に重要で、重度の高血圧とCHSはCEA後数日続きうる。
・GAでCEAを受けたPtでの術後低血圧はawake CEAに比べて一般的ではない。それは脳の自動調節や圧受容器機能が良いのと関連しているかもしれない。低血圧は麻酔薬の残存効果か過度に熱心な高血圧の薬物治療によって生じるかもしれない。Ptが無症候で圧がそれ程急激に変化しないならば通常は良好に経過する。しかしながら他の可能性ある原因、たとえば低心拍出量状態(血管迷走神経発作、心不全、MI)または低循環血漿(外科的ドレンへの出血)は同定して対処すべきである。
・術後低血圧が治療を要するかどうか決定することは重要である。それが筆者らの受け入れられる、術後血圧の上限、下限を決定する実地診療である。これらはここのPtの基礎の上に術後スタッフへの指示書として決定される。術後低血圧の治療は適切な晶質または膠質液で十分な輸液を行うことも含まれるかもしれない。それから輸液への反応が不十分ならば昇圧薬(例えばフェニレフリン)の注射が行われる。心臓に原因の関与があるならばさらなる観察とモニタリングが必要になる。
○ 要約
・頸動脈手術を予定されたPtの周術期血圧の管理はいくつかの特殊な問題がある。過度に熱心な治療は有害かもしれず、治療目標はこの特殊な状態の中で改訂されるべきである。術後の血行動態の不安定性は非常に一般的であり、通常自己限定的であるが、急性の介入と観血的モニタリングが必要になるかもしれない。血圧の良好な管理は神経学的および心血管系のoutcomeに寄与することはほとんど同意されるが、しっかりとガイドラインやプロトコルの基礎になるデータは少ない。密なモニタリングと治療のタイトレーションがおそらく特別な薬物の選択より最も重要な考え方であろう。
○ Table3 動脈血圧管理の提言 
○ 術中の目標aims/goals
・Ptの”base line”基準の血圧を予測する―――チャートや術前訪問、Pt記録、鎮静薬/麻酔薬が投与される前のOPE室での血圧
・両腕で血圧測定する。両者で大きい差があるかもしれない。
・Ptの示している神経学的兆候を記しておく。筆者の一人(M.D.S)によればawake CEAを行うPtはもしも低灌流が進展すると横断クランプの間に同じ兆候を示しがちである。
・頸動脈の横断クランプ中に記載されたbase lineの血圧まで、または+20%上昇まで維持する目的で輸液、昇圧薬、降圧薬を必要なだけ使う。
・これらの血圧目標は脳のモニタリングあるいは神経学的兆候から利用できる情報によって解釈する。
○ 術後管理
・もしPtが術後に高血圧ならばPtをベッド上に座らせるとそれ自体で血圧を下げる。安静にさせる。
・全てのPtは術後2―4時間は観血的動脈圧をモニターせよ。筆者の一人(J.P.T.)のセンターではtrans-cranial Dopplerでリカバリールームにて30分間、全てのPtで脳のmicro-emboliを検索し、もしも>10のmicro-emboliがこの時間内に検出されるならもっと長い時間観察する。もしも10分以内にemboliが>25の場合、dextran40 (20mL bolus, 20mL/h) 持続静注する。
・収縮期血圧<170mmHgあるいは術前値の20%以内を目標とする。
・もしも術後に血管作動薬が必要だったら2時間以上の観血的モニタリングを続ける。
○ Table4 University Hospital of Leicester NIH TrastのCEA後の高血圧管理の実際
(1) 術後Care Unit:収縮期血圧>170mmHg
General Points:Ptの尿が貯まっていないか、痛みはないか、Ptは本日の降圧薬を服用したか
○第1段階:LABETALOL:トランデート=βblocker, α1blocker
ラベタロール100mgを0.9%NaCl 20mLに(すなわち5mg/mL)
 10mg(2mL) bolusゆっくり、2分毎に100mg(すなわち20分以上かけて20mL)
 ・もし20分後もBP高いなら第2段階へ
 ・もしBPが下がってリバウンドがみられないなら通常のBP観察を続ける
 ・もしBPが初め下がって再上昇するなら50―100mg/h持続注を開始してBPタイトレートする。
 ラベタロール注入中PtはPACU/HDUにとどめる。持続注中止後、Ptはリバウンド高血圧を最小化するためPACU/HDUにさらに2時間とどまる。
○第2段階:HYDRALAZINE:ヒドララジン=アプレゾリン、ヒパトール
 10mgヒドララジンを10mLのNaClで溶いて(すなわち1mg/mL)
 2mg(2mL) bolusゆっくり5分毎、10mgまで(すなわち10mLを25分以上かけて)
 ・もしBPが25分後にも上昇したままだったら第3段階の薬物へ
 ・もしBPが低下してリバウンドしなかったら通常通りのBP観察を
 ・もしBPが初めは下がったが再上昇したら第3段階へ
 ヒドララジン治療中のPtはPACU/HDUにとどめる。ヒドララジン治療中止後、高血圧のリバウンドを最小にするためにさらに2時間はPACU/HDUにとどまるべきである。
○第3段階:Glyceryl trinitrate (GTN)=ニトログリセリン
 GTN50mgを0.9%NaCl50mL中に(すなわち1mg/mL) 5mL/hで(5mg/h)スタート。12mL/h(12mg/h)まで増量してBPをタイトレート。
 GTN注入が進行中はPtはPACU/HDUに残留。GTN注入中止後、リバウンド高血圧を最小にするために2時間はPACU/HDUにとどめる。
(2) Ptが外科病棟にいる場合
収縮期BP>170mmHgしかし頭痛や神経兆候がない時
3つのシナリオがある。
1) Ptは正常に高血圧治療をしていない
2) Ptは高血圧治療を正常に行っている
3) Ptは錠剤を飲めない
(2-1) Ptは正常に高血圧治療をしていない
○第1段階:Nifedipine Retard=ニフェジピン=アダラート(10mg)、1時間後にBP変化なければ繰り返し。ニフェジピンカプセルの内容だけの投与は使用禁止
○第2段階:Bisoprolol 5mg=メインテート
 禁忌または無効の場合は第3段階へ
○第3段階:Ramipril 5mg
 必要なら3時間毎に繰り返し。日本未発売、ACE阻害薬、ARB
 臨床検討clinical reviewのために高血圧専門家に連絡
(2-2) Ptは高血圧治療を正常に行っている
○第1段階:Ptは高血圧治療を正常に受けているかチェックする。もししていなかったらこれを行う。
○第2段階:
A. ACE阻害薬、B.βblocker、C.Calcium channel blocker、D.Diuretic利尿薬
・PtがAを飲んでいるならCを加える(ニフェジピンLA 10mg)
・PtがCを飲んでいるならAを加える(ラミプリル 5mg)
・PtがDを飲んでいるならAを加える(ラミプリル 5mg)
・PtがA+Cを飲んでいるならDを加える(bendrofluazide 2.5mg=利尿剤)
・PtがA+Dを飲んでいるならCを加える(ニフェジピンLA 10mg)
・PtがA+C+Dを飲んでいるならBを加える(ビソプロロール5mg=メインテート)
(2-3)Ptが錠剤を飲めないならば
・経鼻胃管を挿入して上記薬物を投与
(3) Ptが外科病棟にいるなら
・収縮期BP>160mmHg+頭痛/痙攣あるいは神経欠落症状
・病棟で治療を直ちに始めて非侵襲的モニタリングを行う
・降圧プロトコルは回復室で行われてたのと同様
・Surgical SpR/SHOを呼び出さなくてはならない
・on call血管外科医に相談する。SACU,HDU,PACUで観血的BPモニターする。
・デキサメサゾン8mg(iv)
○第1段階 (2)と同じ
○第2段階 (2)と同じ
○第3段階 (2)と同じ、リバウンド高血圧の観察時間は6時間。
◇M.D.Stoneham, J.P.Thompson : Arterial pressure management and carotid endarterectomy Br J Anesth vol102; 2009, p442-452    <9/5/2015>

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100.01.05. 術後のオピオイドによる呼吸抑制

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100.01.05. 術後のオピオイドによる呼吸抑制
・μオピオイド受容体mu opioid receptor(MOR)作動薬:強力な鎮痛作用と安全性
・MOR作動薬の周術期副作用:徐脈、嘔気嘔吐、呼吸抑制⇒opioid-induced respiratory depression (OIRD)が特に問題となる。
1) 周術期におけるOIRDの発生頻度
・術後痛対策としてオピオイド筋注投与、iv-PCA投与、硬膜外投与した時の呼吸抑制(=呼吸回数の減少)⇒投与経路にかかわらず約1%。
・レミフェンタニルRFは全身麻酔で気道確保して使われるので自発呼吸抑制を心配する必要はあまりない。RFは非特異的エステラーゼで分解、半減期4~8分、超短時間作用性、投与中止後に血中濃度が50%低下するのに必要な時間(context-sensitive half time; CSHT) 3~5分ほぼ一定、投与時間に依存してCSHTは延長しない。
・しかし重篤な呼吸抑制、呼吸停止が生じた医療事故の報告が複数ある
⇒手術終了後、輸液交換、薬物投与により静脈ラインに残存していたRFが意図せず急速投与され、呼吸抑制・呼吸停止をきたす。 最も注意が必要な副作用。
2) 呼吸中枢とOIRDの特徴
・呼吸リズムとパターンを形成する呼吸中枢は脳幹に広く分布する各種呼吸ニューロン群
呼吸中枢にはMORが広く発現、PreBӧtzinger complexを中心にOIRDの機序解明が進められている。
◍低用量のMOR作動薬:吸気時間は保たれるが呼気時間が延長―呼吸数減少、呼吸パターン不規則―低酸素・高二酸化炭素―呼吸ドライブがかかり1回換気量は維持されるか増加する。
・MOR作動薬を緩徐に投与orモルヒネのようにBBB通過が緩徐な場合―呼吸数減少―二酸化炭素上昇―呼吸ドライブがかかり、1回換気量は維持される。
◍高用量のMOR作動薬:吸気時間も延長、呼吸回数はさらに減少―低酸素・高二酸化炭素に対する反応性低下―1回換気量は代償性に維持されず減少。
・急速に投与された場合、RFのようにBBB通過が早い場合―呼吸ドライブがかかり―無呼吸。
3) OIRDへの対応
(1) ASAの解析closed claims analysis 20年間、9799件の申し立てのうちOIRDと考えられるもの;92件―死亡55%、永続的重症脳障害22%
・Pt背景;66%肥満,25%閉塞性睡眠時無呼吸OSASかそのハイリスク,平均年齢30歳台
・術後鎮痛:53%iv-PCA、39%硬膜外・脊髄くも膜下ブロック、46%でオピオイド持続投与。明らかなオピオイド過量16%、鎮静薬投与34%。
・呼吸抑制の発現時間:24時間以内が約90%、
最後のNs訪室から呼吸抑制までの時間;2時間以内39件、そのうち12件は15分以内。パルスオキシメーター装着33%。58%は呼吸モニターなし。
・OIRD発生前訪室時Pt評価;最多は眠気62%、NsのPt評価不適切31%⇒呼吸モニタリングとPtの症状評価、特に眠気と鎮静レベルの評価が重要。
(2) OIRDの危険因子と予防
・高年齢になるほど、呼吸抑制効果に対する感受性は高い
・併用薬物:抗不安薬、抗ヒスタミン薬、吸入麻酔薬
・OSASでは化学受容器からの信号減弱、オピオイドによる呼吸抑制が増強しやすい
・モルヒネ;肝で活性代謝物(M-6-Gなど)が生成され腎排出―腎機能障害でモルヒネ効果増強
(3) OIRDの早期発見のモニター
・SPO2や呼吸回数の測定は不十分:オピオイド過量投与の重症呼吸抑制では初期に呼吸回数の変化なく呼吸パターンが不規則化―チェーンストーク様呼吸―呼吸停止
・術後O2投与下のSPO2では呼吸抑制を過小評価する→高濃度O2投与はオピオイドによる呼吸抑制を増強する可能性がある
(4) ナロキソンによるOIRDの拮抗
・ナロキソンは日本で使用できる唯一のオピオイド受容体拮抗薬:μ、κ、δ全てに親和性あり、特にμに親和性強い。
・呼吸抑制に対する拮抗作用は静注後5分以内に発現、5~15分後にピーク、30分程度で著明に減弱する。
・成人呼吸抑制に対し 0.04~0.08mgIV (0.2mg/1mL/Ap⇒0.2~0.4mL)
・ナロキソンに比べモルヒネの作用時間が長いためナロキソンIV後30分でモルヒネの呼吸抑制が再出現
・遷延性呼吸抑制に対して2~10μg/kg/h持続静注 (100~500μg/50kg/h=0.1~0.5mg/50kg/h)
・ナロキソンは呼吸抑制だけでなく鎮痛効果も拮抗する⇒術後痛増強
・副作用:痙攣、肺水腫、不整脈、異常高血圧、心停止
・重篤な副作用は強い術後痛やストレスに対しopioidを使用したところ過量投与となりナロキソンを投与した症例で発言している―大量カテコラミン放出
⇒症状観察しながら少量ずつ投与(0.04~0.08mg/回)すべき
4) OIRDに対する治療薬の研究の進展
(1)呼吸促進薬
1. 5HT4a作動薬 ヒトでmosaprideのOIRD拮抗作用は認められていない
2. Ampakines CX717 アルフェンタニルによる鎮痛効果に影響しない
3. Ca依存性Kチャンネル阻害薬 頸動脈小体は末梢化学受容器―ここでの酸素センサー
(2) 呼吸抑制のないオピオイド
1. 迅速な作用の発現・消失、2. 確実な効果、3. 調節性が良い、4. 副作用が少ない、5. 確実な拮抗薬が存在する  ⇒RFは理想に近いが強い呼吸抑制作用が残っている。
◇川股知之:術後のオピオイドによる呼吸抑制 臨床麻酔 Vol39,No7, 2015, p967-973
<8/7/2015>

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204.05.06. 小脳橋角部腫瘍 cerebello-pontine angle tumor

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204.05.06. 小脳橋角部腫瘍 cerebello-pontine angle tumor
○ 小脳橋角部で顔面神経Ⅶと内耳神経Ⅷが延髄を去る
CP angle腫瘍:聴神経腫瘍80%、髄膜腫10%、類上皮腫6%
・手術はlateral suboccipital approachを選択することが多い
・手術による腫瘍摘出は顔面神経の機能や有用な聴力を温存しながら最大限腫瘍を摘出(良性腫瘍だから)
・体位:lateral position, 15°頭高位
・吸入麻酔薬は用量依存性に、ある程度短潜時の誘発電位の潜時を延長させる
・術中に顔面神経の電気刺激による誘発筋電図のモニタリングを行う
・筋弛緩薬は麻酔導入・気管内挿管時以降は使用しないように
・術中の体温の変化も反応の潜時に影響を及ぼす
・術直後、下位脳神経の症状、呼吸パターン、延髄刺激による悪心や嘔吐に注意する
・顔面神経・聴神経の機能悪化した場合 遅延性(1wk後)障害もある
・下位脳神経障害(嚥下障害)が出現した場合
嚥下障害:軟口蓋麻痺(迷走神経)、咽頭筋麻痺(舌咽神経)、舌麻痺(舌下神経)⇒誤嚥性肺炎
◇ 渡辺勝克成ら:聴神経 脳神経外科周術期管理のすべて 第3版、松谷雅生 編集、メジカルビュー社2009、p154-166

○ 小脳橋角部腫瘍摘出術:年間100例以上の手術麻酔例の検討
・体位:パークベンチ体位+頭回旋位
・propofol+Remifentanil(RF) 持続投与で導入維持
・propofol;target blood concentration 1.0~6.0㎍/ml
・RF;0.1~2.0㎍/kg/min
・Rocronium 10~50mg IV後、気管挿管 AO control ventiration
・顔面神経モニター、聴覚誘発電位モニター、症例により下位脳神経モニター⇒rocuroniumの追加投与なし。
・症例によりフルルビプロフェン(ロピオン)IV適宜
・術後鎮痛:ロピオン50mgIV、ペンタジン15mg or 30mg、ジクロフェナク坐薬(ボルタレン)25mg or 50mg、激しい疼痛+の症例ではfentanyl持続注、経口投与可能ならばロキソプロフェン(ロキソニン)po
・RF投与量:最小値0.24㎍/kg/min、中央値0.63、平均値0.67、最大値1.23㎍/kg/min
*一般にRF投与量の臨床研究では低用量0.1㎍/kg/min前後、高用量0.4㎍/kg/min前後
・RF+propofolはストレス反応抑制効果が高い。その効果はRF投与速度に依存する
・麻酔中RF投与は術後疼痛を遷延させ、用量依存性に増悪させる(可能性がある)
・小脳橋角部腫瘍摘出術中のRF高用量投与(>0.66㎍/kg/min)は術後3日目まで疼痛を遷延させる可能性がある
・小脳橋角部腫瘍摘出術中の小脳牽引などに由来する悪心・嘔吐・めまいなど小脳症状が必発
・若年層では麻酔中RF高用量投与が術後の遷延する痛覚過敏状態を惹起しやすい可能性がある
・術中ロピオン投与の効果は認められなかった
・小脳橋角部腫瘍摘出術の麻酔時間は9時間(手術時間7時間)
・RF投与後の全身的な痛覚の尖鋭化を考慮し、術中体位に由来する痛み予防のためにも麻酔中の不必要な高用量投与は避けるべき
◇ 小澤美紀子ら:プロポフォール・レミフェンタニル麻酔による小脳橋角部腫瘍摘出術後の疼痛―麻酔中レミフェンタニル投与量に関する後ろ向き検討―  日臨麻会誌Vol30、No7.2010、1037-1042 <7/15/2015>

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110.02.02. 経口避妊薬を使用しているPt

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110.02.02. 経口避妊薬を使用しているPt
・30~35㎍のエストロゲンを含む処方を服用している健康な女性では深静脈血栓性静脈炎および血栓塞栓症の発症率は非服用者より3~4倍高いと推定されている
・血栓塞栓による疾患の危険が増大するため、OCは待期的大手術の1か月前に止めるべきであり、また手術の1か月後まで再開してはならない
◇メルクマニュアル 第17版 日本語版 p2002
・深部静脈血栓症および肺塞栓症の危険因子のなかに経口避妊薬/エストロゲン補充がある
最も一般的な危険因子:心不全、凝固能亢進障害、不穏状態、悪性腫瘍、妊娠および分娩後、過去3か月以内の手術
◇メルクマニュアル 第18版 日本語版 p434
・経口避妊薬は静脈血栓塞栓症のリスク因子のうち中等度リスクに入る。
    <7/13/2015>

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90.08. Parkinson病Ptの麻酔

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90.08. Parkinson病Ptの麻酔
○ Parkinson病Ptの周術期管理
・パ病は薬物療法が中心で、多種類の薬物を併用していることが多く、周術期の薬物相互作用が大きな問題となる。
◎ パ病の病態:中脳黒質緻密層のドパミン作動神経細胞が変性脱落し、尾状核及び被殻のドパミン量が減少し、相対的にアセチルコリン作用過剰状態になって症状が出現する。
○ パ病の古典的三徴:安静時振戦、筋強直、寡動。 前傾姿勢、小刻み歩行。日本100~150人/10万人。発症は50~65歳
◎ 術前の諸臓器の機能評価
・呼吸器系:換気障害、嚥下機能低下。パ病Ptの1/3は呼吸機能検査で閉塞性パターン。咽頭筋や食道機能障害のため喀痰排泄困難、誤嚥を起こし易く肺炎発症のリスクが高い。
胸郭や腹壁筋に筋強直⇒換気障害必発⇒人工呼吸器からの離脱困難
・循環器系:自律神経障害、パ病治療薬の副作用
起立性低血圧症;レポドパ(L-ドパ)による治療開始以前から起こる。長期ドパミン補充療法→腎血流量、糸球体濾過量増加→水,Na排泄増加→脱水,循環血漿量低下
・精神症状:幻覚、妄想、意識障害を伴うことがある⇒術前に薬物コントロールを。
・術前の薬物投与:ドパミンはBBBを通過できない→通過できるドパミン前駆体L-ドパが用いられる→副作用としてドパミン過剰;錯乱、精神症状、抑うつ、オン・オフ現象、ジスキネジア、悪心嘔吐、心筋感受性亢進、血管内容量減少、起立性低血圧、L-ドパ長期連用によりweaning off現象(作用持続時間短縮、次の内服前に薬効が切れる)、L-ドパの急激な減量・中止で悪性症候群。  L-ドパ [ネオドパストン、マドパー]
L-ドパ:半減期1~3時間と短い→手術直前まで継続、OPE終了後速やかに再開。OPE時間が長い場合は術中経静脈投与もあり。
○パ病で使用されるその他の薬物  
・ドパミン受容体刺激薬;ペルゴリド、ブロモクリプチン、プラミペキソール、ロピニロール [パーロデル、カバサール]
・抗コリン薬:トリヘキシフェニジル [アーテン、アキネトン、パーキン]
・抗ウイルス薬:アマンタジン [シンメトレル]
・ノルアドレナリン前駆体:ドロキシドパ
・モノアミノ酸化酵素(MAO)-B阻害薬:セレギリン [エフピー]
・末梢性カテーテルO-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬:エンタカポン
・抗痙攣薬:ゾニサミド [エクセグラン]
◎ 麻酔方法:
・パ病Ptでは呼吸機能↓、分泌物貯留、無気肺、誤嚥、呼吸器感染症を起こし易い⇒可能なら区域麻酔を選択○
○ 揮発性吸入麻酔薬:セボフルラン、デスフルランが術後呼吸機能への影響が少ないが、術中低血圧に注意。△
・チオペンタール:ドパミン放出を抑制するのでパ病を悪化させる可能性があるが臨床で直接症状悪化させた報告はない△
・プロポフォール:ジスキネジアを誘発するので定位脳手術には控えた方がよい。振戦抑制するので使用可○
・PONVを考慮してpropofol中心のTIVAが可○
・ケタミンは交感神経反応過剰となり、使用不可×
・オピオイド鎮痛薬は筋硬直を悪化させる可能性ある、筋弛緩薬使用で可○
・モルヒネは低用量でジスキネジアの発症を減少させるが、高用量では増加する報告あり
・レミフェンタニルは術中使用可○、導入時筋強直や覚醒時のシバリングに注意
○ 硬膜外麻酔の併用:可能なら全身麻酔+硬膜外麻酔。周術期抗凝固療法を行う場合は選択しづらい
・オピオイドは筋強直や呼吸抑制のリスクを上昇させるので硬膜外麻酔は局麻薬のみで。
○ 神経ブロック:TAPブロックar 腹直筋ブロック
・手術開始前に0.2%ロピバカインまたは0.25%レボブピバカインを総量40-60mL
・内臓痛は遮断されないのでオピオイド(レミフェンタニル)の併用が必要
○ 筋弛緩薬:ロクロニウム 気管挿管を最小必要量 0.6mg/kg
・筋弛緩モニター TOF Watch使用 TOF count<3
・スガマデクスで拮抗
・アトロピンはBBBを通過し中枢性抗コリン作用+。ネオスチグミンはムスカリン様作用のため閉塞性肺障害のあるパ病では気管支攣縮を起こす可能性あり ×
○ 低血圧対策:循環血液量減少による低血圧が起こりやすい
・絶飲食開始時から持続輸液して血管内容量を補正
・鎮静薬は緩徐に
・CRC輸血を用意
・昇圧薬:フェニレフリンorノルアドレナリン ○
ドパミン受容体の反応性が減少していることがありドパミンは使用しない
・エフェドリン:交感神経終末のノルアドレナリン貯蔵量を減少させるので不可×
・モニタリング:経鼻胃管挿入、ECG、A-line、SPO2、体温、呼気ガスモニター(EtCO2,吸入麻酔薬濃度)、尿量、TOF Watch、BISモニター
◎ 術後鎮痛:呼吸抑制、筋硬直を避けるためオピオイドの使用は避ける
・Epi:0.2%ロピバカイン(アナペイン)、0.25%レボブピバカイン 4-6mL/h。局麻のみで鎮痛不良ならフェンタニル100㎍/日Epi、Epiへのモルヒネ投与は避ける
・肋骨弓下TAPブロック、腹直筋鞘ブロック
・フルルビプロフェン(ロピオン)、ジクロフェナク坐薬(ボルタレンSP)、アセトアミノフェン、デクスメデトミジン
◎ PONV対策:ドロペリドール、メトクロプラミド、プロクロルペラジンは錐体外路症状悪化の可能性があり不可 ×
スコポラミン 中枢性抗コリン作用増強で不可 ×  
ジフェンヒドラミン(H1ブロッカー)はMAO阻害薬投与Ptでは不可×  
デキサメタゾン○保険適応外 ドンペリドン(ナウゼリン坐薬)○
◎ 術後は抗パ薬をなるべく早く再開する(経管投与でも可)
◇古泉真理 ら:Parkinson病患者の周術期管理 Lisa Vol19, No4, 2012, P410-415 <7/13/2015>


90.08.02. Parkinson病Ptの麻酔
○ Parkinson病薬の種類と副作用
・レボドパ[ドパストン]:ドパミンの前駆体=休薬による症状増悪と悪性症候群
・レボドパ+DCIの合剤[ネオドパストン、メネシット、マドパー]=同上
・ドパミンアゴニスト[カバラール、パーロデル、ビ・シフロール=同上
・MAOB阻害薬[エフピー]=術前2週間休薬.オピオイド代謝阻害.ペチジン(オピスタン、デメロール)併用禁忌。フェンタニル、レミフェンタニル、ドロペリドール、エフェドリン併用注意。
・COMT阻害薬[コムタン]=特になし
・アマンタジン[シンメトレル]=特になし
・抗コリン薬[パーキン、アキネトン、アーテン]=麻薬関連薬物として抗コリン薬(アトロピン、スコポラミン)で作用増強
・ノルアドレナリン前駆薬[ドプス]=ハロタンなどハロゲン含有吸入麻酔薬は禁忌
・ゾニサミド[トレリーフ、エクセグラン]=休薬による症状増悪と悪性症候群、MAOB阻害作用あり
○ 手術に伴う絶飲食への対応  パーキンソン病治療ガイドライン2011
1) 手術当日、朝1回1時間程度でレボドパ・DCI配合薬100mgに付きL-ドーパ50~100mgをdiv。2日目以降も同様な対応。症状に応じて増量してよい
2) 長期に経口摂取が不能であれば腸瘻を設置する
・ドパミンアゴニストはレボドパ換算量(プロモクリプチン10mg=レボドパ・DCI配合剤100mg)
・休薬期間短縮のため手術は朝1番にするのが良い
・手術当日朝のPD薬は内服継続し、術中追加投与はレボドパ静注薬[ドパストン]をIV or経鼻胃管
・ドパミンアゴニスト貼付薬[ニューロプロパッチ]、皮下注射用ドパミンアゴニスト[アポカイン皮下注]
○PD薬中断の問題点―――PD薬中断が長引いた時
・PD症状の増悪:1)麻酔覚醒時に筋強直:レボドパ静注薬の緩徐静注。振戦:抗コリン薬[アキネトン]緩徐静注
・悪性症候群の発症
○麻酔管理上使用すべきでない薬物
・全身麻酔の合併症を避けるため可能なら区域麻酔での手術が望ましい
・ 起立性低血圧、仰臥位高血圧のPtでは術中の体位による血圧変動に注意
PDと注意すべき麻酔関連薬物
◌吸入麻酔薬
・デスフルラン:記載なし
・セボフルラン、イソフルラン:レボドパ、ドパミンアゴニスト使用Ptで低血圧
・ハロタン:不整脈の可能性
・亜酸化窒素:筋固縮の可能性
◌静脈麻酔薬
・プロポフォール:一時的に振戦を改善、制吐作用あり。ジスキネジア増強。定位脳手術ではPD薬中止するため不可
・チオペンタール:おそらく安全
・ミダゾラム:使用可能、せん妄に注意
・ハロペリドール:錐体外路症状増悪に注意、禁忌
・ドロペリドール:錐体外路症状を増悪し得る、MAOB阻害薬使用Ptで特に注意必要
・ケタミン:筋固縮の可能性
・デクスメデトミジン:記載なし
◌オピオイド
・フェンタニル、レミフェンタニル:筋固縮を増強するので注意。術後鎮痛には好ましくないMAOB阻害薬服用Ptは肝でのオピオイド代謝が阻害されオピオイド過量状態となる。
・モルヒネ:筋固縮の可能性、少量でジスキネジア減少、増量で無動性増悪
・ペチジン(メペリジン):MAOB阻害薬の併用禁忌、興奮、筋固縮、異常発汗、高熱のため禁忌:モルヒネ、コデイン、オキシコドン、ブプレノルフィンはこの作用はない
◌筋弛緩薬
・スキサメトニウムSCC:高K血症の可能性
・非脱分極性筋弛緩薬:おそらく安全
◌拮抗薬
・スガマデクス:記載なし
・ネオスチグミン:脳血管関門BBBを通過しないため安全に使用できる
◌循環作動薬
・抗コリン薬[アトロピン、スコポラミン]:PD Ptでは嚥下障害、流涎があり、周術期の誤嚥のリスクが高い。抗コリン薬は唾液の粘稠性を増加させ挿管抜管時の誤嚥を助長する可能性あり。術後呼吸不全、抜管後喉頭痙攣。PD薬として抗コリン薬を使用している場合は特に注意が必要
・エフェドリン:MAOB阻害薬使用Ptでは交感神経刺激作用が増強される
・ドパミン:末梢に作用する薬なので使用に問題はないが、作用が減弱する可能性あり
・Caチャンネル阻害薬:頻度は少ないがparkinsonismusを悪化させる報告がある
◌制吐薬
・メトクロプラミド[プリンペラン]、プロクロルペラジン[ノバミン]は中枢性ドパミン拮抗作用のため避けるべき。
・ドンペリドンは末梢作用で使用可。   
◇村岡裕ら. 神経精神疾患と麻酔 Parkinson病 LiSA Vol22. No12, 2015,p2012-2016
○ [注釈] PD Ptに全身麻酔を行うとしたら(他の合併症は考慮せずに)
1)チオペンタールで導入、エスラックスで挿管し、Des+レミフェンタニルRFで維持。リバースはブリディオンを使う。ワゴスは使えるがアトロピンは使えないのでよろしくない。
2)propofolで導入、エスラックスで挿管、propofol+RFでTIVA.エスラックスを使えばジスキネジアもない。ブリディオンでリバース。
・術後鎮痛はアセトアミノフェン[アセリオ]+NSAIDs[ロピオン、ボルタレンsp]+blockまたは局麻
・術中の昇圧はフェニレフリンまたはノルアドレナリン   <2/8/2016>

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100.01.04. 術後鎮痛の実際

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100.01.04. [経験] 術後鎮痛の実際
○ 脳外科手術:脳外科医は術直後に意識レベルの確認、四肢麻痺の有無など神経学的検査を希望するが、その後の経静脈的持続注による鎮痛などは望まない。脳外科手術は痛くないと思っている。確かに手術当日を乗り越えれば疼痛はかなり減弱するようである。
・ほとんどの手術でAO+propo+ultiva(TIVA)を行っているので手術終了前にtransitional opioidが必要になる。
・手術終了前30分(硬膜縫合開始頃)fentanyl 100㎍(2mL) IV→0.5mL(25㎍)ずつ約7-8分間隔でIV。
・ロピオン50mg(ivまたはdiv)
 orアセリオ1000mg(div):300~1000mg/回、体重50kg未満は15mg/kg/回
・トラマール100mg(im)
・これで覚醒直後の呼吸抑制はなく、鎮痛はほぼ十分であるが、病室HCU帰室時には少しずつ疼痛が出現する。これに対しては主治医がボルタレンSP25mg挿肛で対処している。内服できるなら(翌朝)ロキソプロフェン60mg(po)
ロピオン、トラマールは術後、癌性疼痛の鎮痛が適応で、カットされるようなら病棟で処方箋を出してもらう。
トラマールは意外と有効で、膀胱バルンの違和感の訴えが減るようだ。しかし能書には禁注しかなく、今時筋注してもよいのかと思いつつimしている。
○ 整形外科、形成外科:下肢手術はほとんど腰椎麻酔で、麻酔科管理になっていない。抗血栓薬使用例や腰麻が困難な場合に麻酔科全麻依頼になっている。
・上肢手術や形成の顔面手術は麻酔科管理。麻酔導入後に主治医が、エコーガイド下に同側の腕神経叢ブロックを行っている。0.75%アナペイン20mL.
・手術終了前30分位にfentanyl 100㎍/2mL、0.5mLずつ7-8分間隔で分割iv
・ロピオン50mg(iv)
・トラマール100mg(im)
・腕神経叢ブロックのみでは全身の痛み(腰痛など)には対処できない。ターニケット ペインと思われる痛みの訴えもあったことがある
○ 腹部外科、泌尿器科:腹部外科はLap手術が多い。泌尿器科は主に前立腺癌に対する前立腺全摘術。TUR手術は自家麻酔。
・主にAOS(D)+ultivaで麻酔維持している。
・手術終了30分前にfentanyl 100~150㎍(0.5mLずつ分割投与)
・ロピオン50mg(ivかdiv)
・術後鎮痛にはfentanyl持続注 翌日までシリンジポンプで注入している。
 fentanyl投与体重DW=IBW+0.4×(TBW-IBW)(1)または
            52kg+(TBW-52kg)×0.65=TBW×0.65+18.2 (2)
 腹部手術後鎮痛のためのfentanyl投与量=1.1(±0.2)×DW㎍/hr
 fentanyl(250㎍/5mL)×4Ap+droleptan0.6mL+NS加えて40mL=25㎍/mL
安全域を考慮して0.5~0.75㎍/kg/hr
 例:151cm、60kg(TBW)⇒ IBW=1.51×1.51×22=50.2kg
DW(1)=50.2+0.4×(60-50.2)=54.1、投与量54.1×1.1=59.5 安全域は30.0~44.6
DW(2)=60×0.65+18.2=57.2、投与量:57.2×1.1=62.9 安全域は31.5~47.2
25㎍/mL液は1.20~1.78、1.26~1.89mL/h
実感としては上限量で投与している。呼吸抑制例はない。N&Vも少ない。
                     <6/29/2015>

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90.07.02. 気管支喘息Ptの麻酔経験

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90.07.02. 気管支喘息Ptの麻酔経験
○ [経験] 60歳代女性。胆嚢結石症、胆石発作で数回の救急受診歴あり。151.8cm,55.8kg。
既往歴:小児期より喘息発作あり。ステロイド吸入薬の処方は受けているが発作時のみ不定期に吸入している。現在も喘息症状あり、コントロール不良。喫煙はしないが、飲食店経営しており店での間接喫煙のため、朝は呼吸苦ないが、夜帰宅時にはやや呼吸困難になる。アトピー性皮膚炎あり。15歳時に急性虫垂炎で虫垂切除を受けた時に出血多量で輸血を受けた。そのためC型肝炎に罹患し、最近、インターフェロン治療で治癒した。HCV抗体12.1+。40歳代で子宮筋腫のため、腰椎麻酔下に手術を受けた。
術前経過:手術4週間前の肺機能検査:VC:2.06L, %VC: 87.3%, PEF: 47.7%, FEV1.0%;67.05%, FEV1.0; 1.6, %FEV1; 63%⇒PEF, %FEV1 共に80%未満。閉塞性換気障害。SPO2; 96-98%
手術4日前に呼吸器内科で診察を受けた。Wheezing+で、要注意指示あり。シンビコートタービュヘラー60 1日2回、1回2吸入に増量。ホクナリンテープ2mg 1枚貼付。
手術当日:朝 ソルメルコート125mg(div)、ベネトリン0.3mL/NS10mL吸入。
麻酔導入:O2;6L/min mask、アトロピン0.25mg(iv)。Fentanyl 2mL(0.5mLずつ4分割投与)、propofol 100mg(20mgずつ分割投与)、エフェドリン4mg(iv)、エスラックス 40mg (iv)、セボフルラン1.0% nask⇒この時点でカプノグラムは閉塞性の換気パターンを示していた。
挿管:ID 7.0, パーカー気管チューブ、smooth intubation、
AOS(Air2L, O2;2L, Sevo1.0%)+propofol 5mg/kg/h→4mg/kg/h
維持:AO+Sevoflurane 1.6→1.4%
+remifentanil 0.2→0.18→0.16㎍/kg/min
カプノグラムは術中ずっと正常パターンだった。I:E=1:2、従圧式換気。
麻酔時間2時間46分、手術時間1時間48分、気腹時間120分。
術後鎮痛:術中後半からfentanyl(25㎍/mL)を0.5mL/hで持続iv
覚醒:手術終了後15分で気管内吸引した後、深い麻酔状態ではないが完全覚醒前にブリディオン150mg(iv)、気管チューブを抜管。深呼吸可、RR<30回/分、1回換気量>300mL、SPO2:100%、Aldorete Score; 10点
術後鎮痛の為fentanyl(25㎍/mL)を0.8mL/h(=40㎍/h)持続iv。
HCU帰室後、軽度wheezing+だったが、ベネトリン吸入して消失した。
翌朝まで呼吸状態良好、fentanyl 40㎍/hで疼痛なし。SPO2;94%。
4PODに軽快退院。13PODに外来再診、その間、喘息発作はなかった。
○ [問題点] 外来受診時にwheezingが聴取されてもPtは何ともないと言っていたが、もう少し術前喘息コントロールすべきだったかもしれない。麻酔導入維持はSevofluraneでよかった。Fentanylが喘息に禁忌だとすればやはり術後鎮痛は硬膜外ブロックすべきだろうと思う。結果的には問題は起きなかったが。    <6/1/2015>

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90.07. 気管支喘息Ptの麻酔

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90.07. 気管支喘息Ptの麻酔
○ 気管支喘息Ptの周術期呼吸管理
・気管支喘息は気道の慢性炎症性障害
・繰り返し起こる咳、喘鳴、呼吸困難
・可逆性の気道狭窄と気道過敏性の亢進
・好酸球、リンパ球、マスト細胞などの浸潤。気管上皮の剥離を伴う慢性の気道炎症
・多くのPtで環境アレルゲンに対するIgE抗体が存在。IgE抗体を持たないPtでも気道炎症、リンパ球活性化。
・累積有病率:乳幼児5.1%、小児6.4%、成人3.0%(15~30歳で6.2%)
・麻酔下の手術症例が喘息に罹患している率は1.5~2.5%。
・全身麻酔中に喘息発作を起こす頻度は0.1~2%、喘息を有している場合は2~10%
○ 重症度分類
・現在行われている治療と、その結果の症状の有無が重要
・喘息症状の強度、頻度、日常の最大呼気流量値peak expiratory flow PEF、1秒量とその日内変動、日常の喘息症状をコントロールするのに要した薬物の種類と量
・軽症間欠型、軽症持続型、中等症持続型、重症持続型
・治療ステップ 1, 2, 3, 4
・現在の治療を考慮した喘息重症度の分類(成人)
○ 術前治療薬
・1)長期管理薬(コントローラ)と2)発作治療薬(レリーバ)
1) 喘息症状の軽減、消失とその維持および呼吸機能の正常化とその維持を図る薬物。抗炎症薬と長時間作動性気管支拡張薬⇒術前からの治療薬は手術当日も継続使用
2) 短時間作動性β2刺激薬、ステロイド薬、テオフィリン薬
○ 麻酔計画
・術前診察 1)喘息の詳細
2)アスピリン喘息の有無:成人喘息の約10%はNSAIDsの内服や注射、坐薬の使用直後から1時間程度までの間に発作を起こす。多くは30‐40代→発作の既往があればNSAIDsの使用はすべきではない。
3) 気道感染の有無:上気道炎(感冒様症状)が治癒した後も2wkは発作の危険性が高い。可能であれば手術の延期を考える
4) アレルギー性疾患の有無→できるだけ避けておく
5) 喫煙の有無:少なくとも術前4‐8wkの禁煙
6) 症状の有無:現在、喘鳴などの喘息症状があれば発作中なのか確認する。発作中であればできれば症状安定するまで手術延期する。
⇒理学的所見、呼吸機能検査所見、PEF値、血液ガス所見から重症度判定する。
・術前の薬物療法
・現在の治療で十分喘息のコントロールが得られている場合はその治療を維持。コントロール不十分な場合は治療を強化する→無治療状態のPtあるいは短時間作用性β刺激薬の頓用しか行われていないPtでは、たとえ症状が稀にしか見られていなくても手術までに時間的余裕があるなら吸入ステロイドを開始したほうがよい
・症状のコントロール不十分な場合や、1秒量orPEF値が予測値の80%未満の場合は経口ステロイド薬の短期集中内服(プレドニゾロン換算0.5mg/kg、3~7日間)を考慮
→時間がなければステロイド点滴静注(evidenceはほとんどない)
・術前6か月以内に気管支喘息の治療のために全身ステロイド薬を投与したPt(経口ステロイド薬常用者を含む)に対しては術前、術中にステロイド薬の点滴静注
 術前:ヒドロコルチゾン(ハイドロコートン)100~300mg、
メチルプレドニゾロン(デポメドロール)40~80mg
 術中:ヒドロコルチゾン100mg or メチルプレドニゾロン40mg 8時間毎
・高用量の吸入ステロイド薬常用Ptで周術期に吸入が行えない場合は全身性ステロイド薬に切り替え、吸入可能になったらできるだけ早期に減量中止する
・β2刺激薬:吸入使用困難→短時間作用性吸入β2刺激薬のネブライザ吸入:サルブタモール(ベネトリン)、スピロベント、セレベント、ホクナリン、メプチン、ベロテック
・テオフィリン徐放性製剤常用Pt→内服再開までアミノフィリン点滴静注。血中濃度測定し中毒域を確認
・麻酔計画
・局麻で可能な手術は局麻で。全麻でも気管挿管回避できるならマスクやLMAで。
・麻酔中の喘息発作による死亡、不可逆的脳損傷は局麻でも起こりうる
・LMAやマスクでは誤嚥の危険性あり→喘息発作誘発→誤嚥性肺炎⇒必要な場合はためらわずに気管挿管。痛み、不安で発作誘発もある。
・spinal anesthやepidural anesthの場合、麻酔範囲がTh5以上になると胸部交感神経が遮断され、発作誘発の危険性あり
・術後鎮痛
・硬膜外麻酔は術後も鎮痛に使う
・麻薬や麻薬拮抗性鎮痛薬で除痛
・NSAIDsやヒスタミン遊離作用のあるモルヒネは避けたほうがよい
○ 麻酔導入および維持の注意点
・ヒスタミン遊離作用の少ない薬物を使用。気管挿管する場合は麻酔深度を十分深くして。
・揮発性吸入麻酔薬
・一般に揮発性麻酔薬は気管支平滑筋弛緩作用がある
・イソフルラン、デスフルランには気道刺激性があり咳込み易い
・気道刺激性が少なく導入覚醒も速やかなセボフルランが最適
・静脈麻酔薬
・プロポフォールとケタミンは気管支拡張作用がある
・チアミラールはpropofolより気管支攣縮を誘発しやすい。Propofolも気管支痙攣報告あり
・ミダゾラムは問題なく使用できる
・筋弛緩薬
・スキサメトニウムSCCはヒスタミン遊離作用があり不可
・パンクロニウム(ミオブロック=製造中止)、ベクロニウム(マスキュラックス)、ロクロニウム(エスラックス)は喘息Ptに安心して使用できる
・拮抗薬として抗コリンエステラーゼ薬(ネオスチグミン)は気管支収縮作用あり使用できない。スガマデックス(ブリディオン)は使用できる⇒ロクロニウムが安全
・鎮痛薬
・オピオイドの一部はヒスタミンを遊離させるのでその作用が少ないものを使用
・fentanylは副交感神経刺激作用があり、喘息には禁忌。Remifentanilは喘息には慎重投与⇒モルヒネよりヒスタミン遊離作用は少なく安全に使える
・pentazocine、エプタゾシン、ブプレノルフィン(レペタン)、ブトルファノール(スタドール=製造中止)は記載なし
・NSAIDsは気管支攣縮を誘発しやすいがアセトアミノフェンは比較的安全
○ 全身麻酔中の喘息発作の症状
1) Ptに意識がないため、自覚症状の聴取ができない
2) 聴診上、両肺野にて喘鳴が認められることが多い
→従量式換気中は気道内圧が上昇。従圧式換気中は1回換気量が減少する
・カプノグラムでは呼気相の立ち上がりが緩徐になる
・フロータイムカーブでは呼気時間の延長が認められる
→気管チューブや蛇管などの機械的狭窄、痰などによる狭窄、片肺挿管、自発呼吸出現などチェック。
・呼気時間が十分確保できていない場合→吸気終末の気道内圧に増減
 吸気の1回換気量が一定→呼気換気量に変動。少ない呼気数回→多い呼気1回
・フローボリュームカーブでは吸気と呼気の1回換気量が異なる
○ 麻酔中に発生した気管支喘息の治療
(1) β2刺激薬
・まずβ2刺激薬を吸入させる。IVより作用発言時間が短く、副作用も少なく、より有効。
・ネブライザーよりスペーサーの方が短時間で効果が得られる
・一度に高用量より少量を一定時間毎に反復投与したほうが治療効果が優れている
 →加圧噴霧式定量吸入器で1~2パフ、20分おき(2回繰り返し可能)
(2) ステロイド
・最も軽症のPt以外ではステロイド全身投与を考慮すべき
・ヒドロコルチゾン200~500mg、メチルプレドニゾロン40~125mg、デキサメタゾンorベータメタゾン4~8mg(div)
・以後、ヒドロコルチゾン100~200mg、メチルプレドニゾロン40~80mg、4~6時間毎
デキサメサゾンorベータメタゾン4~8mg必要に応じて6時間毎div
・アスピリン喘息の場合はコハク酸エステル型ステロイド(サクシゾン、ソルメドロール)の使用を回避する。デキサメタゾンorベータメタゾン
・アスピリン喘息の有無が不明の場合、初回投与では約1時間を目安に点滴
・1日量800mgヒドロコルチゾン、160mgメチルプレドニゾロンが上限
(3) 抗コリン薬
・β刺激薬に加えて使用。イプラトロピウム80㎍(4パフ)を10分おきにスペーサーで投与。50㎍を20分おきネブライザーで投与
(4) アミノフィリン、テオフィリン
・アミノフィリン6mg/kgを等張補液剤200~250mLに溶いて、1/2量を15分、残りを45分で投与。中毒症状(全麻中は頻脈や期外収縮で判断)が現れたら中止
・テオフィリン1日量600mg以上投与例、血中濃度8㎍/mL以上の場合、アミノフィリンは半分以下にする
・β刺激薬に静注アミノフィリンを使用しても有益性はないとの報告あり
(5) アドレナリン
・薬物性や他のアレルゲンによる喘息発作が予測される場合
気道の浮腫が著しい場合
β2刺激薬の吸入でも十分な効果がない緊急時
⇒不整脈、高血圧、心筋虚血、心停止に注意しながら使用する
・アドレナリン0.1%溶液0.1~0.3mL皮下注。心拍数130bpmを越えないようにモニタリングしながら20~30分毎に反復投与or 0.0001%溶液として1mLずつIVする。(β2刺激薬を心臓に関する副作用を考慮して使えないときのみ)
(6) その他
マグネシウム、ロイコトリエン拮抗薬、リドカイン、ニコランジルが喘息発作に有効という報告あり
○ 喘息Ptの人工呼吸管理
・肺の過膨張の予防が重要⇒1)呼気時間の確保、2)気管支の閉塞の解除
・呼気時間の確保:1回換気量5~8mL/kg、I:E比=1:3以上として両相の換気量を一定に
気道内圧は最大50cmH2O未満。平均気道内圧20~25cmH2O未満。PEEPは避ける。
従圧式換気の方が過剰圧を予防しながらより肺を均一に膨らませる
気道内圧や呼気時間の制限のために分時換気量が少なくなり、PaCO2の上昇がみられる場合がある
PaCO2の維持と圧外傷の予防を重視する PaCO2<90mmHg、pH>7.20であればOK.
・PEEPはかけない方がよいという報告が多い。5cmH2O程度のPEEPを付加している報告もある。
○ 術後の注意点
・術中に喘息発作が発生した場合は喘息発作の症状が改善するまで覚醒や抜管をせずに治療を行う
・術中に発作がみられなくても、麻酔終了後、気管チューブ抜管時に発作が発生することが多い
・深麻酔下で抜管した時よりも覚醒後抜管のほうが気道合併症の発生頻度が高い
・手術終了時にLMAを挿入してから気管チューブを抜管しその後麻酔覚醒させる方法を推奨する報告もあるが完全覚醒前の抜管には誤嚥のリスクも指摘されている
・喘息を有する105例の報告で麻酔中に発作を起こしたものは全麻酔例の7%で、術後1wk以内では20%の症例が発作を起こしたという報告があるので注意
◇ 相澤純:気管支喘息Ptの周術期管理~術前評価から術後管理まで Anesthesia 21 Century Vol14, No2-43, 2012, p28-36 <5/27/2015>

90.07.02. 気管支喘息Ptの麻酔経験
○ [経験] 60歳代女性。胆嚢結石症、胆石発作で数回の救急受診歴あり。151.8cm,55.8kg。
既往歴:小児期より喘息発作あり。ステロイド吸入薬の処方は受けているが発作時のみ不定期に吸入している。現在も喘息症状あり、コントロール不良。喫煙はしないが、飲食店経営しており店での間接喫煙のため、朝は呼吸苦ないが、夜帰宅時にはやや呼吸困難になる。アトピー性皮膚炎あり。15歳時に急性虫垂炎で虫垂切除を受けた時に出血多量で輸血を受けた。そのためC型肝炎に罹患し、最近、インターフェロン治療で治癒した。HCV抗体12.1+。40歳代で子宮筋腫のため、腰椎麻酔下に手術を受けた。
術前経過:手術4週間前の肺機能検査:VC:2.06L, %VC: 87.3%, PEF: 47.7%, FEV1.0%;67.05%, FEV1.0; 1.6, %FEV1; 63%⇒PEF, %FEV1 共に80%未満。閉塞性換気障害。SPO2; 96-98%
手術4日前に呼吸器内科で診察を受けた。Wheezing+で、要注意指示あり。シンビコートタービュヘラー60 1日2回、1回2吸入に増量。ホクナリンテープ2mg 1枚貼付。
手術当日:朝 ソルメルコート125mg(div)、ベネトリン0.3mL/NS10mL吸入。
麻酔導入:O2;6L/min mask、アトロピン0.25mg(iv)。Fentanyl 2mL(0.5mLずつ4分割投与)、propofol 100mg(20mgずつ分割投与)、エフェドリン4mg(iv)、エスラックス 40mg (iv)、セボフルラン1.0% nask⇒この時点でカプノグラムは閉塞性の換気パターンを示していた。
挿管:ID 7.0, パーカー気管チューブ、smooth intubation、
AOS(Air2L, O2;2L, Sevo1.0%)+propofol 5mg/kg/h→4mg/kg/h
維持:AO+Sevoflurane 1.6→1.4%
+remifentanil 0.2→0.18→0.16㎍/kg/min
カプノグラムは術中ずっと正常パターンだった。I:E=1:2、従圧式換気。
麻酔時間2時間46分、手術時間1時間48分、気腹時間120分。
術後鎮痛:術中後半からfentanyl(25㎍/mL)を0.5mL/hで持続iv
覚醒:手術終了後15分で気管内吸引した後、深い麻酔状態ではないが完全覚醒前にブリディオン150mg(iv)、気管チューブを抜管。深呼吸可、RR<30回/分、1回換気量>300mL、SPO2:100%、Aldorete Score; 10点
術後鎮痛の為fentanyl(25㎍/mL)を0.8mL/h(=40㎍/h)持続iv。
HCU帰室後、軽度wheezing+だったが、ベネトリン吸入して消失した。
翌朝まで呼吸状態良好、fentanyl 40㎍/hで疼痛なし。SPO2;94%。
4PODに軽快退院。13PODに外来再診、その間、喘息発作はなかった。
○ [問題点] 外来受診時にwheezingが聴取されてもPtは何ともないと言っていたが、もう少し術前喘息コントロールすべきだったかもしれない。麻酔導入維持はSevofluraneでよかった。Fentanylが喘息に禁忌だとすればやはり術後鎮痛は硬膜外ブロックすべきだろうと思う。結果的には問題は起きなかったが。    <6/1/2015>

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100.07. 人工呼吸中の鎮痛・鎮静・せん妄対策

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100.07. 人工呼吸中の鎮痛・鎮静・せん妄対策
・「人工呼吸中の鎮静は必要に応じて最小限に、必要がなければ鎮静なしでもよい」という考えが主流となっている。
○ 鎮静の前に鎮痛を
・鎮静なしで管理するにはまず「適切な疼痛対策」
・Ptの苦痛・疼痛の有無とその原因を探り非薬物的介入が可能かどうか検討し、可能であれば試みる。創部痛などは非薬物的介入では改善が得られないことが多く、しばしば鎮痛薬の投与が必要になる。
○ 鎮痛薬の第1選択は麻薬性オピオイド
・モルヒネ、フェンタニル。レミフェンタニルは全身麻酔時以外では許可されていない。
・麻薬性オピオイドの副作用である呼吸抑制は人工呼吸時にはウィーニング時を除いて問題にはならない。一般に沈溺性を懸念する必要はない。
・術後Ptでは患者自己調節鎮痛法patient controlled analgesia (PCA)が使いやすい。硬膜外鎮痛法(PCEA)と静脈内鎮痛法(iv-PCA)
・内科系Ptでは麻薬性オピオイドの少量持続静注が用いられる。
・麻薬、向精神薬取締法に基づく使用手続きの煩雑さから麻薬拮抗性鎮痛薬が使われることが多いが、ブプレノルフィン(レペタン)、ブトルファノール(スタドール)、ペンタゾシン(ソセゴン)これらの鎮痛の質は良好とは言い難く、レペタン、ソセゴンでは悪心・嘔吐・幻覚・せん妄などの欠点が大きい。肺動脈圧↑、心筋酸素消費量↑など重症Ptでは注意が必要。
○ 疼痛の程度を正しく評価
・Numeric Rating Scale (NRS) 0~10の11段階評価が使いやすい。
・Behavioral Pain Scale (BPS), Critical-Care Pain Observation Tool (CPOT)人工呼吸中のPtの疼痛評価。
・疼痛対策介入の目安:NRS<3、BPS<5、CPOT<2
○ 疼痛の次に鎮静
・不十分な鎮静under-sedationがPtにとって利益がないのは明らか
・深すぎる鎮静over-sedationもVAP(ventirator associated pneumonis)の発生率を増加させる。
・BISモニターの人工呼吸中の使用には有用性が証明されていない。
・適切な疼痛対策を基盤とし、その上でPtが不安感や不快感、苦痛や疼痛などを感じることなく、いかに浅い鎮静状態を安全で快適に維持できるか。この観点からRamsey sedation scale(RSS)は力不足。
・Richmond Agitation-Sedation Scale (RASS), Sedation-Agitation Scale(SAS) が推奨。
○ 鎮静薬の使い分け
1)プロポフォール:GABA受容体に作用。血液脳関門BBBを容易に通過。速やかに効果発現。成人0.3~3.0mg/kg/時
・顕著な循環抑制と呼吸抑制
・小児への投与は禁忌⇒プロポフォール注入症候群PRISの発生の危険性
・急性心不全を伴う心筋症、横紋筋融解症、代謝性アシドーシス、高カリウム血症、高トリグリセリド血症。成人の発症も報告されている
・PRISは敗血症や中枢神経障害などの重傷病態が基礎にありプロポフォールの長期大量投与に加え、カテコラミンやステロイドを併用されている症例に発症することが多い。遊離脂肪酸代謝不全。
・重症Ptに5mg/kg/時以上の投与速度で48時間以上の投与は避ける。
・代謝性アシドーシスや筋融解の所見を認めた場合は直ちに薬剤投与を中止する。
2)デクスメデトミジン(プレセデックス、DEX):強力かつ高い選択制を有する中枢性のα2アドレナリン受容体作動薬。BBBを容易に通過
・橋背外側の青斑核に存在するα2受容体刺激により発現
・急速投与では末梢性α2B受容体刺激による血管収縮作用により一過性血圧上昇。重症Ptでは初期負荷投与は行わない方がよい。
・維持投与量では交感神経系の抑制が前面に出て除脈、低血圧を示すがプロポフォールより軽度。
・臨床使用量での鎮痛作用は軽度で補助的役割。
・DEXは鎮静下においても刺激によりPtは容易に覚醒し、見当識を保持することが可能。呼吸抑制は軽度である。
・非侵襲的陽圧換気法(non-invasive positive pressure ventiration: NPPV)時の使用可。
・維持投与量 0.2~0.7㎍/kg/時
・深い鎮静が困難で、強い呼吸困難感を訴える重症呼吸不全Ptや。急速に鎮静を必要とする興奮状態のPtなどには効果が得られないことが多い。
3)ミダゾラム:高い脂溶性、BBBを容易に通過。GABA受容体に作用するagonist。
・体内分布容積が極めて大きく持続投与により排泄半減期が延長。48~72時間以上持続投与で覚醒遅延する。
・肝障害や腎障害時にも作用の延長をきたす。
・維持投与量 0.03~0.18mg/kg/h、bolus0.03~0.06mg/kg。
・強い呼吸抑制作用、1回換気量と呼吸数が減少し分時換気量が大きく低下する→重症呼吸不全Ptの人工呼吸管理には利点。
・交感神経抑制作用、心収縮抑制作用、血管拡張作用→低血圧。プロポフォール、DEXより作用は弱く、循環動態の不安定なPtの鎮静には良い適応となる。
・プロポフォール,DEXと比較して長期投与後の覚醒遅延、せん妄、退薬症状、薬剤耐性を生じやすい。認知機能障害→せん妄⇒可能な限り連日の中断 daily interruption of sedation:DISを試みて再評価。
・ベンゾジアゼピン系薬剤は長期精神障害発現の危険因子の可能性あり。
○ 人工呼吸中のせん妄対策:人工呼吸を必要とするような重症Ptにしばしば発生する異常興奮などの精神障害はその多くが精神医学的には「せん妄」。予後に大きく影響し、6か月後の生存率を低下させる独立危険因子。
・せん妄を多臓器障害の一分症としての中枢神経機能障害としてとらえる。
・(1)過活動型hyperactiveせん妄、(2)低活動型hypoactiveせん妄、(3)混合型mixedせん妄がある。
○せん妄の治療薬:
・低酸素血症や呼吸性および代謝性アシドーシス、低血糖などの代謝障害、ショックなどの病態の一部のこともあり、これらを改善すればせん妄の治療は不要なことも多い。
・セレネース、DEX、クレチアピン(非定型抗精神病薬)などが有用である可能性はあるがevidenceはない。人工呼吸Ptの急性期に使用できるせん妄治療薬は今のところない。
・over-sedationを防ぎ、Pt予後を悪化させない鎮静を行う上で有効なのは鎮静プロトコルの導入と毎日1回、持続鎮静を中止してPtを覚醒してみる管理法(DISまたはspontaneous awakening trial: SAT)
・人工呼吸器からの離脱のために自発呼吸試験spontaneous breathing trial; SBT
・ABCDEバンドル:
A) 毎日の鎮静覚醒トライアル(DIS/SAT)
B) 毎日の人工呼吸器離脱トライアル(SBT)
C) AとBの組み合わせ:鎮静鎮痛薬の選択
D) 毎日のせん妄モニタリングと管理
E) 早期離床と運動療法              
◇ 布宮 伸:人工呼吸管理 人工呼吸中の鎮痛・鎮静・せん妄対策 日臨麻会誌, vol35, No1, 2015. P98-105   <5/13/2015>
○ [経験] 従来からの人工呼吸時の鎮静:midazolam(10mg/2mL/Ap)×2Ap + セレネース(5mg/1mL/Ap)×2Ap + fentanyl(100㎍/2mL/Ap)×2Ap/NS250mLを10~50ml/hでdiv。これはやや少なめの投与量だがICUのない病院、病棟でのマニュアル。なお人工呼吸器を使わないときはfentanylを除く。      <5/16/2015>

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90.06.02. ERCP検査時の鎮静におけるデクスメデトミジンの効果

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90.06.02. ERCP検査時の鎮静におけるデクスメデトミジンの効果
○ ミダゾラムおよびペンタゾシンを用いたERCPの鎮静におけるデクスメデトミジン(DEX)の併用効果
○ ERCP時の鎮静のために従来法群112例、DEX群86例
・従来法群:検査開始時にミダゾラム2.5mg+ペンタゾシン5mg 単回静注
 *Ramsey Sedation Scale 4(傾眠 眉間への軽い叩打または軽い聴覚刺激にすぐ反応)を保つように、鎮静が浅くなったらミダゾラム2mg(iv)、疼痛による体動時ペンダゾシン5mg(iv)。ミダゾラム投与量が20mgを越えたらプロポフォール1mL(10mg) 単回静注。
・DEX群:プレセデックス(DEX)初期投与量3㎍/kg/h10分間loading後0.4㎍/kg/h
 *
・収縮期血圧<60mmHg→カテコラミン投与、心拍数<40bpm→アトロピン投与
○ 結果:
DEX群従来法群
SPO2低下症例3例(3.5%) >13例(11.6%)
除脈アトロピン使用例2例(2.3%)0例(0%)
BP↓カテコラミン使用例なしなし
ミダゾラム投与量(中央値)5.2mg(4.0‐9.3)<12.5mg(10.0‐18.1)
ペンタゾシン投与量(中央値)7.5mg(3.8‐10.3)<11.4mg(7.5‐15.0)
鎮静困難propofol使用なし<22例(19.6%)
検査中最低収縮期血圧93.2mmHg<116.5mmHg
検査中最低心拍数58.6bpm75.8bpm
検査中最高収縮期血圧127.2mmHg,70.5bpm146.7mmHg、91.1bpm
○ 考察:ミダゾラムおよびペンタゾシンを用いたERCP時の鎮静においてDEXの併用が
1) ミダゾラムの使用量やプロポフォールの使用量を有意に減少させ、呼吸抑制の偶発症頻度を低下させた
2) 検査中の最小血圧や心拍数は低下傾向にあるものの全例安全に施行された
3) 検査中の最大血圧および心拍数上昇は抑制された
・DEXの単独使用(ERCP)では十分な効果を認めなかった
・ミダゾラムと塩酸ペチジンの併用で有効
・DEXはベンゾジアゼピン系より鎮静効果がやや弱い。ERCPでは従来薬との併用が望ましい。
・プロポフォールは呼吸抑制が強く、上部消化管内視鏡で26%、ERCPで86%がdeep sedationになる。
・DEXの初期投与量6㎍/kg/h×10分より減らして3㎍/kg/hとした。
◇ 稲富理ら:ミダゾラムおよびペンタゾシンを用いたERCPの鎮静におけるデクスメデトミジン(DEX)の併用効果 Gastroenterol Endosc 57, 2015, 119-127 <5/11/2015>span>
○ [注釈] DEXは適応範囲がそれほど広くはない薬剤ではなかろうか。特に鎮痛効果は臨床的には期待できないと思われる。90.06. 同様にこのような鎮静の依頼は麻酔科には来ないと思われる。内視鏡医がこのような意識下鎮静法を行っているということ。   <5/16/2015>

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90.06. propofolによる意識下鎮静法(外来大腸内視鏡検査における)

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90.06. propofolによる意識下鎮静法(外来大腸内視鏡検査における)
○ propofolを用いた外来大腸内視鏡検査
・外来大腸内視鏡検査、80歳未満、ASA<2、661名。鎮静希望Pt中、propofol単独群241例、ミダゾラム+ペンタゾシン群236例、非鎮静群184例。呼吸循環器への影響、回復時間、Pt満足度、帰宅後の問題点について検討した。
・結果:propofol単独群で有意にBP↓、midazolam+pentazocine群で有意に心拍数↓、SPO2↓、ともに重大な合併症はなかった。propofol単独群で回復時間が短く、高いPt満足度が得られ帰宅後の問題点も少なかった。
○ 意識下鎮静法(conscious sedation)。検査中はvital signを2分間隔で測定。「呼びかけると応答するレベル」に維持。
・propofol群:0.8~1.0mg/kgで導入、10~20mg/回を間歇投与
 propofol導入量;平均0.93mg/kg、総投与量1.42mg/kg、68%が追加投与を要した。
・midazolam+pentazocine群:midazolam2~3mg+pentazocine10~15mgで導入、midazolam1~2mg/回を間歇投与。
 導入量:平均midazolam3.05mg、pentazocine平均14.96mg、総投与量midazolam 3.86mg、pentazocine15.03mg。33%が追加投与を要した。
・鎮静剤投与は大腸内視鏡の挿入操作時のみ。BP30mmHg以上の変動、脈拍30bpm以上の変動SPO2<93%を有意の変動とした。
○・propofol群:42%でBP↓、術後16%で要介助、回復時間17分、64%のPtが検査の記憶あり、満足度80%。平均内視鏡検査時間22分(8-75)
・midazolam+pentazocine群:5%のPtで脈拍↓、39%で酸素投与、術後要介助80%、回復時間126分、32%のPTが検査の記憶あり、満足度93%。平均検査時間21分(16-70)
・非鎮静群:BP↑11%、脈拍↑5%。平均検査時間22分(9-106)
◇ 梅原康湖ら:プロポフォールを用いた外来大腸内視鏡検査の安全性・有用性と患者満足度の検討 Gastroentero Endosc 2015; 57; 207-215 <4/24/2015>
○ [注釈] このような検査のための鎮静が麻酔科依頼されることはないが、腰麻のPtの鎮静に応用されることはある。Propofolはやはり挿管を前提として使用されるものだろう。  <5/16/2015>

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213.03. 急性虚血性脳卒中に対する血管内治療の麻酔

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213.03. 急性虚血性脳卒中に対する血管内治療の麻酔
○ periprocedual anesthesia
213.03. 急性虚血性脳卒中に対する血管内治療の麻酔
○ [経験] M病院で経験したNeurointervention Radiology(NIVR)症例は2011年から2014年までの4年間では計63例。全麻のNIVRは52例、局麻(いわゆるConscious Sedation:
CS)11例であった。全麻症例では未破裂脳動脈瘤29例、破裂脳動脈瘤によるSAH17例、AVF4例、AVM脳出血1例、CAS1例であった。局麻CS症例はAVF5例、未破裂脳動脈瘤1例、CAS4例、tPA後狭窄部拡張術1例であった。
○ [注釈] 頸部内頚動脈狭窄についてはCEA firstで行っていたので、CASは少なかった。全麻のCAS1例はCEAと同じように血圧低下をしないように管理した。麻酔科管理外でも行っているが不明。tPA術後狭窄部拡張1例以外にはいわゆるischemic strokeはない。 <5/16/2015>
○ 急性虚血性脳卒中(acute ischemic stroke: AIS)のPtの初期治療は、しばしば血管内治療を含む迅速な再疎通が焦点となる。血管内治療は脳血管内にカテーテルやデバイスを微細に誘導するので体動のないPtでより安全で容易になる。あいにく多くの脳卒中Ptは会話することができず十分に手術操作に協力することができない。このように気管挿管を行った全身麻酔(general anesthesia: GA)は他の方法では長時間の不快な手術操作の間、Ptを快適で体動のない状態にしておくことができるので魅力的である。しかしながら最近のいくつかの後ろ向きretrospectiveな研究ではAISの血管内治療に対する意識下鎮静法(conscious sedation: CS)と比べて悪い結果outcomeを示している。前向きprospective研究は足りていないが。なぜGAが悪い結果outcomeをもたらすのか解っていないが循環動態の不安定性と低血圧、治療の遅れ、神経筋遮断薬を使っても使わなくても長くなる気管挿管あるいは麻酔薬そのものによる神経毒性などが含まれるかもしれない。一般にGAとCSのどちらを選ぶかは神経学的欠落、気道、循環動態、治療計画によりPtに合わせてなされるべきである。施設の治療プロトコルは血管内治療を受けるAIS Ptの最も効率的で有効な治療法となるかもしれない。このようなプロトコルの重要な要素は麻酔方法の選択、導入のタイミング、血圧の目標、神経筋遮断薬の最少化、手術操作終了時の計画的抜管であろう。
○ AISに対する早期治療の目標は脳の虚血領域への潅流を元に戻すことである。静脈内フィブリン溶解法(経静脈的血栓溶解療法)の導入は緊急Pt治療で大きな一歩であった。しかし現在の専門教育プログラム、強化された一般の認識、統合された脳卒中治療法にも関わらず脳卒中Ptのわずか3~8.5%のPtがIV tPAで治療されたに過ぎない。さらにtPAで治療された大血管閉塞のPtの半分以下で血栓症からの再疎通を経験するのみである。このようにさらなる再灌流戦略の必要性がある。血管内治療は閉塞性病変へのより直接的なアプローチを提供する。Furlanらは大きな血管閉塞を持ったPtで血栓溶解薬を動脈内注入して初めて結果の改善を示した。後に器械的血栓除去術はより有効で血管疎通を示し、今日の成功率は81~84%である。最近は動脈内薬理学的線溶法、ガイドワイヤーによる軟化、血栓の回収、血栓吸引、血管形成、ステント留置などずらりと並んだ血管内治療の選択肢がある。血管内脳卒中治療法の利用できる選択肢を選ぶことは難しくケースバイケースのバイアスが生じる。デバイスとその使用法に関しては重要な技術的差異があるから、たとえばあるデバイスはそれを採用するのにより精密さが求められるかもしれない。他のものはよりPtの不快感が生じるかもしれない。他のものは操作時間が長くかかるかもしれない。
○ 脳卒中を起こしたPtはしばしば重要な神経学的欠落を持っている。失語症になって会話することができないかもしれない。麻痺があるかもしれず、また眩暈があってそれにより重大な苦悩を生じるかもしれない。これによりPtは長時間の治療中に静かに横たわっていることを要求されるが、耐えるのは困難かもしれない。そしてPtが無動でいることができなくなったら画像の質が重大な低下を起こし、ロードマップ機能を利用できなくなり、カテーテルの動きに関した外傷や血管損傷さえ起こすかもしれない。これらの考えに応えるためにneurointerventionに麻酔が使用される。麻酔は意識下鎮静法(conscious sedation: CS)の形態を採るかもしれない。低用量の鎮痛剤と催眠剤、Ptの快適さを改善するが完全に無動化することはできない。気管挿管によるGAは完全に無動化するが著しい不利益もある。
・とりわけ最近の研究によればGAでAISのPtの血管内治療後の結果がCSと比較して悪いことが示された。もしこの所見が本当なら急性脳卒中の間の麻酔を選択する時に重要な枝分かれが生じるかもしれない。このように我々は初めに最近の臨床データを示して、GAによる結果が悪い点のメカニズムすなわち血行動態の変化、神経毒性、治療の遅れ、長期化する気管挿管などが推測される。これらとその他の検討の後にAISのPtの麻酔を使用する際の合理的なプロトコルが作られるべきである。
○ 臨床研究:AISあるいは他の脳血管疾患の血管内治療におけるGAとCSの比較についての前向き、無作為化研究はない。しかしながら最近の後ろ向き研究はいくつかの興味深いデータを示しこの議論について論争に火をつけた。
・最近、血管内治療神経医はAISに対するインテーベンション治療を受けるPtに対してGAまたはCSの使用を混用しているように見える。McDnaghらによる最近の神経医のメンバーThe Society of Vascular and Interventional Neurologistの調査では回答者のわずか6%だけがGAをもっぱら使用していた。しかし回答者の55%はGAは器械的血栓除去を行うときには必須であると考えている。このGAの優先性は体動を制限する事がインターベンション操作をより安全で効果的にするという想定に基づいている。GAと無動化はより大きな画像の質をもたらし操作時間を減らすが、手術処置の開始の遅れという制限にも気づくことになる。
・周術期の鎮静と結果の関係は3つの最近の研究で明らかにされた。Nicholsらは鎮静の実際について研究した。81名のPtで75名の鎮静のデータが得られた。鎮静のスケール分類は1.鎮静なし、2.軽度鎮静、3.強い鎮静、4.薬理学的麻痺に分けられた。43%(n=40)は鎮静なし(grade1)、23%(n=17)は挿管/麻痺(grade4)。より高い鎮静カテゴリーになったPtはNIHSSの基準も高いもので、より強い脳卒中の状態を示唆していた。軽度の鎮静のPtはより良い結果を示しており、より再灌流率が高く、死亡率が低かった。基礎となる神経学的状態は多変量解析すると軽度か鎮静なし(grade1 or 2)は臨床的結果良好で高度鎮静が麻痺または死亡の独立予測因子であった。
・Jumaaらは中大脳動脈MCAの閉塞によるAISで血管内治療を受けた126名のPtで後ろ向きに検討した。鎮静レベルを挿管+(42%)、非挿管(58%)に分類。非挿管はICU滞在がより短く、梗塞量も少なく、臨床転帰が良好で、在院死亡が低かった。合併症は挿管群6%、非挿管群15%で有意の差はなかった。
・最も大きな研究はAbou-Cheblらによって行われたもので、多施設、後ろ向き、急性脳卒中の980例のレビュー報告。GAがすべてのPtの44%で使われた。これらのPtは内頚動脈の終着端の閉塞でNIHSSのスコアも高かった。頭蓋内出血率はGAとCSで差はなかった。しかしGAは不良な神経学的転帰の独立因子であり多変量解析で高い死亡率を示していた。
・限られた出版されたデータによれば、CSはAIS以外の疾患で神経インターベンションを受けるPtでは十分で安全であるかもしれない。Ogilvyらは340例のPt(92.2%)はCS使って待期的脳動脈瘤塞栓を行った。有病率も死亡率も低く、入院期間も短かった。さらに加えて頭蓋内血管狭窄に対して血管形成とステント留置を行ったPtの中ではGAとCSの合併症と効果は同等であった。もちろんこれらの待期的治療を受けるPtたちは典型的にはAISのあるPtより快適で協力的であり、これらの手術処置は緊急の状態で行われたのではない。にも拘らずこれらの報告は麻酔されていないPtで神経インターベンション手術処置の実行可能性に光を当てている。
・これらの後ろ向きデータはAISの血管内治療の結果がGAの使用でより悪くなっているというエビデンスを示している。もちろんこの論争に最終的答えを出すためには前向きのデータが必要であろうが、無作為試験を行う事は難しいであろう。しかし、もしこれらの3つの試行のデータが正しいのであればGAとCSの間の結果の差の理由は何であろうか。いくつかの可能性としては、血行動態の変化、治療の遅れ、長期にわたる気管内挿管、神経筋遮断薬、麻酔薬自体の神経毒性などを含むかもしれない。
○GAの血行動態の影響:GAは全身的および脳に及ぼす効果の範囲を持っているが、脳卒中急性期に最も歓迎されない効果は低血圧である。AISの状況において閉塞した動脈は局所的脳虚血を生じ、全身血圧の減弱は(脳潅流圧)側副血行の減弱を起こす。それは完全な梗塞を促進する。典型的に最も明白な血圧の低下は導入直後に起こる。ある種の麻酔薬の使用と全身状態ではこの血圧の減弱は血圧の基線の低下を伴う。導入後の低血圧は待期手術においても入院期間の延長と死亡率の増加に関与している。この様にGAが急性脳卒中Ptに使われた時、特に導入後に血圧は厳重にコントロールされるべきであり、予め定義されたパラメータを使って、血圧の基線、脳卒中症候群、患者の一般健康状態の説明がなされるべきである。
・Ptの血圧の基準値は特に重要で、脳血流は限られた範囲内で自己調節されているので、この範囲を超える低血圧は脳虚血へと導かれる。特に脳卒中の状態で側副血行の利用性が減っている場合にはそれ故に麻酔導入時における血圧低下は重要な側副血行の可能性を低下させる。血圧低下を伴った未知のリスクへの最も安全なアプローチは、Ptは細い側副血行路を持っているとして導入前の基準の血圧を保つようにすることである。これはAISインターベンション中は高血圧を保つことになる。
・全ての麻酔薬は幾分かの低血圧を起こす。それらは脳血管や頭蓋内圧に対する効果を変化させる。特にハロゲン化吸入麻酔薬(イソフルラン、セボフルラン、デスフルラン)は脳血管拡張作用があり通常の脳血流量と脳代謝率の関係を維持しない。。この様にそれらは脳代謝率を抑制するが相対的充血を起こす。これは頭蓋内圧の亢進したPtで重大な関係があるが、通常の頭蓋内圧である多くのAIS Ptではそうでない。低炭酸ガス血症hypocapniaで呼吸管理したPtはハロゲン化吸入麻酔薬の血管拡張効果を埋め合わせることができることに気付くべきである。
・ハロゲン化薬物とは対照的にpropofolは脳の自己調節能をより良く保持する。それゆえpropofolで脳代謝率は減少し、脳循環血液量は比例して減少する。一酸化窒素Nitrous oxideは急性脳卒中のインターベンションでは脳血管の空気塞栓を起こすのに関係するので避けるべきである。
・ハロゲン化麻酔薬とpropofolは血管拡張によって投与量に比例した全身的低血圧を生ずる。それは特に導入時に明らかになる。Propofolはetomidateのような他の導入薬に比べて導入後の低血圧を生じる。Etomidateの使用はAISの状況では好ましいかもしれない。この脳潅流圧の低下は血管収縮薬の同時使用を必要とする。不幸なことにAISインターベンションの間に術中血行動態の治療を制御するための、まさに治療するための脳潅流モニターの十分なものはない。それ故、導入前に血圧パラメータを決定し、昇圧薬で迅速に低血圧を修正するのは重要である。あらかじめ決めた血圧の目標を基準にして最終的には低炭酸ガス血症や高炭酸ガス血症のような過剰の血管収縮や血管拡張に貢献するような他の要因は避けるべきである。
・無痛はGA及びCSの重要な構成要素である。Opioidは典型的にこの目的のために使用されている。Remifentanilのような短時間作用性のopioidは蓄積性がないので(すなわちcontext-sensitivityの欠如)急性脳卒中に適している。低血圧はここでも副作用でありひんぱんにモニターしてフェニレフリン、ノルエピネフリン、エフェドリンなどの昇圧薬を使用しなければばらない。
○ 戦略的考察:閉塞した頭蓋内血管の血管内治療の緊急供給は病院内で一緒に働いている多くの臨床的サービスを含む、効果的なヘルスケアの供給システムが求められる。救急部門、画像部門、脳卒中部門、インターベンション部門の総合的ケアは挑戦的で時間がかかる。レベル1の緊急のPtのケアをする経験のある麻酔チームを直ちに利用できるのは重要である。残念ながら多くのセンターでこれはいつもできるわけではない。血管内治療の部屋は通常、主な手術室から離れていることが多い。麻酔チームが迅速に反応する能力を引き延ばしている。特に供給スタッフのレベルが限られている時に起こる。麻酔ケアを供給するときに設備と薬物は神経インターベンションの区域でも利用できるようにすべきである。手術処置の開始を遅らせるような要因は何でも有害である。麻酔チームが急性脳卒中インターベンションに、血管内治療の部屋の環境に精通しているかどうかは、特に時間外にかなり変ってくる。それ故、血圧の目標や麻酔導入時や気管挿管の予測時間などのパラメータの相談は前もってしておくべきである。
・CS(意識下鎮静)はAISインターベンションに対して世界中のセンターで使われている。しかしCSの使用にはいろいろな心配が起こってくる。協力的で無動化したPt状態を作る鎮静の最近の管理はPtによって異なる。
・加えてPtは待期的な脳血管内処置を受けるように絶食にはしていない。このことは鎮静して仰臥位になる時に胃内容の誤嚥に関与してくる。過鎮静、神経学的衰退、気道の感染や興奮などと関連して緊急気管挿管の必要性が生じてくるかもしれない。血管内処置中にGAに緊急変更することは低酸素血症や誤嚥を起こすかもしれず気管内挿管に技術を持った臨床医を必要とする。
・全身麻酔はこれらの問題の多くに対し、論理的で表面上は魅力的な解決法でPtは深く鎮静され、気道は保護され(気管内挿管)ている。しかしながら潜在的に重要な否定的な面がある。議論したようにGAの使用は再潅流治療の開始を遅らせてはならない。さらに神経学的検査ができず、処置は臨床的endpointよりも放射線的endpointに進まなくてはならない。上に述べたようにGA中の気管挿管の必要性は後ろ向き研究でICU滞在時間、肺炎及び死亡率の増加に関連している。これは一部には処置後に気管挿管のままICUにPtを移送することによるかもしれない。そのため離脱が遅くなる。人工呼吸器関連肺炎の進展は気管挿管が長くなると増えることが知られている。処置後ただちに抜管することで神経学的検査ができ、合併症の可能性を避けることができる限り目標にすべきである。
○ 処置中の麻痺:血管内治療は血栓溶解や血栓除去のためにカテーテルやデバイスの安全で効果的な供給のためにPtの動きを最小にすることが要求される。2つの理由があり、第1はPtの動きは画像にアーチファクトを生じ、血管造影の像が解析困難になる。解剖と閉塞部位の明確な画像を得るために繰り返される撮影の時間的損失は重大な遅延に数えられる。第2に器械的なデバイスを使った操作の重要な部分でのPtの動きは血管損傷の合併症につながる。Ptの動きを最小にする目的のためにGAはCSやモニターされた麻酔に勝る。
・麻酔科医は気管挿管を容易にし、処置中の安全を確保し頸部及び頭蓋内血管の最適な可視化を得るために神経筋遮断薬を使う。
・急性脳卒中のPtでは神経学的検査を処置後ただちに行うことを希望され使用された神経筋遮断薬は簡単に拮抗されるべきである。Cisatracurium、ベクロニウム、ロクロニウムのような中間(時間)作用薬が好まれる。神経筋遮断薬の深さは操作中モニターされるべきで拮抗は最後に行われるべきである。処置の進行中の気管内挿管は避けるべきである。さらにアトラクリウムのような古い薬剤はヒスタミン遊離作用(低血圧を起こし脳潅流圧CPPを減らす)があり、避けるべきである。
○ 麻酔薬には神経保護作用があるか神経毒性があるか:AISインターベンションにおけるGAについての疑問にさらなる複雑さを加えるものとして麻酔薬自体の長期効果について考えなくてはならない。麻酔薬の神経保護効果については多くの文献がある。30年にわたるほとんどはバルビツレートとイソフルランに関するものである。実際、リス モデルにおける局所虚血(すなわち急性脳卒中)については神経保護効果の強い証拠がある。心停止後のバルビツレートの神経保護についてのヒトでの試験は否定的であるが急性虚血性脳卒中における全身麻酔の神経保護的か神経毒性効果の明らかな証拠はない。
・より最近は麻酔薬特にイソフルランの潜在的神経毒性効果に対する関心が大きくなっている。細胞培養とリス モデルでイソフルランがアルツハイマー病の病態生理的過程の一つであるβアミロイドのoligomerizationを促進するという証拠がある。それは新生動物naonatalと老齢動物elderlyで神経毒性を生ずる。N2O笑気とケタミンも関与しており、動物研究のデータでは毒性はNMDAレセプターアンタゴニスト(すなわちケタミン)が成人及び老齢のリスのニューロンの空胞化を生じた。ヒトでの研究はリスクのある世代で進行中である。
・我々の知識では急性虚血性脳卒中における麻酔薬の神経毒性に関してのデータはない。せん妄や術後認知障碍のような共通の周術期の神経学的合併症も同様に不明である。
・AISのPtにおける全身麻酔の神経保護的あるいは神経毒性効果の直接的研究は困難である。しかしながら虚血性脳卒中集団におけるアウトカム研究は神経系に対する全身麻酔の短期および長期の影響を定義しなければならない。加えて動物の脳卒中モデルは麻酔薬の神経毒性の潜在的機構を探求するために利用されるべきである。
・それとは別に神経保護の議論は治療的低体温法の考え以外は不完全である。AISインターベンションにGAを使用することは治療的低体温法の急速な導入を促進させるだろう。しかしながら今日までのところ早期の可能性のある試験が導入されている。AISのPtの利益を示唆するような納得できるヒトでの証拠はない。今日のゴールはAISインターベンション中に正常体温を維持することである。
○ 考察:急性脳卒中の治療は有意義に発展してきた。ケアの全体系は再疎通治療の供給を支持するために発展している。それは医師、病院、企業、法的努力を含んでいる。これらのシステムはケアの構造と虚血性脳卒中を治療する我々に利用可能な資源リソースを改善したが、各個人の治療はまだ十分な治療の迅速な救急に対する挑戦をもたらす。このような一つの挑戦はAISのPtのための麻酔が関与する決定である。この意思決定は神経学的状態、気道、処置に対する協力ができるかどうか、予測される技術と時間、周術期ケアの計画、その他の評価も含んでいる。そしてこれらの個人的Ptの因子を超えて治療の遅れ、血行動態的不安定性、処置中の神経学的検査の欠落などGAの全般的リスクを考えなければならない。最近のデータに照らしてみてGAの使用は悪いアウトカムを伴っているかもしれない。AISインターベンションにGAを使用することのRCT研究は治療をガイドする高いレベルの証拠を提供するであろう。しかしその間に鎮静のタイプを含めて鎮静を選択することに影響する因子と鎮静法に関する合併症が、AISインターベンション試験に前もって集められなくてはならない。これはAISインターベンション後のアウトカムに対するGAの影響に関する中等度レベルの証拠になるであろう。
・我々を導くより良い証拠を持つまでは、それぞれのPtに麻酔の選択を個別化しなくてはならない。GAはきびしい神経欠落や気道の問題や球麻痺があるようなPtによりふさわしいかもしれない。CSは軽度の神経欠落のあるPtや血行動態が弱々しいPtでより適当かもしれない。気管内挿管を伴ったGAのGAの否定的な潜在的影響を最小化するために神経血管内治療医と麻酔科医は禁忌がなければ終了時に抜管すべきである。この症例の始まる前に血行動態について同意しておく。理想的には各症例の処置の開始に先立つ長い計画や議論の必要性を避けるために施設の治療プロトコルを決めておくべきである。実際、GA対CSの使用は臨床症状、予測される処置の技術、術後ケア計画を組み込んだプロトコルに基づくべきである。虚血性脳卒中のPtの治療における標準化されたプロトコルの使用は彼らのケアを改善し、我々はAISのPtに対する安全で効果的な血管内治療を支持する麻酔プロトコルの使用を主張する。
◇ Michael T. Froehler et al. Anesthesia for endovascular treatment of acute ischemic stroke. Neurosurgery September 25, 2012 Vol.79 No.13 S167-S173            <4/10/2015>

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50.04.04. TIVAと術中覚醒

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50.04.04. TIVAと術中覚醒
100.04. 術中覚醒
○ Accidental Awareness during General Anesthesia
・頻度は可能性のあるものを含めて1:20,000
・神経筋遮断を行っている場合(筋弛緩薬) 1:8,000、未使用では1:136,000
・全身麻酔の帝王切開1:670
・術中覚醒の2/3は麻酔導入時または覚醒時。麻酔維持中は1/3
・一般の症例に比べて女性症例、術中覚醒の前歴のある症例、ASAのハイリスク症例で多い。
・TIVA中の術中覚醒には静脈路のトラブル、薬の調整法の誤り、ポンプ作動異常など技術的問題に起因するものも多い。
・吸入麻酔からTIVAに移行した場合にも多い
・一般に麻酔維持に必要なpropofolの濃度は1.5~6.0㎍/mLと幅が広い。
・TIVAにおけるpropofolの投与法はマニュアル法、TCI法。どれが最適か決まっていない。
・吸入麻酔よりTIVAの方が術中覚醒を起こし易いとの報告が多い。
・propofolが海馬のLTPを抑制する濃度は導入量よりも高い。吸入麻酔薬は麻酔濃度以下で抑制する。海馬は記憶を司る組織。
・ケタミンをTIVAに加えるとLTPの抑制が強調されるためpropofolにketamineを加えると術中覚醒が少なくなる。
・吸入麻酔薬は呼気終末濃度がリアルタイムにモニターでき、吸入麻酔薬が途切れることなく送られているか監視できる。
○ TIVAにおける術中覚醒の予防法
・RF 0.2~0.3㎍/kg/minで開始 BISモニター
・ketamine 0.5~1.0mg/kg ゆっくりiv
・2~3分観察して
・propofol 0.5~1.0mg/kg iv
・propofol 5~7mg/kg/h civ
・Rb 0.6mg/kg iv
・挿管
・RF 0.05~0.1㎍/kg/min civ
・維持: propofol 5~7mg/kg/min civ + RF 0.1~0.3㎍/kg/min civ
◇ 櫛方哲也:TIVAと術中覚醒 臨床麻酔 Vol.39, No.3, 2015, p487‐491         <4/6/2015>

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50.04.02. 脳外科手術におけるTIVA

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50.04.02. 脳外科手術におけるTIVA
・脳の機能局在のモニターとして、電気生理学的モニタリングとPtを一時覚醒させ機能評価を行うawake surgeryが施行される。プロポフォールとレミフェンタニルによるTIVAはこれらに適した麻酔法である。
・レミフェンタニルremifentanil (RF)は脳血流量や頭蓋内圧への影響が従来のopioid同様少ない。二酸化炭素反応性も保たれる。
・RF大量投与では平均動脈圧を低下させ脳還流圧は低下するので注意が必要。
・揮発性麻酔薬はSEP,MEP共に抑制する。
・fentanylでは筋弛緩薬の制限を行った時は体動の危険性がある。
・fentanylは長時間麻酔になった時にcontext-sensitive half time(CSHT)の延長をきたす。
・脳外科手術後の覚醒後の呼吸抑制は脳血流量の増加から頭蓋内圧上昇をきたす可能性があり、避けねばならない。RFは投与時間が長くなってもCSHTは約3分
○ Propo + RFによるTIVA
・[導入] propoはTCIで投与。通常初期目標血中濃度は3㎍/mLであるが、2㎍/mlに設定。
・通常麻酔ではRF投与開始後にpropoを開始することが多いが脳外科手術ではpropoの感受性評価のためpropoから開始する。
・入眠時効果部位濃度(ECLC) 1.2±0.4㎍/kg、非脳外科手術では1.5±0.4㎍/mL。覚醒時の効果部位濃度は1.3±0.3㎍/mL。
・ECLC確認後は目標血中濃度をECLCの2倍程度に設定、以後はほぼ一定とする。
・Rv投与
・RF 0.25~0.5㎍/kg/minで開始。
・挿管時の血圧上昇を避けたいときはRF 1㎍/kg bolus ivする。
・揮発性麻酔薬で麻酔維持する場合は
 RF 0.25~0.5㎍/kg/minで投与開始後
 Propo 1mg/kg iv +吸入麻酔薬開始
・気管挿管時の循環変動を抑えることができる→頭蓋内圧亢進や脳動脈瘤破裂を避ける
・低血圧と除脈に注意 エフェドリン、アトロピンを用意、緊急手術例や高齢者ではpropo、RFを減量する。
・[麻酔維持]
 挿管後RF 0.25㎍/kg/minで維持。
 頭部ピン固定時、手術開始前にはRFを増量するか 0.5~1㎍/kg追加投与。
・開頭時はBP↑が抑えられるまで高用量RFを投与、0.25~0.5㎍/kg/minが必要なことが多い。
・開頭後、顕微鏡操作時はRF投与量を減量し、0.1~0.25㎍/kg/min程度で維持可能。
・MEPや脳神経モニターのため筋弛緩薬の使用制限あるいは中止する症例では0.25㎍/kg/minを目標に高用量で維持する。
・propoの目標血中濃度はECLCの2倍程度で維持する。
・[覚醒]
・皮膚縫合が始まった時点でpropoの目標血中濃度をECLCの1.5倍程度に減量。
・RFは維持量を継続し、ピン固定が抜去された後、RFとpropoを中止する。
・BP↑する症例では少量のRF投与、0.05~0.1㎍/kg/minを継続。
・[術後疼痛対策]
・フルルビプロフェン(ロピオン=NSAIDs)は脳循環に大きな影響を与えない。
・投与後7分で血中濃度は最高となり、半減期6時間。
・手術終了前、頭皮の縫合時に50mg ivする。
・transitional opioid
モルヒネ0.08~0.1mg/kgを硬膜縫合から皮膚縫合前後に投与。
 フェンタニル 1~2㎍/kgを創縫合時に投与。覚醒後早期に作用が消失するのでフェンタニル持続ivあるいは他の疼痛対策を併用する。
・創部の局所麻酔、手術終了時に支配神経ブロック
 長時間作用性ロピバカイン(0.75%)、エピネフリン添加ブピバカイン(0.325%) 20mL
◇森本康裕:脳外科手術におけるレミフェンタニルの使用法 日臨麻会誌 Vol27, No4, 2007. P395-401   <2/24/2015>

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110.01.06. 感染症チェック

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110.01.06. 感染症チェック
○ 入院時の肝炎ウイルス検査は院内感染対策の一環として行われる。通常、HBs抗原とHCV抗体の検査で十分であるが、原疾患または治療により宿主の免疫能が強く抑制される場合はこれらに加えHBc抗体と、HBs抗体の検査を行う。HBc抗体またはHBs抗体(ワクチン接種による陽性は除く)が陽性の場合はde novo肝炎を発症する危険があり注意が必要となる。
・HBs抗原:HBVの表面抗原である。HBs抗原が陽性であるということは現在HBVに感染していることを示す。
・HBs抗体:HBs抗原に対する中和抗体としてHBVに対する感染防御機能をもつ。HBs抗体陽性者には原則として再感染は起こらない。HBs抗体が陽性であることは過去にHBV感染を受けたこと、またはHBワクチン接種を受けたことを示す。
・HCV抗体(第2世代、第3世代):HCV抗体はHCV感染者で広く陽性になるのでそのスクリーニングに適している。過去の感染でも陽性(低抗体価)となるので最終的にはHCV RNA測定による確認が必要である。
・IFN治療後などにHCV RNAが陰性化するとHCVコア抗体価は有意に低下する。
[注釈] 慢性C型肝炎でINFなどの抗ウイルス薬で治療し、治癒したと判定されてもHCV抗体は年余にわたって陽性を示す(低値であっても)ので注意が必要である。
◇日本消化器病学会 肝機能研究班:研究会報告 肝疾患における肝炎ウイルスマーカーの選択基準(4版) 日消誌 2006;103:1403-1412    <3/18/2015>

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130.11.02. 肺結核Ptの麻酔

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130.11.02. 肺結核Ptの麻酔
○ 手術Ptが肺結核であると分かっている場合の麻酔
・陰圧空調手術室
・できるだけその日の最終の手術に
・手術室の全員がN95タイプマスク(0.1~0.3μmの微粒子を95%以上除去できる)
・気管挿管チューブ、麻酔回路はディスポーザブル
・呼吸回路と麻酔器本体、および回路とPt気道の間にバクテリアフィルター
・抜管操作時に咳嗽発作を生じさせる加圧抜管は行わない
・気管内吸引操作は手際よく行い、吸引カテーテルは非常に感染リスクが高いので取り扱いは慎重に行う
・手術室内外でTB菌に曝露した危険性がある場合、検査/診断/治療へと進む
・QuantiFERON(QFT)をスタンダードな結核診断検査としている。ツベルクリン反応はBCG接種の影響を受ける
◇河内正治:感染源患者の管理 結核とわかっている患者の緊急手術 空気感染防止のために、呼吸器系からの分泌物への対処に重点を置く LiSA,vol 20, No7, 2013, p644-648     <3/13/2015>

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130.11.03. 非結核性抗酸菌症のPtの麻酔

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130.11.03. 非結核性抗酸菌症のPtの麻酔
○ 非結核性抗酸菌症 non-tuberculous mycobacteriosis: NTM
・10年ほど前までは非定型抗酸菌症と呼ばれていた。
・Mycobacterium avium 58%, M. intracellulare 25%, M. kansasii 8%。M. aviumとM. intracellulareは臨床像、治療法、治療効果、予後に全く差がないので、Mycobacterium avium complex (MAC)という。
・NTMは土壌や水回りに生息してヒトへの感染は自然環境から生じる。ヒトからヒトへの感染が広がることはないのでPtの隔離や保健所への届出は不要。
・抗酸菌のうち結核菌だけがヒトからヒトへ感染する。
◇ 鈴木克洋 非結核性抗酸菌症 感染症治療up to date 日本医師会雑誌 第143巻特2 2014、pS334-S338
[注釈] NTMとわかっているPtでは麻酔終了後にPt側のバクテリアフィルターと呼気側のフィルターがあれば、それと蛇管(回路)を処分すれば良いということ。
結核菌の出ているPtでは結核菌は空気感染するので周辺の消毒処置や、手術室の換気(フィルター)まで問題になってくる。      <3/11/2015>

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204.05.01. [経験]下垂体腺腫 TransSphenoidal Surgery(TSS) 術式の変化


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○ 204.05.01. [経験]下垂体腺腫 TransSphenoidal Surgery(TSS) 術式の変化
・Minimal invasive surgrryの方向に進んでいる。下垂体腺腫自体が良性の疾患であり、特に非機能性の選手の場合は当面の神経症状などが取れればよいと考えているようである。
・以前に経験したM病院で行われていた手術と現在勤めているJ病院では術式が異なっていた。
・上口唇内側の切開剥離のapproachではないので、口腔(口唇)は術野に入らない。しかしbite blockは使わない。
・鼻腔からのみのapproach。
・腫瘍自体がbenignであり、あまり大きく切除することはない。
・鼻漏や出血はメロセルヘモックスの鼻孔挿入のみ。
・蝶形骨洞内の充填用の脂肪組織の大腿部からの切除は行わない。
・従ってOPEは突然終了する感じあり。         <3/2/2015>

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10.07.04. デスフルラン


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10.07.04. デスフルラン
○ 10.07.04.01. Desfluraneの使用経験
・BIS monitorを観ながら、Desの吸入・呼気濃度をみながらDes気化器の表示3~4%で調節する→従って脳外科麻酔では使用しにくい。
○ AOD+Remifentanil(ultiva)
・fentanyl 100~150㎍ + propofol 100mg + Rb 50mg ⇒挿管
・O2; 1L/min + Air; 2L/min
・Desflurane 3%~4%
・Remifentanil(ultiva) 0.5㎍/kg/min
・BIS 40~60に調節
○ すぐ覚醒する→腹部手術後にXR撮影後もXRが確認されるまでDesを切ることができない。
・Desfluraneの濃度は3%でもBIS値が40以下になることが多い。  

○ デスフルランの薬物動態
・血液/ガス分配係数 0.45とN2Oに近い。揮発性麻酔薬の中で最も小さいので導入・覚醒が最も早い。
・Desの組織/血液分配係数はN2Oより高いのでN2Oより導入・覚醒は遅い。他の揮発性麻酔薬よりDesの臓器組織/血液分配係数が小さいので「スッキリ」した覚醒感をもたらす。
・Desの体内での代謝される割合は0.02%未満で臓器(肝臓)負担も他の揮発性麻酔薬より少ない。
・高い吸入濃度で開始する必要性は少ない。
・呼気終末濃度(中枢神経系での分圧)に注意して厳重に追跡する必要がある。
・低流量麻酔に向いている。(総流量2L/min以下を低流量麻酔とする。
・気化器のダイヤルの濃度目盛ではなく麻酔ガスモニターの濃度を見ながら、気化器のダイヤルを調節する。
・個体差が少なく、肥満であっても他の揮発性麻酔薬に比べて薬物動態への影響が少ない。
◇安田信彦:デスフルランの薬物動態 LiSA vol20, No1, 2013. P12-15
<3/2/2015>

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80.17.02. 悪性高熱症 Malignant Hyperthermia (MH)

<>目次
○ 80.17.02. 悪性高熱症 Malignant Hyperthermia (MH)
・体温モニタリングの必要性。MHは麻酔中いつ発症するかわからない。 p172
・吸入麻酔薬はMHの素因があるとMHを誘発する危険性がある。  p191
・MHの既往を持つPtに対してはSCCは絶対禁忌。SCC投与後に咬筋が弛緩しない、全身の筋が強直するといったことが起こればMHの発症を疑わなければならない。 p197
・SCCでMHが起こる可能性も高いが術前にどのPtがMHを起こし易いか予測できる検査はない。 p212
・高熱とは2℃/hまたは0.5℃/15min以上の体温上昇をいう。術中は体温が低下するのが通例なので体温が上昇した時は原因を調べてみるべきである。MHが疑われる場合はダントロレンを投与する。 p316
・骨格筋系に異常があるPtではMHが起こる危険性が高まる。家族歴を十分に聴取し、MH早期発見のために、心拍数、ETCO2、換気パラメータ、体温を注意深くモニター p463
・術後回復室での高体温の原因:感染、輸血反応、甲状腺機能亢進症、MH、悪性症候群などがある。 p627
◇ MGH麻酔の手引き 日本語第5版. 稲田英一訳,メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京:2008.

・MHの第1の特徴は筋代謝活動の暴走。1960年代、DenboroughとLovellの報告。遺伝的素因を持ったPtに揮発性麻酔薬とSCCを投与した場合に発症。
・リアノジン受容体(RYRI)の機能異常により骨格筋内のカルシウム放出が過剰となって引き起こされる。臨床的Dxは筋生検によるカフェイン-ハロタン収縮試験か遺伝子診断。
・Malignant Hyperthermia Association United State(MHAUS)によれば2005年USA内で年間12人の確定Ptと10人の疑いPt.
・MHは麻酔中から手術直後までいずれの時点でも起こる。家族歴聴取が大事。
○たとえ初めて悪性高熱症に出くわしたとしても、麻酔科医は適切な対処を行うべきことが、医学的あるいは法律的な観点から求められている。
・MHの可能性を考えるうえで最も頼りになる指標は呼気終末二酸化炭素濃度の異常上昇。EtCO2が2倍あるいは3倍に上昇(数時間かけて上昇する場合もある)
・咬筋強直で気付くこともある。続発する症状として頻脈、不整脈、血圧の不安定化や上昇、チアノーゼ、皮膚斑紋出現、ミオグロビン尿、頻呼吸など。
・全身性の筋強直はMHの特異的症状。劇症型は呼吸性・代謝性の混合型アシドーシスを示し、遅れて体温上昇がみられる。上昇スピード速く43℃超えも稀ではない。
・横紋筋融解症や播種性血管内凝固(DIC)も合併しうる。
・MHの主な死因はアシドーシスや高カリウム血症による心停止。ダントロレンが使用されるようになってからは、死亡率は10%未満になった。
◇James C Opton 悪性高熱症に対する対応:体温が上昇してからでは遅い 術中および周術期の管理  麻酔科エラーブック 第1版 2010.10.25. Catherine Marcucci編 有澤創志訳 メディカル・サイエンス・インターナショナル 東京 p313~317  <2/16/2015>

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